大阪市浪速区にある「タクシードライバー専用の共同休憩所」。仮眠ブースや食事スペースなどがあり、ドライバーたちの憩いの場となっています。そんな休憩所の1日を取材すると、ドライバーたちの様々な本音が見えてきました。

タクシードライバーなら無料で利用できる専用休憩所

 新型コロナが5類になり活気が戻ってきた街中。外国人観光客や飲み会終わりのサラリーマンなど、タクシー業界は大忙し。そんなタクシードライバーが仕事の合間にほっと息つく場所があります。
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 (タクシー歴18年)「毎日来ていますよ、仕事している時」
 (タクシー歴23年)「結構来ますよ、週に3~4回。駐車して食事できるから」

 大阪市浪速区にあるタクシー専用の休憩所「桜川タクシー共同休憩所」。専用駐車場・食堂・仮眠スペースを完備し、タクシードライバーであれば誰でも無料で利用できます。

 (タクシー歴30年)「憩いの場かな、やっぱり。何も気を遣わずに済む」
 (タクシー歴3年)「心地ええ場所ですよね。一番安心できるでしょ。車は僕らの宝やから」

 タクシードライバーの憩いの場所となっている共同休憩所を定点観測しました。
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 午前5時30分。まだ朝日も昇らないうちに休憩所はオープン。さすがにタクシーは1台もやってきません。2時間後の午前7時30分、ようやく1台目のタクシーがやってきました。
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 (タクシー歴5年)「朝1個仕事が終わって、次の仕事の前の休憩って感じですね。本社にこの時間に行くと普通に流しの仕事する方が出発する時間なんですよ。わちゃわちゃしているところに休憩しに行けないですから」

 深夜までの長時間労働に備えて、体力温存のため30分仮眠を取るそうです。

 (タクシー歴5年)「(Q次の予約は?)北区にある企業の重役のお迎えですね。行ってきます!」
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 続いてやって来たのは午前3時半から勤務しているというドライバー。

 (タクシー歴3年)「これからまだ走るんですけど、昨晩はぼちぼちっていう感じですかね…」

 制服をよく見ると…左右の色合いが違う?

 (タクシー歴3年)「多分日に当たって、朝日が当たってるんですよね。これはシートベルトがこすれて…」

 真夜中からの早朝勤務を頑張っている証ですね。

タクシー戦国時代!翻訳アプリ活用で『一人勝ちなんです』

 午前10時ごろから徐々に車が増えてきます。そんな中、休憩所に多くやって来るのは、真新しい制服に身を包んだドライバーたち。

 (元会社員)「僕まだ3か月ですね。」
 (元バー店員)「6日目ですね。全然1週間すら経ってないですね」
 (元飲食業)「まだ4か月目で、全然新人なんです」
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 彼らがタクシードライバーになった理由とは?

 (タクシー歴3か月の元会社員)「(前職は)コロナをきっかけにお給料があまり上がりませんので、タクシーの方に来させていただきました。転職だけに天職を見つけたかな」

 ドライバーに転職後に給料が15万円以上アップしたんだそうです。
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 コロナ禍で大阪府内では2割近くのドライバーが減ったものの、今年度に入ってからは650人以上増加。まさにタクシー戦国時代の到来です。
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 この状況にこんな本音を漏らすドライバーも…

 (タクシー歴1年)「ドライバーがいっぱい儲かるからって来るから困るんですよ。大阪はもう十分足りているので、あんまり入ってこんといてほしいですね」
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 そこで思いついた秘策が…

 (タクシー歴1年)「翻訳アプリを入れているんですよ。それでだいたいやり取りできるんで。このへんの他のおっちゃんらは使ってへんから一人勝ちなんでね」

 外国人観光客に狙いを絞って売り上げも順調に伸ばしているそうです。
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 (タクシー歴1年)「海外のお客さんが結構乗っていただけるスポットがあるんで」

 やって来たのは大阪城のタクシー乗り場ではなく、そこから500m離れた場所でタクシーを停車。ここがホットスポットだそうで、停車後わずか4分で乗客をゲット。さっそく秘策の…

 【翻訳アプリを使った車内での会話】
 (ドライバー)「大阪旅行は楽しめていますか?」
 (乗客)「はい!おいしい食べ物のスポットがたくさんあります」

 翻訳アプリで会話してオススメのお店やお土産を教えます。目的地に着くと…

 【翻訳アプリを使った車内での会話】
 (乗客)「ありがとう!君は最高だ。これまでに出会った中で最もすばらしいウーバードライバーです」
 (ドライバー)「サンキュー!サンキューソーマッチ!」

