京都市内の病院で、赤ちゃんの頭が通常とは逆の状態、いわゆる「逆子」の状態を解消する手術を受けた後に胎児に重度の障害が残ったとして、家族が業務上過失傷害容疑での告訴状を提出していた執刀医について、警察は9日に書類送検しました。これまでの10か月間母親は、「真実を知りたい」その一心で息子のために頑張ったと思いを打ち明けました。
妊娠30週目で「逆子」と診断…執刀医の提案で「外回転術」受けることに
京都府内に住む千鶴さん(37)。4年半前に出産を控えていた千鶴さんは京都第一赤十字病院に通院していました。
千鶴さんは妊娠30週目の時、赤ちゃんの頭が通常とは逆の「上」にある状態、いわゆる”逆子”と診断されました。逆子の場合、早産の可能性や胎児の頭が産道に引っかかるケースがあることなどから出産が難しくなる恐れがあるため、千鶴さんは2020年12月、”逆子”を直そうと「外回転術」と呼ばれる医療行為or治療を執刀医から提案され、手術を受けることを選びました。
外回転術とは、妊婦のお腹の上から胎児の頭部と臀部を持って回転させ逆子を矯正するものです。「外回転術」の成功率は約40%と半分以下とされていて、早期の胎盤剥離や子宮破裂などリスクが伴うと専門家は話します。
(京都産婦人科医会 柏木智博会長)
「外部から力を加えるわけですから、非常に危険な状態が生じる可能性もあるので、エマージェンシー(緊急事態)に対応できる設備があるところでやるのが原則。お腹の中で回転させて頭位を変えるというのはそんな簡単なことじゃないんです」
手術は失敗…施術後に『心拍数のアラーム』胎児は低酸素状態疑わせる所見
千鶴さんは京都第一赤十字病院で「外回転術」を受けました。しかし、逆子は直らず失敗に終わりました。
(千鶴さん)「赤ちゃんの心拍数のアラームも結構鳴っていて、どんどん不安になってきて。手術台でずっと寝転がっている状態で、果たして大丈夫なのかなって。赤ちゃんの心拍が下がり過ぎているのか、(手術台で)一時間くらいずっと裸で寝たきりで、動いたら赤ちゃんしんどくなっちゃうからここで安静にしといてくださいって言われて」
千鶴さんが不安な思いの中、医師は2回目の施術?「外回転術」に踏み切りました。しかし、お腹の中の赤子には低酸素状態を疑わせる所見が何度も認められたといいますが、執刀医はすぐに緊急帝王切開に切り替えるなどの処置をとらなかったということです。
歩くことやしゃべることもできず…栄養は『胃ろう』
宝くんは今年で5歳になる年ですが、障害の影響から、首や腰がすわっておらず歩くことやしゃべることができないといいます。
(千鶴さん)
「基本的に栄養はお腹に穴をあけた『胃ろう』の手術をしたので、ここのお腹から水分や栄養を注入して。基本的に全介助なので、排泄だったり便も自分で出すことができないので、こっちがてつだって便を出してあげたりとか」
宝くんは今はどこへ行くにも抱っこをして移動しないといけない状況だといいます。この先、身体が大きくなった時にどうしていこうか、日々不安も募るといいます。
今回の手術は医療事故 「2回目の施術と帝王切開の遅れで脳障害発生させた」
千鶴さんらは病院側に対して、外回転術の手術に関して調査を依頼。2021年10月ごろ、第三者の医師による検証結果を交えた調査報告を千鶴さんに行いました。病院側は宝くんに脳への障害が残ったことを「医療事故」と認めたうえで、報告書の中で次のように言及しました。
(病院側の報告書より)
「本件の医療事故は1回目の外回転術施行以後、胎児の状態の評価を誤った結果、2回目の外回転術を施行してしまい、更には、緊急帝王切開も遅れることとなって、宝くんに少なくともより重い障害を発生させたと評価されました」
また、「『外回転術』から遅くとも3時間後には緊急帝王切開を行うべきであった」2回目の施術後の経過観察について、「早期に緊急帝王切開を実施すべきであったとの結論に至りました」と医療過誤を認めているということです。
MBSの取材に対して病院側は「本件につきましてはすでに医療過誤があったことを認めており、申し訳なく存じております。また、病院として深く受け止めており再発防止に努めております」とコメントしています。
医師を刑事告訴‥10か月後に書類送検
そして去年7月、千鶴さんは執刀医が適切な医療措置を怠ったとして、業務上過失傷害の疑いで京都府東山警察警に告訴状を提出しました。そして約10か月後の5月9日に警察は執刀医を書類送検しました。
「真実を知りたい」一心で祈り続けてきた10か月 執刀医からは謝罪なし
千鶴さんは書類送検までの10か月間辛い思いを過ごしてきたと話します。宝くんは今も、両親との会話や、十分な食事も口から摂ることはできず、手足も自分の意思で動かせない状態で、基本寝たきりの状態が続いています。
(千鶴さん)「何も進展が無い中で心が折れそうな時もありましたが、真実を知りたいという思いで、私たちのために息子のために頑張ってきました。書類送検はその第一歩だと思います。できれば起訴、という形になって、そこから裁判で真実が明らかになっていけば嬉しいなと思っております」
当時の執刀医は、今別の病院で働いているということですが、執刀医から千鶴さんには未だに謝罪の言葉は一言もないといいます。
(千鶴さん)「まだ一度もこの4年間、謝罪も私たちが求めている説明も一切無く、逃げているようにしか感じなくて、医師としての責任のある対応をしてほしいなと求めています。あの時の判断がどれほどの結果をうんだのか、しっかり受け止めてほしい。宝には私たちは味方だよというのを伝え続けてあげて見守っていきたいと思います」
京都第一赤十字病院はMBSの取材に対し、「ご本人及びご家族に対いて改めてお詫び申し上げます。既に民事上は和解ができましたが、今後の捜査につきましても全面的に協力させていただきます」とコメントしています。