4年ぶりに通常開催となった京都の「祇園祭」。1000年以上続く祭りの季節が今年もやってきました。そんな祭りを続けるために欠かせないのは『人』。今回初めて祇園祭に参加した中国人留学生とMBSの若手記者の2人を密着取材しました。

「神宝を掲げて神輿を先導」中国人留学生が挑む!

 今年の祇園祭で新たなチャレンジを始めた組織があります。

 (宮本組・理事 霜降太介さん)
 「(神輿渡御の)行列に帯同していただくボランティアのスタッフを募集しております。今年が初めてですね」

 祇園祭の神輿渡御でその中核を担う宮本組。100年以上の歴史で初めてボランティアを募集することに決めました。

 (宮本組・理事 霜降太介さん)
 「熱意や思いを持った人を集めていくのが一つのポイント。ぜひ長く私たちに携わっていただいて、この祭の質を高めていければ」
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 今回の宮本組のボランティアは、神輿渡御で矛や盾などの神宝を掲げて神輿を先導する役割です。元気で体力に自信のある成人男性なら、京都に住んでいなくても誰でも応募できます。
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 そして6月18日に行われたボランティアの説明会。倍率5倍を潜り抜けた参加者たちが続々と集まります。

 (ボランティア参加者)
 「祇園祭の写真を撮っていて、今年は初募集されるということで興味があったので応募してみました」
 「外から見るより演者側に回る興奮があります」
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 選ばれたボランティアにはこんな人も…。

 (宮本組ボランティア 曲金尭さん)
 「ずっと前から祇園祭に興味を持っていて、去年初めて祇園祭を見た。一生懸命みんなで力を合わせてひとつのことのために自分の力を捧げるということで、本当に感動しました」

 中国人留学生で京都大学に通う曲金尭さん(25)。昨年、初めて見た祇園祭に魅了され、いまや部屋にグッズを飾るほどに。夢にまで見たボランティアに向けて曲さんが始めたのは…。

 (宮本組ボランティア 曲金尭さん)
 「(祇園祭の)歴史とかを今ちょっと勉強しているんです。経緯とか伝統とか深いことは全く知らなくて、去年はちょっと残念でしたね」

 単に参加するだけではなく歴史学習も欠かしません。初めての祇園祭への準備は万全です。

無事に御旅所へ神宝を届けた曲さん『めっちゃ楽しかったです』

 そして、迎えた7月17日。白丁装束に身を包んだ曲さん。「御翳(おんさしは)」という神宝を3時間かけて御旅所まで運びます。

 他のボランティアたちと気合いを入れて八坂神社を出発。重たい御翳をしっかり握り締めて進んでいきます。しかし、こんな場面も…。
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 (曲さん)「はぁー。ずっと強く握っていたからちょっと手が疲れた」

 そんな時に目に入ったのは留学生仲間の姿。声援が心の支えになります。
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 そして無事、御旅所に神宝を届け、初めての祇園祭を全うしました。

 (宮本組ボランティア 曲金尭さん)
 「めっちゃ楽しかったです。最初から最後までしっかりやり切りました。仲間のおかげで本当にありがたいと思います」

「山鉾巡行の曳き子」にMBS若手記者が挑む!

 一方で、祇園祭のもう一つの目玉「山鉾巡行」に初めて挑むのはMBS京都支局の萩原大佑記者(24)です。ボランティアの役割は、というと…。

 (函谷鉾理事)「『エンヤラヤー』の声に合わせて綱をギュッと曳いていただく。祇園祭の鉾を一番間近で見られるのはみなさんですから」
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 萩原記者が挑むのは重さ12トンの鉾を綱で引っ張る「曳き子」。山鉾巡行は四条烏丸を出発し、京都市中心部をぐるりと一周します。そのため、約4kmの距離を4時間にわたって曳き続ける曳き子は、巡行の中で最も多くの人手が必要なのです。
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 説明会の中でも曳き子の過酷さが垣間見えます。

 (函谷鉾理事)「巡行の日は暑いです。暑さに慣れる練習をしておいてください。次に草鞋です。こう履くんですけど足の指が出ます。ここはもうアスファルトにあたるので」

 灼熱の京都の暑さに慣れない草鞋。初めてだけに不安が募ります。

 (萩原記者)「炎天下で4時間…しかも草鞋。きょうの説明を聞いて、楽しいことばかりではないなという感じはしましたね」

「曳き初め」で過酷さ実感…歴30年のリーダーから愛のムチも

 7月12日、この日は鉾の試し曳きをする「曳き初め」。巡行前、唯一のリハーサルです。そこで萩原記者にある秘策がありました。

 (函谷鉾関係者)「日ごろからそれ?」
   (萩原記者)「取材もこれで毎日…」
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 草鞋対策の「雪駄」です。しかし曳き子歴30年のリーダー・合場頼正さん(57)に言わせれば…。

 (合場さん)「(日焼け跡が)これくらいにならなあかん。冬場でも裸足やしね。だから草鞋でも全然痛くない」
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 こうした中、いよいよ曳き初めが始まります。

 (萩原記者)「動いている動いている。ずっしりくるな…」

 初めて曳く綱の感触。わずか20分間の曳き初めはあっという間に終わってしまいました。
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 (萩原記者)「全然ダメですかね?」
 (合場さん)「まだまだやね、まあもっと頑張ったら」

 本番の山鉾巡行まで残り5日。最後まで準備を重ねます。

予想最高気温は37℃・草鞋もボロボロに…それでも曳き続ける!

 そして迎えた巡行当日の7月17日。最高気温37℃が予想される中、法被姿で草鞋を履いた萩原記者。

 (合場さん)「倒れかけたら強制的にやめてもらうし」
 (萩原記者)「わかりました。最後まで帰ってきますので」
 (合場さん)「無理やろ」

 いざ、舞台は整いました。
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 曳き子たちの手により鉾が動き出しました。順調に進む鉾は四条河原町の交差点へ。ここで鉾を90度方向転換させる「辻回し」は、鉾のハンドル役の車方と曳き子の連携が要です。

 しかし、難所を抜けたその直後から曳き子たちに異変が…。
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 (萩原記者)「よいしょ、よいしょ…。しんどい、足熱い…」
 (合場さん)「ここの坂道、ちょっと頑張ろう」

 見た目には坂に見えませんが、わずかな傾斜で一気に綱が重たくなるのです。
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 それでも、時には休憩を挟んで、草鞋がすり減っても曳き続けます。

 (萩原記者)「ちょっと足やばいです。靴下が破れました。草鞋を貫通しました」
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 そして、出発して4時間。ようやく無事に鉾は帰って来ました。

 (萩原記者)「やりきりました。やりきりました、完全に。最初から見える景色全部が初めてで、めちゃくちゃ疲れましたけど最高の機会でした」
 (合場さん)「10点やな。100点満点で10点。来年は15点やな」

 人の力で受け継がれてきた伝統。初めてからの積み重ねがこれからの祇園祭を作っていきます。