休憩中に情報交換…憩いの場で広がるつながり

 正午。お昼時には休憩所は大混雑。20台の駐車スペースはあっという間に満車です。ドライバーたちのお目当ては…

 (タクシー歴23年)「いろいろ食べた中でね、カレーうどんがおすすめですわ」
 (タクシー歴15年)「カレーうどん食べますね。毎日ほぼカレーうどん」
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 休憩所1階にある「あずま亭」。ドライバー人気ナンバー1メニューはカレーうどん。自家製のだしとスパイスを組み合わせ、創業から35年変わらない味です。
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 同じころ、休憩所の2階を覗くと…この休憩所で半年前に出会ったという3人がいました。

 (タクシー歴10か月)「(Q集まってご飯を食べている?)そうですよ、無理やり来いって言われます。別会社なんですけど、僕は経験浅いんで、いろいろ教えてもらってるんですよ。どこどこ走ったらいいんちゃうかとか先輩が教えてくれるんですよ」
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 元々1974年にオープンした休憩所。洗車場やドライバー専用の契約食堂などがあり、当時からドライバーたちのつながりの場所として賑わっていました。しかし2014年に老朽化で閉鎖。2016年に建て替わり今の形となりました。

22歳の女性ドライバー『頑張りやってチップくれたりします』

 午後1時。お昼過ぎにやって来たのは22歳の女性。女性ドライバーは大阪府内全体のわずか2.7%。ということもあってか…

 (タクシー歴6か月)「結構若いっていうだけで優しくされますね。あとお客さんからは『頑張りや』ってチップくれたりしますね。同世代の方に会ったことがないので、自分の会社で増えたらいいなって思います」

2年目ドライバー『どこ走っとんねん!と説教30分…』

 続いてトイレ休憩に来たこちらの男性。

 (タクシー歴2年 橋本さん)「毎日使わせていただいています。(Qタクシードライバーはどう?)厳しい…けどこれしかないですからね」
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 コロナ禍で自分の会社を畳み、タクシードライバーの兄に誘われたという橋本さん。大阪のお客さんの洗礼を受けたそうで…

 (タクシー歴2年 橋本さん)「『どこ走っとんねん!ちょっと止まりなさい』とずっと説教されまして…30分。大阪のタクシードライバーの方は相当打たれ強くなっているんじゃないかなと思いますね」
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 午後9時、2階の休憩所が閉まるまであと1時間。食事をとるドライバーがいました。野菜とニンニク蒸しに自家製キムチなど10品目以上あるおかずにご飯は3パックです。

 (ドライバー)「妻が料理作ったから持って行けって、こんな大きい風呂敷包みで、食べきれへんなーって。飲食店やってた癖で…ほんで言っても聞かんからねー。お互い歳を取ったら意固地やから」

 愛妻弁当を平らげたころには、そろそろ休憩所が閉まる時間です。

「自分が頑張ってなんぼの仕事。やるしかない」

 午後10時、2階の休憩スペースは閉業。しかし、タクシーはここからが稼ぎ時。先ほど出会った橋本さんの夜の営業について行かせてもらいました。

 早速、配車アプリが鳴ります。

 【車内会話の様子】
 (橋本さん)「何かご商売されているんですか?」
 (乗客)「ステージがある店。だから歌っています」
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 休む間もなく、続いて乗ってきたのは旅行中だというデンマーク人。

 【車内会話の様子】
 (橋本さん)「エンジョイ?」
 (乗客)「Yes very much.But now is cold」
 (橋本さん)「トゥデイ、サムイ」

 橋本さん、英語は苦手なようで、示された英語表記の地図に大困惑。

 【車内会話の様子】
 (橋本さん)「あ、また違う?分からないねー」
 (乗客)「Left again」
 (橋本さん)「ソーリーソーリー」
 (乗客)「Fantastic…Oh my god」

 なんとか目的地には到着できました。
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 午前1時30分、その後もひっきりなしにお客さんを目的地に運びます。でも橋本さんに疲れた様子は一切見られません。

 (橋本さん)「この仕事は自分が頑張ってなんぼの仕事なので。やるしかない。挑戦ですね。朝まで…行きます!」

 再び活気を戻したタクシー業界。年末に向けてさらに忙しくなりそうです。