春の旅で注目されているのが「夜行バス」。実はバス会社にとっては必ずしも利益率が高いとは言えない夜行バスですが、なぜ運行しているのか。そこにはバス会社の戦略がありました。どんな人が利用しているのかも含めて、夜行バスの最新情報を取材しました。
年間の利用者は1億人!最近は「推し活」遠征でも注目の夜行バス
全国で年間のべ約1億人が利用する高速バス。2月21日の3連休前夜、大阪駅JR高速バスターミナルをたずねると満席の便も多く混雑していました。
(静岡へ)「『ヤコバ』やったら値段も安いし寝てたら着くしという感じで予約しました」
(山口へ(70代))「新幹線に乗ると1万円超える。バスだと7500円で行ける」
(東京へ(50代))「“動くホテル”感覚。寝ている間に着く」
時間の有効活用と運賃の安さが魅力の夜行高速バス。コロナ禍後の需要も回復傾向でこのターミナルから毎日25便の夜行バスが走っています。
最近は、好きなアイドルなどを応援する活動「推し活」での利用も。たくさんのぬいぐるみを付けたかばんを持つ人は…
(20代)「『にじさんじ』っていうVチューバーのイベントに行くため。会場の列ができるのが早いので、それに間に合わせようと思うと新幹線じゃちょっと遅い」
新大阪から始発の新幹線に乗っても東京到着は午前8時半前。会場は午前5時から列ができるといい、少しでも早く到着するためバスを選んだといいます。
夜行バス大手のウィラー・エクスプレスは「推し活」応援のSNSを開設。高速バスの車内や利用方法を紹介しています。また、別のバス会社では待合室にパウダールームを設置。メイク道具の貸し出しも行っていて女性が使いやすいバスを目指しています。
ホテル高騰で夜行バス需要増 課題はリピーター確保
全国を遠征する推し活にとっても運賃の安さは重要。大阪ー東京間を走る西日本ジェイアールバスで最もリーズナブルなタイプは…
(西日本ジェイアールバス・小林郁人さん)「(大阪ー東京間)座席数限定で2500円で乗れるときもあります。一番安い運賃から高い運賃まで幅を(国に)届けて、その決められた範囲の中で自由に運賃を設定できる」
大阪ー東京間を走る4列シート(58席)は2500円~1万2500円。3列シート(29席)でも4400円~1万4500円。需要に合わせ価格を変動させるダイナミックプライシングを導入していて、安い運賃で利用できるときもあるといいます。
利用の底上げは推し活需要だけではありません。
(小林郁人さん)「近年はホテル価格が上昇していることもありまして、宿泊と移動を兼ねたいというニーズは高まってきていると思います」
ビジネスホテルを含めた東京のホテルの客室単価は去年12月、1万9000円を超えました。宿泊費の高騰が続く中、バス会社も「宿泊先」として選んでもらえるバスを目指しているのです。
一方、夜行バスには課題も…
(高速バスマーケティング研究所・成定竜一代表)「特に夜行路線は距離が長いので交代運転手を配置する。運行コストに占める乗務員の人件費の比率がすごく高いんですね」
さらにバス会社は社名を覚えてもらいにくくリピーターを確保しにくいと専門家は話します。
バス車内は土足厳禁!?運賃は“グリーン車並み”の高級夜行バス
そこで、社名を覚えてもらうためにインパクトのある車両が開発されてきました。奈良交通のドリームスリーパー号もそのひとつです。いったいどんなバスなのか見せていただきました。取材班がバス車内に入ろうとすると…
(奈良交通・犬賀雄志さん)「ちょっと待ってください!実は土足厳禁なんです」
なんと、スリッパに履き替え乗車。車内に入ると、扉付きの完全個室が11席。ゆったりとした電動リクライニングシートも。
(犬賀雄志さん)「何をしていただいても大丈夫です。食事もとっていただいて大丈夫です」
奈良から大阪を経由して東京まで約9時間。車内には独立したパウダールームを設置。歯ブラシなどホテルのようなアメニティーや専用のウエアもあり快適に過ごすことができます。運賃は新幹線のグリーン車並みの1万8000円~2万円です。
(犬賀雄志さん)「11席ということで、もちろんたくさん座席があった方が効率はいいんですけれども、今までにない快適な車両、移動空間を提供するということで、ドリームスリーパー号が有名になることで、他の奈良交通の高速バスや奈良交通自体の認知度が上がる効果もあるのかなと思っています」
毎週、金曜と土曜日に運行していて1か月先まで予約はほぼ埋まっているといいます。
どんな人が乗っているのか?ドリームスリーパー号の乗客に話を聞いてみました。
「値段は高いんですけど、1回乗ってみたいなと思って(予約を)取りました」
「娘の卒業旅行で、親子でちょっとリッチなバスに乗ろうかと思って」
奈良交通は新しい顧客の獲得に成功しています。ただ、豪華なバスは収益性が低い車両も多く現在は、運転手不足などで厳しい環境の時代になっています。
日本初!寝たまま過ごせるフルフラットシートの夜行バスが登場
そこで、他社と差別化しつつ収益性も確保した日本初の夜行高速バスを独自開発した会社がありました。向かったのは高知県のバス会社「高知駅前観光」です。案内してくれたのは社長の梅原章利さん。
(高知駅前観光・梅原章利社長)「こちらがそのバスになります。外から見た感じは(横に並んでいるバスと)全く変わらないと思います」
日本初は車内にあるそうです。見せてもらうと、バスの中とは思えない光景が!なんと、2段ベッドのようなフルフラットシートが所狭しとずらり。特許を取得したシートは長さ180cm、幅48cm。車両の空間を最大限活かして2段にすることで24席配置が可能なんだそうです。
(梅原章利社長)「(Q乗り心地は?)非常に快適だと思っています」
このフルフラットシートは約9年かけて開発。両サイドには転落防止のプレートを備えるなど安全性を高めました。最大28席が一般的な3列シートのバスと比べても座席数は大きく減っていません。高知-東京間の3列シートの平均運賃は約1万円ですが、このバスは1万4000円(想定)で走る予定です(※今秋から通常運行)。
(梅原章利社長)「シート数が減ると1人当たりの単価を上げないと成立しない。シート数を大きく減らさずにフルフラットにするという発明を前提としているので、収益性と快適性の両立を目指しております」
今後、全国のバス会社などにフルフラットシートを販売する予定。より快適な移動空間を提供するバス会社の挑戦は続きます。