今年5月、同棲していた女性(当時18)に執拗に暴行を加えた上、床に広がった血をすすらせ、引きちぎった髪の毛で拭き取らせて口に含ませた男(22)。女性は死亡し、男は11月、懲役12年の有罪判決を受けた。控訴せず判決を受け入れるのか、現在の心境はどのようなものなのか…。質問をぶつけようと、拘置所で2回にわたり面会した。だが、そこにあったのは、出所後の人生について“豪語”する被告の姿だった。

「はよ飲めよ!まじで知らんで!」凄惨な暴行で床に広がった血を…

山中元稀被告(22)は、今年5月7日夜と同8日夜~9日未明に、大阪府泉佐野市の自宅で、当時同棲していた女性(当時18)に対し、全身を多数回殴る蹴る、腹部を踏みつける、髪の毛を引きちぎるなどの暴行を加え死亡させた。さらにその暴行時、女性に対し、床に広がった血をすすらせたり、引きちぎった髪の毛で血を拭き取らせて口に入れさせたりするなどの行為を強要した。

8日夜~9日未明にかけての暴行の際には、エアガンでプラスチック弾を複数発射する行為にも及んでいる。

さらに山中被告は、強要行為を自ら携帯電話で動画撮影していた。

《法廷で公開された音声》
(被告)「全部なめまわせ」「髪の毛食えや」「おいしい?」「はよしいや」
(女性)「これだけは…無理」
(被告)「それで許したるって言ってんねんで、俺」

(被告)「20、19、18、17、16、15…」
(女性)「待って…」
(被告)「待たへんから!」「はよ飲めや、許したるって言うてんねん!」「飲み込んだらええだけやん」「30、29、28、27…」「一生かけて拷問していこか」「はよ飲めよ!まじで知らんで!」「口放り込めや!」

女性の携帯電話で「ごめん。もう死ぬ」と自殺を偽装 判決は懲役12年

被害女性が他の男性と男女の関係を持ったことに激昂したというのが、犯行の動機だった。

山中被告は犯行後、女性の携帯電話から「最低なことしてごめん。もう死ぬ」と自身のアドレスにメールを送信。自殺を装おうとしたほか、取り調べの際も「女性が刃物で襲ってきた」という旨のウソの供述をしている。

公判で被告は、一応は真摯に、反省の言葉を述べた。

山中元稀被告
「どんな理由があっても、やってもいいことと、やっちゃダメなことがあるのは当たり前ですし、命を奪うことによって、本人だけが被害者ではなく、ご遺族も被害者で… 本当に取り返しのつかないことをしたと思っています」
「一定期間の服役を覚悟できています。私の言葉に重みはないかもしれませんが、今後再犯しないために、服役中に自分の問題点に向き合い、つぐないたい」

大阪地裁堺支部は11月13日、「被害者の尊厳を蹂躙(じゅうりん)した残忍で悪質な犯行」として、懲役12年を言い渡した。

判決を受け入れるのか否か…心境を確かめに被告に面会へ

公判をすべて傍聴した私は、山中元稀被告が勾留されている堺拘置支所を訪れた。

浮気への激昂という動機と、行為の激烈さ・異常さの間にある、あまりに大きな“ギャップ”。その謎は、公判でも解き明かされたようには感じられなかった。被告本人に会えば、謎の一端が少しでもつかめるかもしれないという、淡い期待があった。

また「取り返しのつかないことをした」「一定期間の服役は覚悟している」と被告は述べていたが、実際に判決を言い渡されてどんな心境なのか、控訴せずに懲役12年を受け入れるのか、直接確かめたいという思いもあった。

11月16日、1回目の面会。

面会室に入ってきた被告は、視線を私の顔にしっかりと向けた。

「怒りの理由は分かるでしょ?交際を求めたわけではないのに、これが…」小指を立てた被告

入廷して手錠を外される際、傍聴席をじっと見つめていた被告の姿が脳裏によみがえる。

「傍聴席にいた方ですよね?」

それが被告の第一声だった。

「どういう目的で来たんですか?」

面会に来た理由を私が説明するも、“いま自分は世間をお騒がせしている身” ”こちらにメリットがないと…”という旨の返答が続き、なかなかやり取りが嚙みあわない。

筆者「遺族の陳述を真剣に聞いていたように思ったんですが、その時はどのような思いだった?」
被告「………(長い沈黙)それについても答えられないですね」
筆者「あなたの怒りの理由(被害女性側の浮気)は分かったが、その結果あなたがしたこととの間に“大きなギャップ”があると、私や世間は感じているが?」
被告「でもね、怒りの理由は分かるでしょ?こっちから交際を求めたわけではないのに、これ(被告は小指を立てた)が、夫がいるのに隠して寄ってきて。……でも、結果が重大。死んじゃったからね」

