今年11月に初開催された「大工選手権大会WAZA2023」。全国の大工約5000人から選ばれた26人が出場。約7.5畳の空間にキッチン台を作る手順・精度・仕上がりなど“大工のウデ”を競います。出場する26人に選ばれた1人の大工に密着。大会での奮闘ぶりと、建設業界で問題となっている「担い手不足」について取材しました。
「こういう大会をすることで、大会を目指そうという方が出てくる」
全国から選ばれた精鋭が出場する「大工選手権大会WAZA2023」。全く何もないところから2時間半で新たなモノを作り出し、大工それぞれが持つ技術を競う大会です。
(参加者)「若い子がね、建築業界は減っている」
(参加者)「もっともっと女性の職人さんが増えてくれたらなと」
課題を抱えた建設業界が動き出しました。
(大会主催者・積水ハウス 仲井嘉浩社長)「こういう大会をすることで、大会を目指そうという方が出てくる。施工品質の底上げになればなというふうには思います」
そんな中、「期待に応えられるように頑張ります」と話すのは中江信介さん(45)。高校を卒業してから大工一筋27年。大工の中でも、家の壁や床を貼ったり、仕切りを立てて部屋や階段を作ったり、内装を担当しています。
中江さんの仕事はお手製の道具を作るところから始まります。
(中江信介さん)「(Qこれは?)ビス(ネジ)を打つ時の間隔をあわせる定規を作っているんですよ」
定規を作るのはネジを等間隔に正確に打っていくため。中江さんの作業の丁寧さの表れです。
この日は断熱材の上にボードを貼って壁を作っていきます。ワンフロアの壁をたった1人、しかも1日で仕上げるといいます。
(中江信介さん)「スピードも大事なんですけど、僕はどちらかといえばそんなに早くないので、精度の方を重視しています。お客さんの気持ちになってやることが大事かなと思います」
45歳でも現場では最年少…建設業界で問題視される「深刻な人手不足」
ここでは現場責任者の中江さん。ただ、所属する工務店では45歳にもかかわらず最年少です。
(同僚の鈴木さん)「年下とは思えないくらいしっかりしているし、頼りがいもあるし。僕らも中江くんを見て、もっと頑張らないとあかんなっていう部分もあるし」
今、建設業界では担い手が不足しています。総務省の発表では、ピーク時の1997年に685万人いた建設業界の平均就業者ですが、2022年は479万人に。200万人も減少していて、深刻な人手不足に陥っているのです。
また2024年4月からは時間外労働の上限規制が適用。これまでと同じスケジュールで工事を行うには人手がより必要となるなどあらゆる問題も生じるため『2024年問題』と言われています。
中江さんが所属する「前畑工務店」。年齢や病気が理由で辞めてしまい、すでに職人は40代~50代の5人だけです。
(前畑工務店 小谷哲也社長)「あと3人いたんですけどね、年齢でリタイアされた方もいるので。仕事量に合わせて大工さんを増やしたいんですけど」
そんな中、建設業界や大工同士のモチベーションを上げようと大工選手権大会が開催。中江さんも出場することにしたのです。
(中江信介さん)「自分の良さが出せたらいいなと思いますね。いつも通りできるように頑張ります」
迎えた大会当日…お題は「キッチン台を2時間半で作る」
大会当日の11月26日。
(中江信介さん)「おはようございます。(Qきのうは眠れましたか?)大丈夫です、眠れました。(Q今の気持ちは?)やっぱり緊張しますね」
大会には中江さんと同じ内装大工が参加。全国約5000人から選ばれた26人が出場し、その中からチャンピオンを決めるのです。
今回のお題は「キッチン台」。大会では通常かかる時間よりも短い2時間半という限られた時間の中で、壁を貼り、仕切りを立てるなどの10の行程を経て作ります。
緊張の面持ちの中江さんのもとに工務店の同僚も駆け付けました。
(小谷社長)「しんちゃん、ここまできたらやるしかないから。落ち着いて、落ち着いて」
(鈴木さん)「楽しんで、頑張って」
そして、いよいよ大会が始まりました。技術はもちろんのこと、丁寧さや手順など77項目から審査されます。常に検査員が鋭い眼差しで進捗をチェック。異様な緊張感です。
中江さん、慎重に作業を行いますが…壁を作るのかと思いきや、何やら戻ってきました。
(同僚の鈴木さん)「(Q何があった?)道具にボードをとめるビス(ネジ)が入っていなかったんです。それで苦笑いしたけど大丈夫です」
参加者はそれぞれの工務店を代表した猛者ばかり。日頃、鍛えた技をいかんなく発揮し、他を気にする暇もなく作業と向き合います。
最も繊細さが問われる作業工程で苦戦する中江さん…果たして結果は
休憩を挟んで後半戦。中江さんも着々と進めていきます。
作業も終盤に差し掛かり、ここからが大会でもっとも重要な部分「笠木」です。人の目に触れる部分で、これまでのどの工程よりも繊細さが問われます。
美しさが問われるつなぎ目部分は、斜めと斜めをぴったりとあわせるため、何度も何度も確認して微調整を繰り返します。
そして制限時間が終了。中江さん、最大限の作業を続けましたが、どこか浮かない表情です。
(中江さん)「あわんな、むずいわ。焦る、焦るな。スイスイやる人はすごいわ」
素人目にはわかりませんが、少し長さが長かったようです。
通常とは異なる環境下、制限時間も決められた中での作業は大変なこと。とはいえ、全力を出してもやりつくせなかった中江さん、悔しさを滲ませます。
中江さんは惜しくも入賞とはなりませんでした。ただ、この大会を通して、大工という職業へのモチベーションはあがったようです。
(中江信介さん)「いい経験をさせていただいたので。日頃、変わりなく現場で仕事して、次は金賞を取れるくらい狙えるくらいの技術をつけて、僕もまだまだだと思うので頑張っていきます」