今、2万人不足すると言われているバス運転手。全国では路線バスの廃止も相次いでいて、影響が出ています。運転手のうち女性の割合は全国平均で1.7%で、他の運送業と比較しても低い値となっています。そん中、女性運転手を増やそうと取り組み続けているバス会社があります。

「運転が好き」と語る34歳の新人運転手 丁寧な接客は乗客からも好評

 奈良県全域を走る奈良交通。県民の足となる路線バスはもちろん、京都のコミュニティバスや東大寺などの観光地をめぐる周遊バスなど184もの路線を行き交います。そんな奈良交通に“ある特徴”があります。
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 バスの運転席に座っているのは、女性。運転手不足が叫ばれる中、女性の力でバス業界を盛り上げる新たな取り組みを行っています。

 午前8時ごろ、まだ人気の少ない営業所に1人の女性が出勤してきました。運転手の橋本美穂さん(34)、去年4月に入社したばかりの新人運転手です。

 (運行助役)「睡眠・健康状態に異常ありませんか?」
 (橋本さん)「はい、大丈夫です」

 アルコールチェックやシフトの確認を行ったら、当日運転するバスの元へ向かい、出発前の車体に異常がないかを確認します。
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 (奈良交通 運転手・橋本美穂さん)「(Q力仕事はある?)力仕事は女性でも誰でもできるようになっているんですけれども、冬場に雪が降った時はチェーンをまいたり。(Qそれは大変?)はい」
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 わずか10分のうちにてきぱきと作業を済ませ、いざ出発です。約40もの停留所を2時間かけてめぐります。
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 (乗客対応をする橋本さん)「こんにちは。お待たせしました精華くるりんバスです。いつもありがとうございます」「ありがとうございました。お気をつけて」

 橋本さん、お客さん1人1人に声掛けを欠かしません。

 (乗客対応をする橋本さん)「900円のおつりです。ありがとうございます」

 (乗客)「とてもあたたかい心をいただいているんですよ。感謝しています」
 (乗客)「ものすごく親切ですよ。『動きます』とか、説明もようしてくれますよ、優しいから、言葉遣いもね」

 丁寧な接客はお客さんからも好評です。
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 (橋本美穂さん)「運転が好きなので。お客さまを乗せて安全に運行するのが楽しみやなと思いながら。すごく今幸せでいっぱいです」

「デイタイム制度」で早い時間に退勤 仕事と子育てを両立

 午後2時半、まだ明るいうちに橋本さんは退勤。車で1時間半かけて自宅へ向かいます。家に帰ると…

 (橋本さん)「ただいま」
 (息子・煌士くん)「おかえり」

 出迎えてくれたのは、息子の煌士くん(12)。実は橋本さん、運転手の仕事をしながら息子を1人で育てるシングルマザーなのです。バスの運転手といえば拘束時間が長くハードな仕事のイメージですが、子育てと両立するのは大変ではないのでしょうか。

 (橋本美穂さん)「デイタイムという制度がありますので、子どもとゆっくりと過ごせる時間も確保でき、ありがたいと思っています」

 これまで育児や出産で職場を離れてしまう女性が多かったことから、奈良交通では8年前から昼間を中心に短時間勤務ができる『デイタイム制度』を導入。産休や育休制度なども取り入れ、運転手の仕事と子育てが両立できるよう取り組んでいるのです。

 (息子・煌士くん)「バスの運転手ということで、誇らしい仕事だと思うので、いい仕事やなと思っています。お客さんを乗せてっていうことだから、お客さんの安全も関わる仕事やからすごいと思います」

「なかなか労働力が確保できない中で、女性の力もお借りしなければ」

 今では女性運転手の数は29人と、導入当初の3倍にまで増えました。これに応じて営業所の中には…
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 (奈良交通・人事担当 米田桃子さん)「こちらは、運転手が運行と運行の合間に休憩をしたりお食事をしたり、リラックスできるように設けた休憩スペースです」
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 これまではなかった女性運転手専用の休憩室や仮眠室などを新たに整備したのです。

 (奈良交通・人事担当 米田桃子さん)「やっぱり神経を使うお仕事ですので、ほっと一息つける場所というか、女性だけのスペースがあるのは大切だと思っています」

 こうした取り組みの背景にあるのは深刻な人手不足。今、全国的に運転手の数が減少傾向にあり、奈良交通でも10年前に比べ約1割減少しています。そこで目をつけたのが、まだ数少ない女性運転手の存在でした。

 (奈良交通・人事担当 米田桃子さん)「なかなか労働力が確保できない中で、今までは男性中心の業界でしたけれども、女性の力もお借りをしなければというふうなところから、ターゲットを広げたような形になりますね」

 奈良交通で働く女性たちはこうした職場の変化をどのように感じているのでしょうか。
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 (運転手歴29年 中村知加子さん)「まったく違いますね。昔はやっぱり男性社会の中で1人だったので、全然意見も通らなかったし。これだけたくさん(女性が)いてくれはるのは私もうれしいし。きょうどんなんだった、こんなんだったっていろんな話もできるので、その辺はやっぱりいいですね」

 変化を感じているのは女性だけではありません。
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 (奈良交通・平城営業所 木田哲二副所長)「(デイタイム制度などは)正直やっていけるのかなと思ったんですけど、実際やってみますとうまくまわりまして、やって良かったなと実感しています」

バス運転手体験会に参加の女性「勇気が出て未来が見えてきた」

 3月16日、就職希望者に向けたバスの運転体験会が行われました。営業所の中で実際にバスを運転してもらい、運転手という職業をより深く知ってもらおうという試みです。参加者の中には女性の姿もありました。

 【運転体験の様子】
 (参加した女性)「止まります」
 (同行運転手)「ブレーキは上手ですね。全然ガッとならないです」

 ハンドルを回す手つきもなめらかです。実はこの方、出産を機に退職した元バスの運転手。

 (参加した女性)「乗る前から思っていたとおり緊張はしました。でも楽しくさせていただいたんでありがたいなと思っています」
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 子育てをしながらもう一度バスの運転に携わりたいという思いで参加したのだといいます。

 (参加した女性)「自宅から近いところの勤務が一番理想なんです。葛城営業所が一番近くですが、そこでデイタイムってやっているんですか?」
 (人事担当者)「現在3人おります」
 (参加した女性)「免許を持っているので働きたい、でも実際子育てするのは母親やから我慢してしまうっていうのがあったので、すごく勇気が出てきたというか、未来が見えてきたというか。またあとで詳しく教えてください」
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 環境にとらわれず自由に好きな仕事が続けられるように。女性の運転手が当たり前になる未来を目指して、バス業界の取り組みは続きます。