ひまわり畑が有名で期間中は100万本が咲き誇る兵庫県佐用町。そんな自然あふれる佐用町が今、コアラの大好物である『ユーカリ』の植樹をめぐって揺れています。一体何が起こっているのでしょうか。
町のユーカリ植樹計画に不安抱える住民「説明がほとんどない」
兵庫県の西部に位置する佐用町。面積の8割を森林が占めていて、美しい川や棚田など雄大な自然が広がります。
木村英さん(77)。生まれも育ちも佐用町です。今、町が進める、ある計画に不安を感じているといいます。
(木村英さん)「佐用町からユーカリを植えたいという話があって、ユーカリはちょっとまずいんじゃないかと」
それは佐用町が大学などと共同で進めるユーカリの植樹計画です。コアラの大好物として知られるユーカリは、オーストラリアなどを原産として短期間で成長する特徴を持つ樹木です。このユーカリを今年度中に5ヘクタール=東京ドーム約1個分を植樹していくというのです。しかし、この計画について木村さんは、町が一方的に決めていて住民に十分な説明がないと訴えます。
(木村英さん)「どこにどれだけどのように木を植えるのか、植えた木をどう使うのか、その結果どう住民のメリットになるのか、そういう説明がほとんどない」
具体的な時期や場所が示されていないと嘆く木村さん。一方で町は準備を着々と進めています。
ユーカリの特徴は成長の速さ 早ければ10年で伐採可能
佐用町は去年、5種類のユーカリの苗木、計約300本を植える実証実験を行いました。自然のまま育つか試すため、水やりなどはしていません。
(佐用町・農林振興課 井土達也課長)「ここがユーカリの試験植栽の場所です。半年でこのように2mくらいまで育ちます。早ければ8~10年で幹の直径が20cmくらいになると聞いていますので、そうなると収穫が早い」
ユーカリの最大の特徴は成長の速さ。伐採できるまでに杉やヒノキは50年以上かかりますが、ユーカリは早ければ約10年で伐採できるといいます。
『放置林問題の改善』と『建材などへの活用』を目指す
この計画を佐用町が推し進める背景にはある問題があります。町の調査によりますと、町内の森林保有者の約8割が定期的に木を切る間伐などの手入れを「何もしていない」と回答。放置林が深刻な問題となっているのです。
佐用町は2009年に大規模な土砂災害を経験。森林が放置され続けると防災上のリスクも高まります。こうした背景もあって、町は希望する住民から森林を買い取り、ユーカリを植え、建材やバイオマス燃料などとして活用しようとしているのです。
早く伐採できるユーカリで経済性を高めながら森林整備を進める。この計画に林業を営む人からは歓迎の声が。
(林業家 石堂則本さん)「(後ろにある)樹齢120年の木は私の4代前、明治の中期ごろに植えたものです。それが今やっと伐採できる。ユーカリは大体20年で伐採できる。その魅力はたしかに大きい」
有害物質を出して“他の植物を寄せ付けない”特徴を持つ品種も
一方で木村さんは外来種であるユーカリを植えることによる生態系への影響を心配します。
(木村英さん)「今まで何とかつなぎとめていた生物の多様性がだんだんと少なくなっていくのではないかと懸念しているわけです。失われたものは二度と戻ってきません」
絶滅危惧種に指定されるタガメや、特別天然記念物のオオサンショウウオなどが生息する豊かな生態系が形成されている佐用町。
植物学の専門家である神戸大学人間発達環境学研究科の武田義明名誉教授もその影響を懸念します。
(神戸大学 武田義明名誉教授)「(一部の)ユーカリは『アレロパシー』という、根から有害物質を出して他の植物を寄せ付けない特徴を持つと言われているので、もしそういうことがあると他の植物が入ってこないので、かなり生態系への影響は大きいと思います」
こうした声に耳を傾けてほしい。木村さんらは2月13日、計画に反対する署名1145人分を集めて議会に提出しました。
(署名を提出する木村さん)「たくさんの人の賛同がありましたので、ぜひこの言葉も聞いていただければと思います。よろしくお願いします」
計画を不安視する声が少なくない中、佐用町はどう受け止めているのでしょうか。
(佐用町・農林振興課 井土達也課長)「ユーカリは600~900の種類があると言われていますので、その中で毒素が強いもの低いものいろいろあると思うんです。我々が考えている樹種の中では今の段階でそういう懸念はない。危惧や心配はいらないと判断しています」
「失敗は許されない」「情報公開が少なすぎる」住民説明会では反対の声も多数
3月8日、佐用町は計画を共に進める東京農工大などと、ユーカリ植樹計画についての住民説明会を開催。全町民を対象としたのは初めてで、町のトップ・庵逧典章町長も参加しました。
(庵逧典章町長)「早く大きくなる木を選んで、10年15年くらいで次々と切って、またそれを活用して、また切って、ということができるような森をつくっていくべきじゃないかと」
集まった約300人の住民から質問が相次ぎます。
(住民)「(今の放置林の状況を見ると)杉やヒノキを全国的に植えたのは失敗なんですよ。佐用町の林業のあり方、失敗は絶対に許されないと思いますよ」
(庵逧町長)「産業としても何とか成り立つようなものを少しでも実現していきたいということで取り組んでおりますので」
(住民)「微生物や昆虫がどんどん偏っていって、生態系が壊れるのは避けられる?」
(東京農工大学 戸田浩人教授)「ユーカリのいろんな属を植えたときに、生物などにどんな影響が出るか、それをあまりいきなり大規模ではなくやるということ」
木村さんも直接疑問をぶつけます。
(木村さん)「私が一番懸念しているのは、この事業が町内のどこで実施されるのか、いまだそれらしき計画がどこからも出ていないんです。こういう機会をもっともっと持ってください。今日これ1回目というのはおかしいですよ」
(庵逧町長)「適材適所に今後少しずついろんなところに植えていくべきだろうと」
反対の声も多くあがる中、町長の語気が強まる場面も。
(庵逧町長)「心配する必要はないということを私は言っているんです」
(住民)「もっとやってくださいよ」
(庵逧町長)「何をやるんですか」
(住民)「情報公開が少なすぎます」
(庵逧町長)「情報を公開しているんですよ」
(住民)「してませんよ」
会は予定していた2時間から30分延び、2時間半で終わりました。
町長「今より悪くなることはない。そのためにやっている」
(庵逧典章町長)「(Qより納得してもらえるようにどう取り組む?)少なくともそれを進めていけば、今より悪くなることはありません。私たちはそのためにやっているんですから。それを見ていただければ、皆さん自然と理解は当然していただけると思います」
(木村英さん)「どのような計画で進められているかということが一番聞きたかったけど、それを聞けなかったですね。残念です。これは第1回目であって、ニ度、三度、四度と続けるような計画を持ってほしい」
町の未来を考えた両者の意見。歩み寄ってともに答えを出すためにも丁寧な対話が必要なのではないでしょうか。