病気と闘う子どもたちを支える「ファシリティドッグ」の存在を知っていますか?専門的な訓練を受けて病院など特定の施設で活動する犬で、欧米では導入が進んでいますが、日本ではまだ6頭しか導入されておらず、西日本には1頭もいません。そんななか、関西で初めて導入する病院を取材しました。子どもに寄り添うことで生まれる効果とは。
入院中のストレスを和らげる「ファシリティドッグ」のタイ
静岡県の県立こども病院。15歳までの子どもの治療を中心に行っていて、がんや心臓病など高度な専門的医療を必要とする子どもたちが多く入院しています。
この病院では、1頭の「犬」が働いています。ゴールデン・レトリーバーのタイ(6)。闘病中の子どもたちを支える「ファシリティドッグ」と呼ばれる犬です。
タイが訪れたのは、心臓の病気で入院を繰り返すゆのちゃん(5)の病室。この日は、ボールを使ってゆのちゃんと遊びます。
ファシリティドッグは、特定の病院に所属して活動します。ハンドラーと呼ばれる看護師などとペアで、入院している子どもと遊んだり寄り添ったりして入院中のストレスを和らげるのが主な仕事です。
(ゆのちゃんの母)「1か月くらい入院していたときにも、タイくんと会ったときには楽しそうにしていた。今回も会えてよかったね」
「勇気を分けてくれる」検査や注射などにも付き添う
こども病院には、抵抗力が弱っている患者も大勢います。ファシリティドッグは、病棟を移動する際には毎回、体を消毒します。患者の体をなめたり、飛びついたりしないよう訓練されています。
検査や注射などにも付き添います。不安を和らげることで、治療をスムーズに進めることができます。
(白血病で通院中 ゆうまくん8歳)「注射とかしてくれるときに、タイちゃんがきて見守ってくれる。勇気を分けてくれる」
(ゆうまくんの母)「気分の浮き沈みが薬の副作用で多かったけど、『タイちゃん来たよ』というと、パッて顔がかわって、タイちゃんが来てくれるなら頑張ろうかなとか、前向きに動けるきっかけになってくれた」
心のケアだけでなくリハビリの手伝いも行います。交通事故に遭い手術をしたため、膝の曲げ伸ばしがしにくいれおんくん(15)。タイが拾ってきたダーツの矢を膝を曲げて受け取ります。犬と遊ぶことがそのまま、リハビリになっているのです。
(れおんくん)「隣にいてくれたり、触ったり。いつもよりかは痛みがまぎれる」
「小児医療を考えると、ファシリティドッグがいないのはありえない」
この病院は15年前にファシリティドッグを導入し、タイが3頭目です。導入の前から働く看護師・加藤由香さんは、ファシリティドッグが多くの子どものやる気を引き出していると感じています。
(看護師 加藤由香さん)「みんな嫌がる検査を、ベイリー(初代ファシリティドッグ)と一緒だったらあと100回やってもいいって言った子がいて、私だったらそんな言葉を言わせられない。泣きながらでもいいから、『病気を治したいからやるよ』というのが大事で、それを引き出せるのはすごい。小児医療を考えると、あの子たち(ファシリティドッグ)がいないのは、ありえないと思う」
この病院の医師や看護師などを対象に行われたアンケートでは、ファシリティドックと関わったことがある回答者の7割以上が、子どもが注射を拒否しないなど「患者の協力が得られやすい」と評価しました。
導入に向けてクラウドファンディングで寄付募る兵庫県立こども病院
入院中の子どもの大きな力になると期待されるファシリティドッグ。しかし、国内ではまだ6つの施設に1頭ずつ計6頭しか導入されておらず、西日本には1頭もいません。
普及を阻む大きな要因になっているのが「費用」です。導入にあたっては、犬の育成や院内の環境整備などに約2000万円、さらに、ハンドラーの人件費や犬の健康管理などに年間1000万円ほどかかるといいます。
そんななか、ファシリティドッグの導入に向けて動き出した病院が神戸にあります。
(兵庫県立こども病院 飯島一誠院長)「毎日子どもたちが少しでも前向きな気持ちで治療に向かうことができるよう、安心して長期入院を過ごすことができるよう、ファシリティドッグの導入を目指します」
兵庫県立こども病院は、療養環境に課題を感じていましたが、費用の問題からこれまで導入を躊躇していたといいます。
(飯島一誠院長)「ずいぶん治療成績が良くなってきている。小児がんについても良くなってきている。じゃあ次どうするのという話になってきている。医療者だけではどうしても子どもたちの心の安定を完全に得るのはまだまだ難しい。そういう点ではファシリティドッグが入るのは、大きな意味があると思う」
苦しい経営状況のなかで、なるべく早く導入するため、初期費用の2000万円はクラウドファンディングで寄付を募ることにしました。
「小児病院にはふつうにいるのが、良い社会と思う」
5月12日、クラウドファンディングの募集開始にあわせて、兵庫県立こども病院に犬がやってきました。患者や家族にファシリティドッグについて知ってもらうためです。自然と笑顔になる子どもたち。病院で初めての犬とのふれあいを楽しみました。
(記者)「病院にワンちゃんいたらどう?」
(患者)「治療とかいろいろがんばれそう」
(記者)「ワンちゃん病院に来てほしい?」
(患者)「うん」
(記者)「どれくらい来てほしい?」
(患者)「まいにち!」
(保護者)「1日1日が結構大変なので、ちょっとでもいてくれると助かるのかなと思います」
(保護者)「私は来てほしいと思います。入院中の子どもたちの表情が変わるんじゃないかな」
犬のそばを離れない子どもたち。こども病院の院長は、ファシリティドッグがもたらす効果に期待をよせます。
(飯島一誠院長)「(子どもたちは)はじめ緊張していたみたいだけど、そのうち慣れてきて、最後は抱き着いていたから、やっぱり癒す力があるんだなと思いました。日本全国に広まってほしい。小児病院にはふつうにいるんだとなるのが、僕は良い社会と思う」