罪を犯した少年ら約100人が生活している少年院「加古川学園」。甲子園球場4つ分の敷地を持つ西日本最大級の少年院です。少年犯罪が増加している中、ここで行われる更生・社会復帰に向けた「再教育」の現場を取材しました。
約11か月間の集団生活 再教育を担う法務教官
兵庫県加古川市にある「加古川学園」。学園とはありますが、建物の周りには何重にも鉄格子があり、いわゆる学校ではありません。西日本最大級の少年院です。
施設の中へ入るには、鍵がかかった重い鉄の扉を何度も通ります。
罪を犯して家庭裁判所で「長期処遇」の審判を受けた15歳~19歳の少年が収容されます。100人ほどが暮らしていて、少年らは刑罰を受けるのではなく、約11か月間、管理された中で集団生活をして、学習や職業訓練を通じて更生をはかります。
行われていたのは園内にある農場に黒いマルチフィルムを覆う作業。農作業は職業訓練としての目的もありますが、作物を育てる責任や収穫の喜びを経験するという狙いもあります。
(少年たちに話す法務教官)「きれいな台形にしてほしいねん、ここの畝だけ。いけそう?」
(少年たちに話す法務教官)「また玉ねぎを植える作業があるので、収穫まで携われる人、そうじゃない人いろいろいると思いますが、後につながる農耕実習をしてくれたらいいかなと思います」
ここで少年たちの再教育を担うのは法務教官です。佐渡法務教官(29)は、4人の少年の担任を受け持っています。
(佐渡法務教官)「〇〇くん(少年の名前)!面接しようか」
佐渡さんが最も大事にしているのは少年との個別面接です。回数の制限は決まっておらず、必要だと思えば何度でも実施します。
洗濯物について悩むAさん「どう伝えたらいいかわからない」
取材した日、個別面接をしていたのは、傷害と恐喝の罪で半年前に送致されたAさん(当時17)です。会話の内容は洗濯物についてやスリッパの並べ方など集団生活での些細なことです。
(佐渡法務教官)「最近元気ないけど大丈夫?」
(Aさん)「最近しんどくて。対人関係でしんどいです」
(Aさん)「洗濯物とか裏返して出している人がいるじゃないですか。あれ僕が直しているんですよ。どういうふうに伝えたらいいのかわからなくて、うまいことちゃんと言えない。それが悩みで。どうしたらいいのかな」
(佐渡法務教官)「ここでできることって言ったら、自分が思い浮かんだ言葉をそのままノートに書いてみたら?文字に起こして目で見てみるねん。言葉って視覚に入らないからイメージが湧きにくいと思うんやけど、あれちょっとおかしいな?みたいな、もしかしたら気付けるかもしれない」
佐渡さんによりますと、ここに来る少年の多くは思い込みが激しく、感情を言葉にするのが苦手なのだと言います。
(佐渡法務教官)「こだわりが強すぎて、ちょっと考えたらわかること、こうしたら良いということも上手く表現できずにトラブルになることが多いのかなと思います。大人を信用していない子どもたちが多くて、良い大人もいるんだなと感じてもらえれば、そこから更生につながっていくのかなと」
出院近いBさん…新しい環境への不安
別の日、佐渡さんは先輩の法務教官に、ある収容者について相談をしていました。
(佐渡法務教官)「あとちょっとで変わりますかね?」
(先輩法務教官)「でも1、2か月あったら若い子ってちょっとでも視点が変わるだけで大きく変化があると思う。彼からのアクションを待つより、話しかけていくスタンスで接していくことが、彼にとっては大事かなと思うけどね」
佐渡さんが気にかけていたのは19歳の時に特殊詐欺の受け子をしたBさん(20)。ここにきてすでに1年近くが過ぎています。
(Bさん)「悪さでお金を稼ぐことで自分の立場を確実にしたかった。自分の周りで悪さでお金を稼いでいる人の中でも、自分がその中でも稼いでいる方に入りたい気持ちもあった」
Bさんは出院を控えていて、出院後は新しい環境で働くことが決まっています。しかし、そこでうまく人間関係を築けずに元の不良グループと再会してまた罪を犯してしまうのではないか、Bさん自身が不安に感じていたのです。
「居場所を作れるかが悩み」打ち明けた少年にかけた言葉は
佐渡さんはBさんの不安に向き合おうと個別面接に呼び出しました。
(佐渡法務教官)「最近どう?」
(Bさん)「最近…新しい環境の中で自分の居場所っていうのを作れるかが悩み」
(佐渡法務教官)「居場所を作ろうとせんでええんちゃう?作ろうとすると肩に力が入って、自分じゃない自分を演じてしまうんじゃないかな。気付いたらそこが居場所になるようにすればいいかなと思うけどな」
無理をして人と合わせる必要はない。佐渡さんはBさんだけでなく他の少年らも集めて「特定生活指導」と呼ばれるグループワークを行いました。
(佐渡法務教官)「きょうは友人について考えてもらおうと思います」
理想の友人関係について、少年らそれぞれの考えを出し合います。
(少年)「好きなことを一緒に共有できる仲間が良いと思います」
(Bさん)「お互い得なこと損なことを受け入れられて、相手の立場になって考えてあげられる関係性が、ほんまの親友なんかなって思ったりします」
佐渡さんはグループワークを通じて、人によってさまざまな考えがあって当たり前だ、と改めて伝えました。
(佐渡法務教官)「これから自分ら大人になっていく中で大きな不安もあると思うんやけど、失敗して成長するところがある。ただ、その失敗がどういう形で終わるか、犯罪非行の形で終わるのか、次につながる形で終わるのか。その失敗をちゃんと認めてくれる人を大切にして、出院して社会で生活してください」
「手を差し伸べる側に立てるようになりたい」決意表明で述べた言葉
そして去年12月、リスタート宣言の日を迎えました。出院を間近に控えた少年ら11人が、法務教官や保護者などの前で、これからの決意を表明します。Bさんも神妙な面持ちで前に立ちました。
(Bさん)「一番の気付きは、自分が素直になれば助けてくれたり応援してくれたりする大人は必ずいるということです。僕が反感をあらわにしてもずっと心配してくれ、素直になればとことん向き合ってくれて、自分から見た大人の印象が大きく変わりました。これからしんどいことから目を背けず、たくさん学んで、いつかは僕自身が手を差し伸べる側に立てるようになりたいと思っています」
犯罪を繰り返さず、苦しんでいる人に手を差し伸べたい。思いがけないBさんの言葉に佐渡さんは…。
(佐渡法務教官)「びっくりしましたね。本当にそうやって感じて、そっち側に立ってくれることを強く願っています」
佐渡さんは、罪を犯した少年誰もが本気になれば変わることができる、と信じています。
(佐渡法務教官)「(少年院が)最後のよりどころになると思うので、そこで彼らが変われるかどうかは私たち次第なのかなと。(Q非行した少年は変わることはできる?)私はできると思っています。自分をまず知ってもらう。そこで在院期間を通じて、どう変わっていくべきなのか、どうするのか、主体的に動くことで僕は変われるんじゃないかなと思います」