事件現場での犯人追跡や遺体捜索を行う警察犬。2015年、大阪府寝屋川市の中学1年の男女が殺害された事件では、現場投入からわずか数分で遺体を発見し、事件解決に大きく貢献しました。
そんな警察犬を操るのが「ハンドラー」。どんな現場でも物おじしない犬を育て、ともに活躍することを目指します。大阪府警の警察犬訓練の現場に密着しました。
「興味を引くもの使って楽しく」相棒・コニーとほぼ毎日訓練
大阪・舞洲の警察犬訓練センターでは、特長が異なる3つの犬種、計15頭が日々訓練を重ねています。持ち前の瞬発力でいち早く犯人を確保する「マリノア」、長時間の捜索でもやる気が途切れないがんばり屋「ラブラドール」、そして、それぞれの長所をバランスよく備えた「シェパード」。
そんな警察犬を操るハンドラーの1人、大阪府警本部鑑識課の横田渉さん(39)。相棒はシェパードのコニー号(5)です。阿吽の呼吸で動けるよう、ほぼ毎日訓練を欠かしません。横田さんが取り出したのは「黄色いリング」。飛ぶべき目印を示して訓練することで、現場でも躊躇なく高台へ飛べるようになるといいます。
(大阪府警本部鑑識課 横田渉さん)「動物の興味を引く好きなものを使って訓練していくと、動物たちも楽しく訓練して身についていくのを過去に経験していましたので」
横田さんはもともと水族館でイルカショーを担当していました。2009年、警察官だった父に憧れて大阪府警に入り、2023年、警察犬係に配属されました。
難しい犬を一途にしてしまう“犬たらし”
この日は遺留品などの手がかりが無いなかでの「人の捜索訓練」です。記者が物置に隠れますが…わずか1分ほどで記者を見つけました。鈴の音色を聞くと人を探すよう訓練されていて、人の数千倍といわれる嗅覚で空気中に漂う様々な臭いをかぎ分けます。
いまや大阪府警のエース級に育ったコニー。去年は能登半島地震の被災地に派遣されたほか、山中の捜索で人骨を見つけ表彰されました。コニーと横田さんの活躍に同僚は…
(横田さんの同僚)「“犬たらし”というか、結構難しい犬を一途にしてしまう。そのスピードが速かったので尊敬してます」
(横田渉さん)「(Q“犬たらし”と言われているが?)コニーがどれだけ自分のことを好きになってくれるかを考えて接してたので、“たらせてた”ならよかったです」
嗅いだ匂いを探し当てる『臭気選別訓練』
去年11月、横田さんのもとに新たな犬がやってきました。生後9か月のラブラドール、アン号(0)です。民間のドッグスクールで初歩的な訓練を受けただけの”警察犬の卵”です。
まずは警察犬の基本、嗅いだ匂いを探し当てる「臭気選別訓練」です。横田さんが持つ布を嗅ぎ、5つの布の中から同じ匂いの布を持ち帰れば合格ですが…アンは難なく成功。
しかしデビューへの道は、そう甘くはありません。続いて、嗅いだ匂いが“選択肢にない”という難問。多くの犬がここでつまずきます。何も持ち帰らないのが正解ですが…布を持ち帰ってしまいました。
(横田渉さん)「最後のハードルですね。これができるようになったら『臭気選別訓練』はすべてできたとなってきますので」
現場はさまざま。どんな状況でも対応できなければなりません。
「犬舎より家庭にいるほうが…」引退後に引き取られた警察犬
“新米犬”が入る一方で、老いていく警察犬もいます。警察犬の「引退」について定められた制度はありませんが、新たな犬を入れるためには、その分の枠や予算が必要なため、現場に出られなくなれば別れの決断をする時がやってきます。
大阪市内に住む小川智子さん(64)は、引退した警察犬のカイザー(13)を引き取りました。もともと警察犬の指導に関わっていたことから声がかかりました。
(小川智子さん)「うちの夫と並んで引っ付いて寝ています。だから今年は毛布がいらないそうです」
カイザーは足腰が弱り、ここ3年は寝たきりです。小川さんは月に一度、獣医師に来てもらい、お灸や針治療で固まった筋肉をほぐすなど、できる限りの介護をしています。
(小川智子さん)「(警察の)犬舎にいるより家庭にいるほうが、たぶんわんちゃんも本当は幸せだと思う」
「どんな現場に行っても物おじすることなく活躍できる犬に」
今年2月下旬、新米警察犬のアンが、3か月間の訓練を経て、現場デビューするための最終試験に臨みました。嗅いだ匂いが選択肢になく、“どの布も持って帰らない”のが正解という難問ですが…見事、成功!3月にも事件捜査の現場へと駆け出す予定です。
(横田渉さん)「どんな現場に行っても物おじすることなく活躍できる犬に育てていって一緒に活躍していきたいです」