中学生時代に不登校や別室登校だった高校1年生が、兵庫県明石市のとある学校で、再び輝き始めることができました。“新しい教育の形”は不登校生徒たちの救世主になるのでしょうか。

今年4月に開校した学校 生徒の大半は不登校を経験 

 兵庫県明石市のビルの一室にある「青楓館高等学院」。サポート校と呼ばれる学校で、通信制高校と連携していて、卒業すれば高校卒業と同じ扱いになります。
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 (高校1年 澤井惺くん)
 「(Q授業は?)ないです。全くないです」
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 高校1年の澤井惺くん(15)。パソコンで受けていたのは、歴史総合の授業です。対面での学科の授業はなく、自分の好きな時にインターネット上で授業を受ける形式です。

 (澤井惺くん)
 「授業でついていけなくなるっていうこともなくなるし、自分の時間が増えるというか、授業に縛られなくなる」
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 青楓館高等学院の学院長を務める藤原照恭さん(33)は、もともと塾講師をしていて、高校生に関わっていました。この学校は今年4月に開校し、30人ほどが在籍していて、そのほとんどがいじめなどで不登校を経験しています。

 (青楓館高等学院 藤原照恭学院長)
 「今の学校教育の中だと、子どもたちが話す場が本当に少ないです。友達に対してもどうやって話していいのかわからない中で、自分のことをどうやって伝えたらいいかもそうですし、そもそも自己紹介ができない、みたいなところから…」

生徒同士が質問しあう『コミュニケーションの授業』

 学科の授業はありませんが、こんな授業があります。希望者のみを対象にした“生徒同士が質問しあうコミュニケーションの授業”です。

 【コミュニケーションの授業の様子】
 (生徒)「苦手なことは?」
 (澤井くん)「苦手なことは計画性がないことかな。計画を立てるのはいけるんやけど、それを実行するのは無理」
 (澤井くん)「今まででうれしかったことは?」
 (生徒)「今まででうれしかったこと?中学校の部活はバスケやけど、俺も半年行っていないから」
 (澤井くん)「行ってないんだ」
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 (生徒)「ゲームやる?」
 (生徒)「ゲームは…今はまっているのはツムツム」
 (生徒)「女子やな」

 この授業では相手に関心を持って会話することの重要性が伝えられました。

絵を描くのが好きな生徒が学校広告のデザインに挑戦

 さらに、この学校では生徒の個性を尊重することを重視しています。高校1年の岸田怜奈さん(15)。中学時代は、友人関係に悩み不登校でした。絵を描くことが好きで、藤原さんから電車やバスなどに掲載する学校の広告のデザインを任されました。

 (岸田怜奈さん)
 「是非やりたいなみたいな感じで。自分の絵をいろんな人に見せたいなというのがあったので」
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 岸田さんがデザインした広告。青を基調とした爽やかなデザインが特徴です。
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 実際に広告を掲載する前にプロの意見をもらうため、岸田さんは大阪・梅田の広告代理店に出向きました。タブレット端末を操作し、担当者に提示します。

 (藤原さん)「全然焦らんで大丈夫やで」
 (岸田さん)「あ、Wi-Fiがないんだ」
 (藤原さん)「あ、そっか。使う?」
 (岸田さん)「ありがとうございます」
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 (岸田さん)「学校の広告なので、できるだけ中高生に見つけてもらいやすいようなデザイン」
 (広告代理店の担当者)「拝見した感じ、情報とかスッキリ整理されていたので、そういうデザインの勉強とかってされていらっしゃるんですか?」
 (岸田さん)「デザインの勉強というか、周りの広告を見てみた時に、情報量がそんなに多いものがないなっていう印象があって」

 9月から山陽バスの車内に掲載することを決定。デザインもプロの目から見て文句の付けどころがなく、そのまま納品することになりました。
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 (岸田怜奈さん)
 「自信につながったと思います。中学生の頃はあまり将来に前向きではなかったんですけど、先生たちと話していく中で前向きに捉えられるようになったというか、やりたいことが具体的になってきたなというのがあります」

学校では生徒の状況を知るために『週に1度の面談』

 高校1年の澤井惺くん。中学3年になってすぐ、クラスの教室には入ることができなくなり、卒業まで別室登校をしていました。

 (澤井惺くん)
 「結構、心に左右されやすくて、クラス(教室)とかに上がったりしたら、緊張して症状が出てしまうみたいな感じです」
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 この学校では生徒の状況を細かく把握するため、藤原さんら講師が週に1度、必ず面談をしています。

 (藤原さん)「最近、親御さんとはどう?」
 (澤井くん)「中学時代は心配な言葉をかけてくれたけど、最近は良い意味で聞いてくる」
 (藤原さん「『きょうは何か楽しいことあった?』とかそういうこと?」
 (澤井くん)「ああ、はい」

明石の魅力を発信すべく街の人にインタビュー 最初は苦戦するが…

 澤井くんがいま取り組んでいるのは、地元・明石の魅力発信についてです。東京のベンチャー企業が運営する全国各地の観光地を紹介するサイトの中で、明石市の部分を任されることになりました。

 まずは明石の魅力を探るべく、藤原さんらと街の人にインタビューをしにいきました。

 (藤原さん)「まず『こんにちは』の練習しておこう」
 (澤井くん)「こんにちは」
 (藤原さん)「こんにちは」
 (澤井くん)「こんにちは」
 (藤原さん)「こんにちは、いいね」

 (澤井くん)「うーん」
 (藤原さん)「緊張してきた?」
 (澤井くん)「緊張します、なんか」
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 まずは1組目。

 (澤井くん)「こんにちは、青楓館高等学院の…」
 (街の人)「いいです」
 (澤井くん)「あ…すみません」
 (藤原さん)「ナイスナイス」
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 別の人に再挑戦しますが…。

 (澤井くん)「こんにちは、清楓館高等学院の…あの近くの…あーすみません」

 連続で断られてしまいます。

 あきらめずに話しかけると…。

 (澤井くん)「澤井という者なんですけど、2~3分ほどインタビューよろしいでしょうか?いま明石を知らない人のために明石の魅力を伝えるインタビューをしていて…」
 (街の人)「いかなごのくぎ煮」
 (澤井くん)「あー。いかなごのくぎ煮」
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 さらに…。

 (街の人)「歴史は、明石公園に宮本武蔵のお庭っていうのがあったり」

 1人にインタビューができると勢いづき、最終的には6人から話を聞くことができました。

 (藤原さん)「いけた?」
 (澤井くん)「いけました」
 (藤原さん)「うれしそう。良い人やった?」
 (澤井くん)「良い人でした。明石、良い町です」
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 インタビュー調査を終え、学校に戻って情報をまとめました。街の人に話を聞くことはできたものの、課題もあるようです。

 (澤井くん)「もっと内容が深い話をしたい。それをインタビューして聞きたいということを感じました」
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 (藤原さん)「自分の知識がないと深掘りもできないから、自分でちゃんとインプットしてやっていきましょうか」

「家から学校に行くだけの生活じゃなくて、世界をどんどん知りたい」

 決まりきった授業ではなく、生徒それぞれの個性を尊重し、大人が寄り添う。新しい教育の形が始まっています。

 (澤井惺くん)
 「この高校に入ってから、とりあえずやってみようという気持ちが自分の中で強くなっていて。家から学校に行くだけの生活じゃなくて、もっと社会人とかと触れあったりして、世界をどんどん知っていきたいなって思っています」