みなさんは、高齢になり、ひとり暮らしで亡くなった場合に、遺品の整理・葬儀・相続・遺骨などをどうするのか、考えたことはあるでしょうか。将来、誰にでも起こり得る話。多死社会に潜む「引き取り手のいない遺品・遺骨問題」の現状です。

単身の60代男性が居住 亡くなってから手つかずの“遺品部屋”

 大阪府の府営住宅の一室。特別に取材班が入ることが許されました。

 (大阪府住宅経営室 尾崎義幸課長補佐)
 「こちらが、お亡くなりになって約2年半ですかね、遺品が残っている状態のお部屋です」

 生活感がありありと残る室内。誰かがいま住んでいると言われても疑問を抱かないような状態です。少し散らかってはいますが、住人が趣味も楽しみながら堅実に生きていた跡をうかがうことができます。

 (大阪府住宅経営室 尾崎義幸課長補佐)
 「お亡くなりになった時で60代半ばぐらい。ひとり暮らしの方です。元々、ご両親がお住まいだった部屋に同居されまして、その後ご両親が亡くなられて、おひとりで住んでいたという部屋です」

 机の上に残された置き時計。持ち主が亡くなった後も、ほぼ正確に時を刻んでいました。
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 この部屋で暮らしていた単身の60代の男性は2020年10月に亡くなりました。次の入居者を受け入れるべく早く遺品を整理したいところですが、府がすぐに処分することは法律上できません。処分するには相続人調査を行って、すべての相続人から処分への同意を得ること、あるいは、すでに相続が放棄されていることを確認する必要があるからです。
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 この部屋の場合、2022年11月にようやく相続が放棄されていることを確認でき、近く府が遺品を処分できることになりました。

 (大阪府住宅経営室 尾崎義幸課長補佐)
 「相続される可能性がある方を全員見つけられないと手続きが進まない。連絡を取るんですけれども、返事がないケースの時に、本当にその方にちゃんと届いているのかどうかという不安はあります」

 大阪府では、ひとり暮らしの住人が亡くなったものの相続人調査が難航するなどして遺品が手つかずの状態となっている府営住宅、いわゆる「遺品部屋」が2023年3月末の時点で255戸にのぼっています。

急速に増えるひとり暮らしの高齢者…2040年には推計約900万人に

 大阪府も手をこまねいているわけではなく、独自のルールを設けて対応。調査で相続人がどうしても判明しなかった場合には、貴重品・位牌・写真類などに限り府営住宅の空き部屋に移して保管を続け、それ以外の物は廃棄することにしているのです。

 (大阪府住宅経営室 尾崎義幸課長補佐)
 「こちらの部屋ですと約70箱ございまして、これと同じような部屋を府内で13戸用意しています」

 ただ、保管された物も府に所有権が移り処分できるようになるまでは、法律上20年もかかります。相続人が現れてくれるのを待つばかりですが、引き取りに来たケースは残念ながらゼロだといいます。
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 身寄りのない単身者が亡くなった後に待ち受ける遺品の問題。日本ではひとり暮らしの高齢者が急速に増え続けていて、2040年には約900万人にまで膨れあがると推計されています。行き場のない遺品もますます増加していくと見込まれています。

大阪市が保管する「無縁遺骨」は3000柱超に

 自治体が対応に苦慮しているのは遺品だけではありません。大阪市平野区の斎場では…。

 (大阪市環境局・斎場霊園担当 古川幸義課長代理)
 「こちらが保管庫です。(Q結構な数がある印象ですが、どれくらいのお骨が?)そうですね、いまの段階で約2000柱弱ぐらいです」

 整然と保管されている真っ白な骨壺。引き取り手のない遺骨、いわゆる「無縁遺骨」です。法律では、身寄りがなく葬儀を執り行う人がいない死亡者については、市区町村が埋葬か火葬を行うことが定められています。しかし、その後の遺骨の取り扱いは規定がありません。
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 大阪市では、無縁遺骨を市内の5つの斎場で1~2年保管した上で、毎年夏に霊園で合葬しています。しかし、市が保管する無縁遺骨の数は年々増加していて、2020年9月~2021年8月の1年間では3000柱を超えました。そして、こうした現状は大阪市に限った話ではありません。国の調査によれば、2021年10月末の時点で少なくとも822の市区町村が無縁遺骨を保管。その数は約6万柱にのぼります。
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 (大阪市環境局・斎場霊園担当 古川幸義課長代理)
 「血縁の近い親族がいない場合とか、血縁の近い親族がいるんですけれども遠方といった場合のケースが考えられます。無縁遺骨は増えてくるであろうと想定はしております」

 引き取り手がいない遺品や遺骨が積み上がっていく現実。行政は為す術がないのでしょうか。

『生きている間に相談に乗ろう』生前契約で相手の意思を聞く

 ユニークな制度を設けて事態の打開に動いている自治体もあります。神奈川県の横須賀市です。

 (横須賀市地域福祉課 北見万幸福祉専門官)
 「生きている間に何の相談にも乗らなくていいのだろうか、というのが最大の問題意識ですね。亡くなったら身寄りがいないという方は先に相談に乗ろうじゃないかと」
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 横須賀市では、ひとり暮らしで頼れる身寄りがなく所得や資産も少ない市民を対象に「エンディングプラン・サポート事業」を展開しています。登録した市民に、市と提携する葬儀社と生前契約を結んでもらい、希望する葬儀や納骨についてあらかじめ伝えてもらいます。26万円ほどの料金も市民が前払いします。市は葬儀社が契約を履行するまでを見届けます。
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 また、安否確認なども兼ねて市の職員が定期的に登録者の自宅を訪問。生活や健康維持について相談に乗ったり提案をしたりもします。取材班はこの日、88歳の登録者への訪問に同行しました。

 (市職員)「認知症予防のためにこういうことをしましょうと、いろいろ書いてありますからね」
 (登録者)「認知症になったらこんなの読めないもん」
 (市職員)「認知症にならないために…未病というのがね」
 (登録者)「食事はちゃんとしているから」
 (市職員)「規則正しい生活と食事を…」
 (登録者)「お弁当と…」
 (市職員)「人の話を全然聞かないでしょ…」
 (登録者)「しゃべりたいの。だって何にもしゃべってないもん、毎日毎日」
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 2015年に事業をスタートして以降、登録する市民は増え続け、2023年3月末時点で累計124人が登録。そのうち54人が亡くなり、市が無事に納骨までを見届けました。この事業によって火葬や遺骨の管理などを市が行った場合と比べると、1000万円以上の支出を回避できたといいます。

 (横須賀市地域福祉課 北見万幸福祉専門官)
 「(身寄りがない人)ご本人の意思を聞かずに火葬するというのは、ちょっと乱暴というか。市民なんだから先に聞いちゃえばいいわけですよね。聞いていく中でご本人が払うというような形になれば、他の市民の方々から頂戴した税金は無駄にならないとは思いますね」

 残された者にしわ寄せが行くことを少しでも避けるためにも、現実的な知恵がいま求められています。