机に腕をのせた姿勢で、この時だけは“饒舌”に語った山中被告。被害女性と出会った自分こそが不運という思いが、やはり拭えないのだろう…。

名前を口にもせず、「これ」という2文字と、小指をピッと立てる仕草で片づけた被告を目の前にして、無力感とも嫌悪感ともいえない複雑な感情が沸いた。

面会時間はあっという間に終わった。

「十数年の懲役なんてごくわずかで、痛くもかゆくもまったく…」

彼に問いを投げかけることに果たして意味はあるのか…。1回目の面会を終えて、思わず自問したが、せめてもう一度会って、問いかけてみようと、私は再び堺拘置支所を訪れた。

11月20日、2回目の面会。山中元稀被告は入室して早々、少し苦笑いしながら「お前か」と口にした。

色々な質問を改めてぶつけたが、この日も被告は真面目に答えようとはしない。

「(判決後、多くの取材依頼が来ているが)断ってるんですよ。ねえ、○○さん」

同席した刑務官にも話しかける被告。社会の関心を集めていることに、一種の“陶酔”を感じているような印象も受ける。会話が嚙みあわないまま、時間だけが過ぎていく…。

面会時間も残り5分となった時、私をもてあそぶことに飽きたのか、被告は“判決への受け止めだけなら答えてもいい” “ただし、一言一句変えないでほしい”旨を言い出した。このまま質問を投げ続けても埒が明かないと判断し、私はいったんその提案を受け入れることにした。

被告が受け止めを語り始める。

「私の長い人生からすれば、十数年の懲役なんてごくわずかで、痛くもかゆくもまったくくらいません」

私は「『まったくありません』ではないか?」とたずねたが、『くらいません』だと被告は述べた。

「私は腐りません。30代に大きく飛躍し、BIGになる!」

被告がコメントを再開する。

「20代といえば、社会一般的に周囲の20代は遊び盛りです。ですが、私は他と異なり、私の20代は懲役で自由を余儀なくされる始末です」

私は「『不自由を余儀なくされる』ではないのか?」と何度も確認したが、『自由』だと被告は強調した。

ノートに記している途中で、私は、被告が腕に書かれた小さな黒い文字に目を凝らして読んでいるのに気付いた。被告は自らのコメントを、ペンで腕にメモしていたのだった。

「ですが私は腐りません。私の20代は猛勉強し、少し脂の乗った30代に大きく飛躍し、BIGになる!これが私の人生計画・ライフプランです。経験ではなく行動がモノを言う時代です。夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。以上、山中元稀でした」

私はただただ茫然とするしかなかった。1人の女性の人生を残虐極まりない形で奪った男。その男が語ったのは、自らの人生への抱負、“大物”になるという意欲だけだった。反省や謝罪、後悔は一言もなかった。

山中被告は、上記のコメントを私に復唱させた。復唱し終えたタイミングで、刑務官が「時間です」と告げた。

「いま述べた気持ちは、裁判での反省の弁と矛盾しないか?」「矛盾しないと思います」

退室しなければならなかったが、私は最後にどうしても質問をぶつけざるにはいられなかった。

「これを聞いた人は……… いま述べてもらった気持ちは……… 裁判であなたが述べた反省の弁と、並立はするんですか? あなたが裁判で述べた反省と…… 矛盾しないですか…?」

山中元稀被告は私の目を見つめて、はっきりと答えた。

「矛盾しないと思います」

私は気が滅入った。拘置所を後にしても、暗澹(あんたん)たる気持ちが続いた。

文面だけから見れば、控訴はしないとも受け取れたが…。この面会の数日後、11月24日付で山中被告側は、判決を不服として大阪高裁に控訴した。

最後まで戦慄の犯行の背景はつかめなかった。つかめると思うこと自体が間違いだったのかもしれない。被告が真摯に記者に向き合うと、期待すること自体が間違いだったのかもしれない。

確認できたのは、公判で反省を示した被告の姿は“虚構”であり、2審以降でどんな判決が確定しようとも、彼が“若くして社会に戻ってくる”という、厳然たる事実だけだった。

(MBS司法担当 松本陸)