自民党安倍派の”裏金疑惑”で大荒れとなっているこの年末。実はちょうど1年前の同時期、正月返上で膨大な収支報告書の束と『にらめっこ』していた男性がいた。疑惑が明るみになるきっかけとなった一人、神戸学院大学の上脇博之教授だ。長年変わらないバンダナ姿で「政治とカネ」の問題を追及し続けている。裏金疑惑について、改めてイチから聞いた。13日で国会が閉会、捜査の行方にも注目が集まっている。

――上脇教授は、収支報告書のどの部分をチェックしたんでしょうか。

(上脇博之教授)政治団体側の収支報告書で、20万円を超えた明細が書いてあるページをチェックするんですよ(20万円を超えた購入は記載しなければいけない)。20万円を超えて買ったのに、こっち(買った側)は書いてて、こっち(売った側)は買ってもらったにも関わらず書いてないなど、もう全部、一つ一つをチェックした。もう正直言ってね、心が折れそう、本当に心が折れそうでしたね。

「何件もある、毎年ある。どう考えても組織的だ」

――細かい照らし合わせをした結果、5つの派閥で5880万円(これまでの総計額)の不記載があることがわかった、実態を知ったとき、上脇教授はどのように感じられましたか。

(上脇博之教授)これはどう考えても単純なミスではない。一つか二つだったら、まだ単純なミスもあるかな、でも何件もある、かつ毎年ある。5つの主要派閥で、どう考えても組織的だと。手口が大なり小なり蔓延してほぼ共通する手口。どう考えてもおかしいんじゃないかと。

(上脇博之教授)明細、20万円を超えるやつに気づかないはずがないですから、あえて書かないということは、裏金が作られてるんじゃないかと。ただ、「裏金がある」と断定して告発しても受理してくれないので、とりあえず20万円を超えた明細不記載で刑事告発して、最後の方に、「どうも裏金が作られてる可能性があるからそこも捜査してください」というふうに言ったんです。

――そもそもですが、政治資金パーティーの不記載にどうやって気付いたんでしょうか。

「ある告発状は元日の日付」年末年始をかけてチェック

(上脇博之教授)去年10月、「しんぶん赤旗」日曜版の記者が私に取材で電話してこられた。派閥の政治団体の収支報告書と、パーティー券を買っている政治団体の収支報告書をチェックされたそうです。北海道から沖縄まで、収支報告書は選挙管理委員会や総務省がネット公表していますから、それをチェックしたそうで、膨大な量です。

 ただ、告発するためには、私も再度チェックして、告発状を書かないといけないので、1つ1つを確認して、去年の11月から今年の正月にかけて。ある告発状は元日の日付になっていますので、要するに去年の年末年始をこれに使って、告発状を書いたということです。

――上脇教授の告発を受けた東京地検特捜部が捜査を始めました。

(上脇博之教授)これほど悪質となると、事務方ではできないです。事務方が勝手に裏金作ったとなったら、政治家に怒られますよね。となると検察は、やっぱり事務方だけを立件するのではなくて、高度な政治的判断に相当する裏金作りを認めて、あるいは指示した、そういう人たちまで、やはり立件して欲しいです。

(上脇博之教授)事務方だけの立件で終わってしまったら、トカゲの尻尾切り、あるいは弱い立場の人だけを起訴して、強い立場の政治家を起訴しないということになるので、ぜひ政治家までやっていただきたいと思いますね。

「キックバック」は安倍派にとどまっているか?

――「キックバック」は安倍派にとどまっていると思いますか。

(上脇博之教授)僕は安倍派だけではないだろうと思う。途中からやめたっていうところがあるかもしれないけど、やはり手口が蔓延していましたので、清和政策研究会だけじゃない可能性があるということで、徹底して他派閥も含めて、捜査を尽くしていただきたい。20万円を超える、どう考えても見過ごすはずのないものが大量に(不記載が)あるということは、どう考えても裏金のためにやってるとしか思えないんです。

(上脇博之教授)僕はやっぱり、大きな約束違反があると考えています。どういうことかというと、1994年に「綺麗な政治にしましょう」と言って、政治改革があったんです。リクルート事件とかゼネコン汚職とかそういうのがあったので、(企業献金をやめて)政党交付金という税金を各政党に交付しましょう。それによって綺麗な政治を実現しようとなった。

(上脇博之教授)ところが、こんなことが起きたわけですから、国民の税金を、政党交付金として交付するのをやめてもらうのがまず第一。パーティについても、こんなことが起こるんだったら、パーティーもやめる。やるとしても、企業が大量にパーティー券を買うのはやめる。あるいは政治団体が大量にパーティー券を買うのをやめさせないと、同じことを繰り返すと思います。

――岸田文雄総理は、政治資金パーティーの自粛方針を明らかにしたり、安倍派を政府の要職から外すというような対応も考えているようです。

(上脇博之教授)何のためにそんなことを。自粛は”一時的にやめる”という意味です。ほとぼりが冷めたらまたやる、反省していないんですよ。仮に、閣僚とか党の役員を交代させるとしても、その前に説明責任を果たす必要があるんじゃないですか。自民党の5つの派閥はきちんと記者会見をしてない。「精査して説明します」って言うけど、そこで終わっちゃってる。きちんと政治改革をやり直すような案を出してください。やっぱり、党できちんと処分します、ということをやらないと、信頼は回復しないと思います。