人生の最後を考える終活で「お墓をどうするのか?」は大きなテーマです。その中で『循環葬』という新たな選択肢が誕生しています。どういった弔いの方法なのでしょうか。考案者の思いを取材しました。

「自分の命が森の命となっていく形をつくりたい」

 大阪府能勢町にある霊場で日蓮宗の寺「能勢妙見山」が管理する山の一角。誰かが投棄したのか、水道の蛇口に温風ヒーター、あちらこちらに年季の入った家電のほか、瓶や缶が散乱しています。
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 (小池友紀さん)
 「食器とか瓶とか、こういうものもちゃんと拾って、きれいにしていこうかなと」

 小池友紀さん(40)はこの山を活用したあるプロジェクトを手掛けています。

 (小池友紀さん)
 「命を巡らせるということで『循環葬』。ご遺骨を細かくパウダー状にして土の中にそのまま入れる。ご遺骨が栄養として周りの全体の木の栄養になっていく。自分の命が森の命となっていくという形をつくりたいと思っています」
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 『循環葬』。耳慣れない言葉ですが、火葬した遺骨を丁寧に砕き、森林の土の中に入れ、自然に還すというもの。墓石などは置かず、エリア一帯が弔いの場となるイメージです。
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 (小池友紀さん)
 「こういう感じですね、完成図は。ベンチが下の広場にあって、上に埋葬ゾーンがある。墓石を立てないので、普通に来た人はたぶん散策路に見えると思います」

 夏の完成を目指す循環葬はこれまでにない人生のエンディングのカタチ。

 日本では火葬して遺骨を墓に納めるのが一般的で、木の根元に埋葬する樹木葬や、粉砕した遺骨を海にまく海洋散骨などに続く、新しい選択のひとつになればと小池さんが考案しました。
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 プロジェクトの構想から2年、現場では着々と準備が進んでいます。

「あなたもこのお墓にいつか入るのよ」と言われ戸惑い…

 小池さんが人生のエンディングについて考えるようになったのはある経験がきっかけでした。

 (小池友紀さん)
 「1回結婚したことがあるんですが、義理の母から『あなたたちもこのお墓にいつか入るのよ』と。私はびっくりしました。私はあまりそういうのを考えていなかったので、私このお墓に入るって言ったかな、と戸惑って」
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 言葉に言い表せない違和感を感じたそんな時、母親の博子さん(73)と交わした何気ない会話から一歩を踏み出すことに。

 (母 博子さん)
 「私は山とかにまいてほしいなと思って。土に還るという感じでね。自分もそうなりたいとは思っていたんですけど、その術がわからないから」

 慣習に戸惑う自分や、母親のような考え方の人が自分らしい選択ができる受け皿があれば。原点はそこにありました。

寺側も「こういう形で使ってもらえるのはすごくありがたい」

 実は今回の取り組みは寺側にとってもうれしい提案でした。能勢妙見山のように『鎮守の森』として森林を所有する寺社は全国でも多くあります。でも人手不足や財政難で放置状態の山も少なくないといいます。
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 (能勢妙見山 植田観肇副住職)
 「元々人工林で人の手が入った森ですので、1回手を入れてしまうと、手を入れ続けないと森というのは死んでしまうんですね。それがこういう形で使っていただけるというのはすごくありがたいなと」

 循環葬を通した森林の活用は森の保護にもつながるというわけです。

循環葬への人々の反応は

 実現を目指す循環葬、果たしてニーズはあるのか。その感触を直接確かめることにしました。道行く人に声をかけます。

 (小池さん)「循環葬という新しい埋葬の形で自然にご遺骨を…ちょっとお早いかと思うんですけれども」

 (小池さん)「ご遺骨を自然に還すという形で」
 (通行人)「うちお墓あるねん」
 (小池さん)「あ、そうなんですね」

 認知度のなさもあり、なかなか足を止めてもらえません。それでも声をかけ続けること1時間。
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 (小池さん)「山に来ていただいたらお参りになる」
 (通行人)「宗派は関係なしなんやね」
 (小池さん)「はい、そうです」
 (通行人)「遺さなくっていいもんね、お墓とか」
 (通行人)「いらん、いらん」

 (循環葬について聞いた人)
 「いいと思います。もう形のあるものはいらない。そこに行って気持ちだけで十分」
 「自分たちの骨とかの栄養が、また新しいものに芽を出し生まれ変わっていくという形で」

 準備が大詰めを迎えた今年5月下旬。小池さんは神戸大学に来ていました。そのわけとは。
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 豚の骨を火葬場で遺骨を焼いたのとほぼ同じ状態にして粉砕していきます。森への吸収を促すには遺骨をどれくらい細かくすればよいのか?土に埋める深さはどの程度がいいのかなど、専門家に助言を求めにきたのです。
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 (神戸大学・生命機能科学・土壌学 鈴木武志助教)
 「上の方が生物の活性というのが高いので、微生物が食べたりするのも重要ですし、植物の根は上の方が多いですので、根が多い方が植物が吸いやすい」

 ひとつずつカタチを具体化していきます。

見学者「今までの概念とは全然違う」「関心は大だけど代々のお墓が…」

 6月18日、循環葬の場が無事完成。この日は見学会が行われ3組6人を案内します。

 (小池さん)「ここがゲートになります。循環葬RETURN TO NATUREの入口です」
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 ゲートを過ぎると、まず目に飛び込んでくるのは、山小屋の跡地につくったウッドデッキ。森林浴をしながら故人をしのぶスペースです。
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 そして埋葬エリア。小高い山の側面が散策路のようになっていて、通路と通路の間の土の中に細かく砕いた遺骨を入れることになります。

 (小池さん)「埋める深さも15cmくらいと実は浅いんですね。なぜかというと、一番その辺に菌がいるんです。なのでそこに土とパウダー化したご遺骨を混ぜて、それを埋めて元の状態に戻すと。墓標も何も立てません」

 循環葬の実現に向けた第一歩。参加者からも質問が飛びます。

 (参加者)「生前その人が好きだったものを一緒に置くことはできない?」
 (小池さん)「はい。やはりお線香とかお花は、この森になかったものになるので、申し訳ないんですけれどもお控えいただくようにしております」

 何も置かず何も残さない。自然に還ることこそ循環葬のポリシーだからです。

 (参加者)
 「今までの概念とは全然違うような気がしますね。感触はめちゃめちゃいいです」
 「知れば知るほど理にかなっているというか。関心は大なんですけど、代々のお墓があるから。お墓をしまうことになりますから、そのハードルはちょっとあります」

「みんなの選択肢のひとつに循環葬があったらうれしい」

 森と生きる、森に還る、そして森をつくる。小池さんの挑戦はこれからが本番です。

 (小池友紀さん)
 「いまの時代っていろんな選択肢があると思うんですけど、このエンディングというところになると選択肢が少ないなと私は感じていたんですね。そのエンディングの選択肢のひとつとして循環葬が定着していって、みんながどれを選ぶ?という中に循環葬があったら一番うれしいです」