トーヨータイヤ(旧:東洋ゴム工業)の免震ゴムデータ偽装問題をめぐり、“経営判断の誤りが会社に損害を与えた”として、株主の男性(82)が、当時の取締役4人に対し会社への賠償を求めていた株主代表訴訟。1月26日、大阪地裁は株主側の訴えを認め、取締役らに合計約1億6000万円の賠償を命じましたが、取締役らは期限までに控訴せず、判決が確定しました。

データ偽装された免震ゴム 消防組合新庁舎の運用開始が半年以上ずれ込む

まず、今回の株主代表訴訟に至る問題の経緯を振り返ります。免震ゴムとは、薄いゴムと鋼板を交互に積み重ねた構造で、地震時には水平方向に柔らかく形を変え、建物の揺れを低減させる装置です。

この免震ゴムをめぐり2015年、トーヨータイヤ(当時の社名は東洋ゴム工業)のグループが、性能データを偽装したうえで国の認定を取得するなどしていた問題が発覚。さらに、不正の疑いが前年の2014年にはグループ内部で指摘されていたのに、経営判断が遅れるなどして出荷が継続されていたことも明らかになり、批判を呼びました。

このうち、枚方寝屋川消防組合の新庁舎(枚方市)への免震ゴム出荷をめぐっては、取締役らが出席する会議で、2014年9月にいったん出荷を取りやめ、国土交通省に不正を報告する方針が確認されたものの、直後に方針が撤回され、出荷が実行されました。

その後、新庁舎の免震ゴムはすべて取り換えられましたが、庁舎の運用開始は半年以上もずれ込みました。また、トーヨータイヤ側が負った免震ゴムの交換費用や、組合側に支払った賠償金は、合計で2億5千万円以上にのぼりました。

株主の男性が、当時の取締役4人に計4億円を会社に支払うよう求めた

トーヨータイヤの個人株主である兵庫県在住の男性(82)は、「消防組合への出荷取りやめなどを撤回した経営判断が、交換費用や賠償を生じさせて会社に損害を与え、信用を失墜させるなどした」として、トーヨータイヤの当時の取締役4人に対し、連帯して計4億円を会社に賠償するよう求め、大阪地裁で株主代表訴訟を起こしていました。

4人の取締役側は、「某担当者から、補正を行えば免震性能が国の基準に収まる可能性があるという報告を受けたので、国交省への報告を取りやめ出荷を決めた」などと反論。

また、4人のうち当時の専務と常務は「方針撤回を決めた会議には出席していなかった」などと主張。4人のいずれも、「注意義務違反などはなかった」として、株主側の訴えを退けるよう求めていました。

株主が勝訴 国交省への報告や一般公表の義務違反は4人全員の責任を認定

1月26日の判決で大阪地裁(谷村武則裁判長)は、まず、免震ゴム事業の担当取締役と、品質保証を担当する委員長だった取締役の2人について「消防組合への出荷を停止すべき注意義務を負っていた」として責任を認め、2人で合わせて約1億3800万円をトーヨータイヤに賠償するよう命じました。当時の専務や常務については、出荷に関する賠償責任は認めませんでした。

一方で、「国交省への報告や一般への公表をすみやかに行わず、会社の信用を毀損させた」として、“報告公表に関する義務”の違反については、専務・常務含め4人全員の責任を認め、計2千万円の賠償を命令。

最終的に、当時の取締役ら4人に対し、総額約1億6千万円をトーヨータイヤに賠償するよう命じました。

原告の代理人弁護士は、「被告全員について、すみやかに国に不正を報告し事実を公表すべきだったという義務を認め、それを怠ったとして賠償責任を認めた点は、従来の判例の枠組みよりも踏み込んだ画期的な判決」「免震ゴム製品にとどまらず、他の分野でも後を絶たない不正出荷に警鐘を鳴らす判決と言える」と、判決を高く評価していました。

原告・被告の双方控訴せず判決確定

請求額の全額が認められたわけではないため、原告の株主男性にも控訴する権利がありましたが、男性は期限までに控訴しませんでした。また、被告4人も期限までに控訴しなかったため、1月26日の株主勝訴の判決が確定しました。