これまでに延べ30万人以上が来場した大阪・関西万博。世界から大阪に注目が集まる一方で、大きな事件・事故やテロが起きれば国の信頼を損ねる危険性もあります。安全の中核を担うのが大阪府警の「会場警察隊」。国際的なイベントの開幕初日の任務に密着しました。

 

初日のオープン10分前に“不審物”の情報

 55年ぶりに大阪で開催の万博。会場内の警戒にあたる隊員は1日約100人。24時間3交代で任務にあたります。

 (隊員たちに呼びかける堀本和貴副隊長)「きょうスタートということで、警察措置としてやらなきゃいけないときは躊躇なく措置をしてください。人命に関わることはすぐにやっていただく」

 オープン10分前の午前8時50分、現場のリーダーを務める木山俊之警部の無線がなりました。中国パビリオンの近くに不審物が置かれているという情報が入り、緊張が走ります。現場に駆け付けると、ベンチの上に布らしきものが入ったビニール袋がありました。

 (木山俊之警部)「朝から?」
 (中国パビリオン関係者)「気づいたのは30分前です」

 もし危険物なら、数分後に迫るオープン時間を遅らせる必要があります。調べた結果、ただの布とわかり、落とし物窓口に届けられました。

 そして午前9時、予定どおりオープンすると、会場内に一気に人があふれます。多い日で22万人が訪れると想定されています。雑踏事故につながるような混雑は、未然に防がなければいけません。
10.jpg
 (木山俊之警部)「かなり人数が多いので、パビリオンの前などで雑踏事故が起きないかどうか。あとは不審物件とかですね。物が置かれたままになっていないかとか」

 テロへの警戒も必要です。近年は「ローンオフェンダー」と呼ばれる組織に属さない単独のテロリストも脅威になっています。不審な動きがあればすぐ制圧できるよう、目を光らせます。

『血を流した男性がいる』という情報を受けて現場へ

 午後になると、巡回中に落とし物などを見つけることも増えてきました。警察官になって7年目の六車知果巡査長(28)。大規模イベントの警備に携わるのは初めてです。

 (六車知果巡査長)「負傷者を出さないというのは絶対第一目標として、もし万が一出たとしてもスムーズに対応できるようにはしたいと思います」

 午後3時半前、血を流した男性がいるとの情報を受けた六車巡査長。現場に向かいます。倒れこむ男性は、顔から出血しているようです。

 (六車知果巡査長)「大丈夫ですか?」
 (男性)「医務室は…」
 (六車知果巡査長)「今、救急呼んでるので。前につまづいて転んでしまった?」
 (男性の家族)「そうです」
 (六車知果巡査長)「滑りますもんね、きょう雨だから」

 男性は80代で、雨で滑り転倒してしまったといいます。車いすに乗せ、救護室に連れていきます。

 (六車知果巡査長)「もともとあんまり足が?」
 (男性の家族)「つえではあったんですけど、きょう歩く時間が長かったので、くたびれちゃったのかも」

 応急処置をしながら医療スタッフが来るのを待ちます。

 (六車知果巡査長)「(男性は)鼻とかおでこをけがしちゃって。今はもう救急の方が来てくれたので、引き継いで、あとは大丈夫かと思います」

 しかし、5分もたたないうちに、女性を盗撮していた男がいるという申告を警備員から受けます。
14.jpg
 (六車知果巡査長)「盗撮?いつぐらいの話ですか?」
 (警備員)「15分くらい前。ここにカップルがいて、カップルの女の人がホットパンツみたいな短いやつだったんですよ。それを(男が)こうやっていたから(スマホを向けていたから)、横から画面を見たらその女の人を撮ってて」

 (無線で話す六車知果巡査長)「警備員から盗撮してる人がいるとの申告。場所はセルビア館の北側、エスカレーター付近です。手配かけます」

 リーダーの木山警部も駆けつけ周辺を調べましたが、不審な人物は見つからず、警戒を続けることになりました。

志願して万博での任務に「一生に一回、やってみたいなと」

 午後6時、束の間の休憩時間です。六車巡査長は特殊詐欺を捜査する刑事でしたが、志願して万博にやってきました。

 (六車知果巡査長)「上司の人が『万博誰か行かへんか?』と。今回開催されて、おそらく次も開催されるってなったら、そのときには携われないくらいきっと先になっちゃうと思うので、そうなったら一生に一回なのかなと思って、やってみたいなと」

 午後7時、日が暮れて万博の夜の目玉、水上ショーの警戒に向かいます。
19.jpg
 (六車知果巡査長)「暗くて足元もちょっと危ないので、混雑してるところとかよく注意して見るようにしようと思っています」

 その矢先…高齢の男性が段差につまずき転んでしまいました。

 (六車知果巡査長)「大丈夫?けがしてない?暗いから足元気を付けて」

 幸い、男性にけがはありませんでした。

「絶対に何か起こしてはいけない。私たちに与えられた使命」

 その後、六車巡査長らは次の任務へ。

 (六車知果巡査長)「今からEXPOアリーナで行われるライブの警戒にあたります。人が大勢いる雑踏警備です」

 人気アーティストのライブとあって会場周辺は歌声だけでも聞こうと混雑していました。周りを警戒していると…

 (堀本和貴副隊長)「あれコンサート用かな?」
 (六車知果巡査長)「あれはドローン?」
22.jpg
 テロなどのリスクを回避するため、会場がある夢洲の周囲1kmはドローンの飛行が禁止されています。認められている機体かどうか確認を取った結果、申請があったものと判明。ライブは約1時間で混乱なく終了しました。

 そして午後10時、会場が閉鎖され、長い万博初日が終わりました。
26.jpg
 (六車知果巡査長)「きょう一日大きな事件・事故がなく無事に終えられてほっとしています。日本だけじゃなく世界中が注目する万博になるので、絶対に何か起こしてはいけないっていうのは私たちに与えられた使命だと思うので、そこはしっかり守りきって、半年間任務を全うしたいと思います」