大阪市西成区で小学生7人が車にはねられ重軽傷を負った殺人未遂事件。発生から1週間が経ちました。なぜ相手が小学生だったのか、なぜ現場が大阪だったのか、当日の状況から振り返っていきます。

事件発生はGW真っただ中の午後

 事件が起きたのは5月2日午後1時半過ぎ、消防への1報は「子どもが何人か車にひかれた」という通行人からの通報からでした。

 現場は西成区千本中2丁目にある「千本小学校」の南東側、校門からほど近い場所でした。

 道幅は約3・7メートルの狭い一方通行の道を白いSUVの車が南向きに走行していた際、小学生の児童が歩いていた列に突っ込みました。警察などによりますと、小学2年生が5人(男児4女児1)、小学3年生が2人(男児2)、の計7人が車にはねられ、このうち小学2年生の女の子があごを骨折、小学2年生の男の子が左腕を骨折する重傷、その他の5人は打撲するなどして軽傷だということです。小学校は4時間目までの短縮授業で、児童らは給食を食べたあと下校していた最中でした。

逮捕されたのは東京都の28歳男「全てが嫌になり‥ひき殺そうと」

殺人未遂の疑いで逮捕されたのは、東京都東村山市の無職・矢沢勇希容疑者(28)です。警察によりますと、矢沢容疑者は、小学生らを無差別に殺害しようとして、大阪市西成区の路上で車を走行させ、小学生らの児童にぶつけ、重軽傷を負わせた疑いがもたれています。

警察の調べに対して、矢沢容疑者は、「すべてが嫌になったから、人を殺そうとして、乗っていた車で突っ込み、数人の小学校の生徒をひき殺そうとした」と容疑を認めているということです。

元刑事の男性『これはもう交通事故じゃない。最初から殺しにいっとる』

当時車が児童らの列に突っ込む様子を見て、容疑者をとりおさえて現行犯逮捕したのは、下校の見守りをしていた学校支援員の男性(70)でした。かつて大阪府警で事件を捜査する「刑事」でした。男性は児童らが車にひかれる直前、車が蛇行しながら進む様子を見ていました。

(学校支援員)「(白い車が)ゆっくり来たと思った瞬間、私らのほうにぶつかってきた。『これは危ない』と思って保護者も散らばって逃げたら、その車はわん曲するように、左の方へ(行った)。子どもたちは全然気づいてないから大声で『危ない!ひかれる!右寄れ!』って」

 その後、男性は衝撃音を聞いた後、「ぎゃーーーママ痛いーー」「わー」などはねられた児童らが泣き叫ぶ声が聞こえ、現場は騒然としていたといいます。周囲の大人が児童らの救護をするなか、男性は無意識のうちに矢沢容疑者を取り押さえる行動をとっていたと話します。

 (学校支援員)「(矢沢容疑者が)後ろのポケットから財布を出してきた瞬間、これは私何も考えてなかった。相手の手を引っ張っていたんです。そのまま引きずり出して、そしたら(矢沢容疑者は)すとーんと出てきたんですよ。子どもたちが倒れこんでいる、泣き叫んでる、血だらけ。これはもう交通事故じゃない。最初から殺しにいっとる。『殺人未遂で(現行犯)逮捕する』とその場で言ったんですよ」

「ふにゃふにゃ運転して‥」男は「放心状態だった」

現場は学校の正門を出た塀沿いの通学路。住宅街の中であり、事故の様子を目撃した人も当時、多くいました。下校していて目の前で事故を見たという小学生は、「車の大人の人がふにゃふにゃで運転しててん。端を歩いてたら、急にぶつかりそうになってん。前の2、3年生がけがしてて、頭から血が出ててん」と、当時の様子を振り返りました。

また別の目撃者は、「だんだん壁に向かって幅寄せしていって、子どもが挟まれているにもかかわらず進み続けたと言っていた。なかなか車から降りてこなかった、先生たちが出てくるようにと言っていた。放心状態のように見えた」と話していました。

また、現場にはブレーキ痕は確認されていないことから、強い殺意を持って犯行に及んだとみて、警察は犯行現場までの足取りなどについて調べています。

周辺の防犯カメラに車…レンタカーは本人名義で借りる

学校周辺にある防犯カメラには犯行時間1分前に矢沢容疑者が乗っていたとみられる車が通りすぎる様子が映っていました。またこの前にも複数の防犯カメラに乗っているとみられる白い車の様子が捉えられていました。

また、矢沢容疑者が犯行当時乗っていた白いSUVの車は、捜査関係者によりますと、事件2日前の4月29日に、JR新大阪駅近くのレンタカー店を訪れ本人名義で車を借りていたということです。捜査関係者によりますと、矢沢容疑者は大阪に到着後、「車中泊をした」とも話しているということです。

容疑者の父親「無職と聞き驚き」被害者には「申し訳ないという気持ち」

事件に至るまでにどのような背景があったのか。取材に応じた矢沢容疑者の父親は事件の一報を親族から聞き、「場所が大阪だし、同姓同名ではないかと思っていたが、住所や年齢が一致していた」「信じたくない」と話しました。

また、父親によりますと、矢沢容疑者は大学を卒業後、放射線技師の仕事に就き、その際に東村山市に引っ越したということですが、時々家族は様子を見に行っていたということです。

(容疑者の父親)「2、3か月に1回、連絡せずに息子の家を訪れていた。連絡するとうざいといわれるから。会える時と会えない時があった。でも仕事をして一人で暮らしているのなら大丈夫だと思っていた。なので、報道で『無職』と見て驚いた。私たちの認識では仕事をしている」

その息子は4月、突然実家に姿を見せたといいます。

(容疑者の父親)「急に実家に帰ってきたことがあった。平日だったので『仕事は?』と聞いたら、『休み』と言っていた。忘れ物を取りに帰ってきたようだった。悩みなどは特に言っていなかった」

自動車の免許はあるが、車は持っていないという矢沢容疑者。なぜ大阪に行ったのか…その理由は分からないという容疑者の父親は被害に遭った児童らを念頭にこう話しました。

「なによりも被害に遭われた方に対して申し訳ないという気持ちが一番。向こうの方がなんで、どうして、と思っていると思う」

また父親は「おととしの大晦日から元日にかけて自殺未遂をしたことがある」とも話していて、警察が動機などを慎重に調べています。

捜査関係者によりますと、矢沢容疑者が警察に対し、「事件直前の4月下旬、放射線技師として勤務していた病院を自ら辞めた」と供述しているということです。

「苦労せず生きている人が嫌だった」捜索で日記やノートを押収・動機解明なるか

また、捜査関係者によりますと、矢沢容疑者は「苦労せずに生きている人が嫌だった」という趣旨の供述をしているということです、矢沢容疑者が社会に対し一方的に恨みを募らせた可能性があるとみて調べを進めています。

8日午後1時ごろ、大阪府警の捜査員8人が東京都東村山市にある矢沢容疑者の自宅に家宅捜索に入り、午後4時前には捜索を終えて出てきました。ノートや日記など63点を押収したということです。

警察は今後、資料などを調べて、動機などについて詳しく調べる方針です。

なぜ事件の対象が小学生で、なぜ大阪を選んだのか、押収資料などから矢沢容疑者の動機などの解明が待たれます。