夏休みに入って1週間。子どもたちは遊びや学び、思い出作りなど充実した時間を過ごしているはずです。しかし一方で、空腹や暑さにひたすら耐えている子どもたちもいます。認定NPO法人キッズドアが、食糧支援に登録している家庭に対してアンケート調査を行いました(5月30日~6月6日)。そこには、コロナ禍の影響でダメージを受けた困窮家庭が、止まらない物価高によってこれ以上ないほど追い詰められている現状が浮かび上がっていました。中でも『食事』と『暑さ対策』は深刻です。

「うどん1玉を4人で分け合って食べた」

 例えば今回の調査で、食費が1食当たり110円以下の家庭が4割という結果が出ています。調査に寄せられた声で食事に関するものでは…。

【調査に寄せられた声】
・電気代やガス代なども上がって、更に食料品まで。肉や魚はほとんど買わず、週に2、3回食事を抜いています。
・お腹が空いても水を飲んでごまかしてた。1日1食の時もあった。空腹で日中も寝てごまかしてた。
・平日の晩ご飯は週に1回から2回は納豆だけ、ふりかけだけの食事がある。
・うどん1玉を4人で分け合って食べた。

 限界と言っていい内容も綴られています。食事の質や量を減らすことは、子どもや親の健康にも影響します。

【調査に寄せられた声】
・学校の健康診断でも、子どもは痩せすぎで注意を受けましたが、どうしようもない状況です。
・食べ盛りの男の子2人がいるため、毎日どうやってかさ増ししようか考える日々です。成長期にきちんとした栄養を与えられていないかも…と思うと、すごく心配です。
・(親である自分自身が)栄養不足で、会社の定期健診の結果が悪くなった。通院する予算がもったいない。

母親がダブル・トリプルワーク 夏休みは給食もなく

 アンケートに回答した1538件のうち、9割が母子家庭の世帯で、2023年に予想される世帯所得は「100~200万円未満」が43%と最も多く、全体の86%が世帯所得300万円未満です。非正規雇用も多く、賃金は上がらないまま物価は上がる一方で、もともと生活を切り詰めていた困窮家庭では子どもの成長や親の健康にも深刻な影響を及ぼす様々な困りごとが生じています。

 キッズドアで食糧支援を担当している渥美未零さんは、こういった現状を「21世紀の日本とは思えない」と言います。2020年にコロナ対策として始めた食糧支援でしたが、去年まではたんぱく源として重宝していた卵が1パック300円程度まで値上がりし、今では納豆が頼りになっています。

 フルーツも高くて手が出せないため、ビタミンも十分に摂れるのか心配になります。渥美さんは「100円、200円の値上げでも、毎日の積み重ねになれば困窮家庭にとっては死活問題になるということはしっかりお伝えしたい」と強調します。また、母子家庭では母親がダブルワーク、トリプルワークするケースも多く、朝から夕方まで仕事をし、夕食を作ってから深夜のバイトに行くといった生活で体を壊してしまうことも少なくありません。

 この物価高騰で、たとえ仕事で疲れ切って帰ってきても「総菜を買うことも躊躇してしまう」という声も多く寄せられているそうです。夏休みには給食がありません。子どもの栄養バランスも取りづらくなる懸念があり、家計における食費の負担も増えます。

「入居7年、一度もエアコン入れたことがない」

 また、今年もすでに最高気温35℃以上の猛暑日が続いていますが、光熱費の高騰によりエアコンの使用にも差支えが出ています。

【調査に寄せられた声】
・エアコンは35℃を超えないとつけない。早く寝る。
・エアコンはありませんが、扇風機をつける時間を減らすため保冷剤を首にします。
・私(親)の食事を減らしてエアコン代に回す。
・エアコンはアパートに備え付けですが、入居してから7年、一度もコンセントを入れたことがありません。電気も極力つけていません。普通の家庭では想像できない節約をしています。
・エアコンも、どんなに猛暑でもつけたことはありません。あとは、電気をつけない時間を増やすくらいしかなく、困っています。
・既にエアコンを我慢したり、電気をつけないようにしたりしてきているので、これ以上どうしたらいいか頭を抱えています。

 子どもは夏休みでも、親は働きに出なければなりません。低学年の子どもは学童保育がありますが、高学年以上になると、自宅や、涼しさを求めて図書館やフードコートで過ごしたりすることも多いそうです。

 渥美さんは、親の精神的状態も心配しています。コロナ禍がいったん収束して、世の中では景気回復や賃上げのニュースも聞かれるようになりましたが、アンケート結果では、去年と比べて「賃金上昇しなかった」が85%、「賃金上昇の見込みなし」が76%となっていて、困窮家庭にはいい兆しがないまま物価高騰が直撃しています。

 自身の現在の気持ちという質問では「大きなストレスを感じている」が68%、「未来に希望が感じられない」が65%という回答になっていて、親たちの世の中の流れから取り残されたような孤独を渥美さんは感じ取るそうです。

溢れる「ありがとう」の声

 キッズドアでは、こうした困窮家庭を支援するためのクラウドファンディングを行い(7月31日まで受け付け)、1世帯8000円相当の食糧支援を行っています。第1便として冷凍食品がすでに発送されていますが、支援が決まった親たちからは次のような声が寄せられています。

 ・ありがとうございます。本当に夏をどう乗り切ろうか切羽詰まって悩んでいたのでありがたいです。
 ・ありがとうございます!嬉しいです。本当に嬉しいです。大切にいただきます。ありがとうございます!
 ・わぁありがとうございますm(_ _)m 娘と2人楽しみに待っています!!!本当にありがとうございます。
 ・当選良かった……とっても嬉しいし、とっても助かります(T_T)ありがたいですm(_ _)m
 ・夏休み前にご支援が決まり本当にありがとうございます。

 溢れる「ありがとう」の言葉が印象的です。

「今すぐやるべき 子どもたちの食を支えること」

 こうした民間の支援は経済的にも精神的にも有効ですが、キッズドアとしては、国や行政の根本的なシステムの構築が必要だと考えます。具体的には、子育て家庭が経済的支援を必要とする夏休み・年末年始・年度替りに定期的な給付があれば、家計を維持し続けることができる見通しが立ち、精神的にも落ち着けると言います。

 こども家庭庁の発足で様々な施策が打ち出されてはいますが、「今すぐやるべきことは子どもたちの食を支えることなのでは」と渥美さんは言います。子どもは今この瞬間にも成長し続けています。その大切な時期に基本的な栄養を摂ること、適切な環境で過ごすことは、子どもに与えられた権利です。親だけでなく、社会全体で子どもたちを守る風土や仕組みの醸成が急がれます。