(自見内閣府地方創生担当大臣)「移住をして結婚した女性に対して60万円を支給するという検討は一切行っておりません」

(記者)「女性に限定した移住支援策というのは、頭にもなかったということですか?」

(自見内閣府地方創生担当大臣)「全くありません」

えっ…。正直ちょっと驚きだった。

これは今月3日の閣議後に行われた記者会見での私の質問に対する自見大臣の返答である。

一般会計予算概算要求で内閣府地方創生事業の一つの目玉として報じられていた、結婚をきっかけに地方へ移住する女性への支援拡充策を所管大臣がそもそも検討すらしていないと答えたのだ。

いったい何が起きていたのか?

「目玉施策」のはずが一転撤回 そのワケは…?

結婚をきっかけに地方へ移住する女性に対して最大60万円を支給するという新たな施策は、来年度予算の概算要求に合わせて配布された内閣府の資料にも記載されている。8月29日には報道向けにブリーフィングもなされていた。

それが一転、翌日の8月30日の会見で自見大臣が急遽、事実上の撤回を表明する。

その際、自見大臣は以下のように話していた。

「男女の賃金格差やアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)、固定的性別役割分担意識が、女性や若者の地方移住を阻害する要因と考えられる」

その上で、こうした阻害要因を解消できるような内容となるように結婚する女性に限定した60万円の移住支援の拡充策を見直すことを明らかにした。

発表した政策案を朝令暮改で見直したわけだが、8月30日の会見にも出席していた私にはひっかかるものがあった。そもそも大臣が了承した案だからこそ予算案編成に向けて概算要求するとして出したのではなかったのか?上記の会見発言のように地方移住を阻害する根本的な課題を抱えている認識があり、今回の女性をターゲットにした拡充案が不十分だと見直しの指示を出すのならば政策案発表前に官僚からレクチャーを受けた時ではないのか?

もやもやが消えず、30日の会見を終えて地方創生移住支援事業の担当者へ電話取材した。

―――大臣に事前に説明したからこそ概算要求のポイントとして発表したはずでは?

(担当者)「大臣には説明しています。検討していることは申し上げていました」

―――大臣に説明した際に見直しの指示はでなかったのですか?

(担当者)「検討していることは申し上げていました」

―――では大臣は見直し指示ではなく了承したのですか?

(担当者)「(答えず)あくまでこれは案ですから、別に決定したものではないですから」

移住支援拡充案に関わった担当者は、地方に人の流れを作るという中で(就業や起業以外にも)別のニーズ(結婚を指す)があるのではないかということで立案したことは認めたが、その施策について大臣から見直しの指示や了承していたかについては明言を避けた。

予算案の概算要求はそれぞれの省庁が税金の使いみちとして要望する大切な手続きで、ただの思いつきではないはずだ。それが大臣に説明はしたが、了承されたかも、見直しの指示をされたかもわからない状態で世に出したというのか。いや、ありえないだろう。

高まる批判で急遽撤回?大臣にさらに問う

この移住支援の拡充策をめぐっては報道されると同時に内閣官房や国会議員、SNS上などで批判が噴出していた。

「なぜ女性限定なのか?」

「女性はお金で動かせる物ではない」

「たった60万円で女性が地方へ行きたいと思うのか」

「女性が地方から東京など都心へ出て行く根本的な理由がわかっていない」

こうした批判の声が高まったことを受けて急遽撤回せざるを得なくなったのではないのか。

そして、冒頭にもあるが今月3日の自見大臣の会見で再度問うてみた。

―――結婚を機に地方へ移住する女性を支援する、拡充する案、大臣も事前に説明を受けておられたと思うのですが、8月30日の会見で朝令暮改的に事実上撤回された。これは事務方の方から説明を受けておられた時点で大臣の判断が間違っていたということですか?

(自見大臣)「移住をして結婚した女性に対して60万円を支給するという検討は一切行っておりません。私としては、結果として人々が地方に移住をし、そこで結婚するということはあるかもしれませんが、それは個人の人生の価値観の問題でございまして、それについて女性だけに資金を支給するという政策は検討しておりません。(中略)事務局にはマスコミの皆様とのコミュニケーションも含めまして、対外的な説明については注意をさせていただいたところであります」

この政策案を一切検討もしていないという自見大臣。さらに問うと…

―――女性に限定した移住支援策というのは、頭にもなかったということですか?

(自見大臣)「全くありません」

―――ではその時点で事務方にストップをかける指示が出せたのではないかと思うんですが、なぜこんな事態になったのでしょうか。

(自見大臣)「結婚を契機としてという言葉が大変多くの誤解を招く可能性があるということから、そのことについての要件の整理については、誤解を招かないようにということで私の方から指示をしていたところでございます」

自見大臣はいつの時点かは不明だが一定見直しの指示を出しており、自らの判断の誤りや責任は無いという。

移住婚を支援する協会は「残念な結果だ」

今回の政策案が撤回されたことを残念だと受け止める人もいる。一般社団法人日本婚活支援協会で代表理事をつとめる後藤幸喜さんに話を聞いた。

婚活協会では地方に移り住み結婚する、いわゆる移住婚のマッチングや地方自治体が開く婚活イベントなどをサポートしている。2020年から始めて男女問わず1300人の応募があり41の市町村とマッチングを行っているという。応募者の比率は女性7割、男性3割でどちらかといえば女性が多い。移住したくてもきっかけが無い人に好きな自治体を選んで相手が見つかり、移り住み仕事についていくという流れができればと地道な活動を続けているのだという。

後藤さんによれば、実は内閣府の職員が概算要求を前に移住婚の実情を聞くため協会を訪れていたという。結婚する女性へ60万円の移住支援を拡大するという話は出なかったものの、婚活イベントへの交通費を増やしてほしいといった意見は伝えていたという。

団体も地方の自治体も移住婚を進めるための費用が潤沢にあるわけではなく、後藤さんは「今回の施策で少しでも政府が後押ししてくれるならいいことでは」と感じていた。

しかし、あえなく撤回という結果になったことについては…

(日本婚活支援協会 後藤幸喜代表理事)「女性だけという打ち出しは良くなかった、そこは批判されて当然だとは思う、男女差別と受け取られたのではないか。地方で結婚したい人、そこに手を挙げたい人の選択肢を拡げるはずが、本来の移住婚とは違うニュアンスで伝わってしまった、都市部の人にお金を渡して移住しろということではないはずだ」

と、施策の打ち出し方に問題があったと指摘する。

日本の大問題 政策立案者の芯が求められる

今回の政策案の背景にある問題は単に地方の男性と女性の人口差解消だけでなく東京一極集中の是正や地方からの人口流出解消、少子化の流れを食い止めるという日本が抱え続けている大きなものだ。それだけに、たとえ小さな施策でも批判を受けたらすぐに取り下げるというような姿勢でのぞんでいては問題に立ち向かうことなどできない。

根本的な課題解決にはならずとも、結婚して地方へ移住する女性の一助にはなるのだということをきちんと説明していくこともできただろう。人口流出に歯止めをかけ、地方移住を進めようと汗をかいている地方の自治体もたくさんある。そうした地方をバックアップするのが地方創生であり政府の役割のはずだ。とにかく大臣を含め政策立案者の芯の無さが際立った。

(MBS東京報道部長兼解説委員 大八木友之)

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