教員免許を持っているけれど教員として働いていない人を指す「ペーパーティーチャー」。教員不足が深刻となる中で、この存在が注目されています。教育現場を救うカギとなるのか。この春から教育現場で活躍する“元ペーパーティーチャー”と、「先生になりたい」という夢に向けて一歩を踏み出したペーパーティーチャーの思いを聞きました。

 今年5月、滋賀県で行われた講習会「教員へのファーストステップセミナー」。教員免許を持ちながらも教職に就いていない「ペーパーティーチャー」を対象にしたもので、2日でのべ66人が参加しました。

 (参加者に向けて話す滋賀県の小学校校長)
 「わからないことがあったら、隣の先生、あるいは学年の先生、いろんな先生に聞くことができますから安心してください」

 (20年前に教員免許取得 40代の参加者)
 「子育てが一段落したので、子どもと触れ合いたいなというのがありまして、それで考えてみようかなと思いました」

 (30年前に教員免許取得 50代の参加者)
 「もともと先生になりたかったので、その夢を叶えたいと。現場でどんな授業が行われているのか最近の様子を知りたい」

13年前に英語教諭の免許を取得 しかし教職をあきらめ美容師に

 教員不足解消の一手として注目されるペーパーティーチャー。こうした中、すでに教育現場で活躍する“元ペーパーティーチャー”の先生がいます。兵庫県立尼崎小田高校で常勤講師として働く上浦萌恵先生(34)です。留学経験を生かして英語を教えたいと、13年前に高校の英語教諭の免許を取得しましたが…。

 (兵庫県立尼崎小田高校 上浦萌恵先生)
 「教育実習で自分が初めて授業をしてみて『全然うまくできない』ということに気付かされて、自分には学校の先生は手が届かないすごい仕事なんだなという印象がありましたね」

 教職をあきらめ、その後選んだのは意外な仕事でした。

 (兵庫県立尼崎小田高校 上浦萌恵先生)
 「塾講師をして、そこから美容師に」
4.jpg
 専門学校に通い、美容師免許を取得。5年ほど美容師をしていましたが、子育てをする中で改めて「先生になりたい」と考えるようになり、春からこの高校で働きはじめました。
5.jpg
 上浦先生は1年生の副担任も担当。授業以外の仕事も担っています。下駄箱を見て行っていたのは…。

 (兵庫県立尼崎小田高校 上浦萌恵先生)
 「まだ来ていない子をチェックしています。休みの連絡が来てなかったりすると、担任の先生から電話してもらわないといけないので。こんなこと先生やっていたんだって思いました」

 担当するのは1年生の英語。午前8時半すぎ、1時間目の授業に向かいます。

 (兵庫県立尼崎小田高校 上浦萌恵先生)
 「(Q4月から授業を受け持った?)そうです。すぐ持っていますね。めちゃくちゃドキドキしたので、他の英語科の先生に『どうしましょう』と」

生徒「めっちゃ優しくてすごくいい先生」

 授業で心掛けているのは、生徒たちの学ぶモチベーションを上げること。“受験のため”だけではなく、将来にわたって英語を学びたいと思えるような授業を目指しています。

 【授業の様子】
 (上浦先生)「『Not only but also』ってどういう意味やった?」
 (生徒)「何々だけでなく何々も」
 (上浦先生)「うん、何々だけでなく何々も、ですね。この表現、英語するにあたってめちゃくちゃ出てくるから覚えておこう」
8.jpg
 生徒たちとのコミュニケーションも大切にしています。

 (生徒)「壊すって英語でなんて言うの?」
 (上浦先生)「何を壊す?『destroy』か『break』」

 他の先生とは少し違った経歴を持つ上浦先生について、生徒たちはどう感じているのでしょうか。

 (1年生の生徒)
 「みんなの席をまわっている時に、ニコニコ話しかけてくれるからかわいくて癒やされます。私も将来教師になりたいんですけど、いろんな仕事もしてみたいなと思うからすごくいい生き方だと思います」
 「(Q先生が元美容師と知っている?)マジですか?だから会話がうまかったりするんですね。質問にめっちゃわかりやすく答えてくれるので、知りたかったことが『あ!』ってわかってすごくスッキリする。めっちゃ優しくてすごくいい先生だと思います」

ベテラン教師の授業を見学「生徒を盛り上げる力はさすが」

 勤務時間は午前8時すぎから午後5時前まで。1日3コマほど授業を受け持っていますが、授業のない時間にもなぜか教室に上浦先生の姿が。ベテラン教師の授業を見学して勉強しているのです。
11.jpg
 (授業するベテランの教師)
 「What’s the weather?(どんな天気?)Fine?(晴れ?※外は雨)Is it true?(本当?)You are telling lies(嘘をついている)」

 (兵庫県立尼崎小田高校 上浦萌恵先生)
 「みんなが発言しやすいようにするだったりとか、生徒を盛り上げるというのは、さすがにすごく力がある。わかりやすく強弱つけて指導してらっしゃるので、そういうところが勉強になるなと思いますね」
11(1).jpg
 先生としてはまだまだ新米。毎日が勉強の日々です。こうした姿に先輩教師も…。

 (教師歴30年以上の先輩教師)
 「私自身も教えられることが非常に多いです。経験を積めば積むほど逆に慎重になっていく部分もありますので、絶えず前向きに頑張っている姿は自分自身の励みになります」

“30年越しの夢”を叶えるために踏み出した一歩

 教育現場に新しい風を吹き込むペーパーティーチャーたち。30年越しの夢を叶えるため動き出したペーパーティーチャーもいます。
14.jpg
 滋賀県長浜市の中川有紀さん(51)が中学・高校の国語教師の免許を取得した約30年前、免許を持っていても先生になれるのは一握り。手が届かない職業でした。

 (中川有紀さん)
 「倍率が80倍とかって言われてたので、もう絶対受からへんと思っていた。(Q教員採用試験の結果は?)落ちました。勉強不足だったなと思っています。就職氷河期だからとかじゃなくて、自分が勉強不足だったと、あの時は本当に思いました」
15.jpg
 結婚して3人の子どもを育てる中でも、先生の仕事への憧れが消えることはありませんでした。
16.jpg
 塾講師、小学校での読み聞かせボランティア、図書館の司書…。様々な形で子どもたちと関わってきましたが、忘れられない思い出があります。小学1年生をサポートする支援員として1年間だけ学校で働いたことです。
19.jpg
 (中川有紀さん)
 「『先生』と呼ばれたのもすごく感動的でした、自分の中では。1年間ただの1日たりとも『行きたくない』と思った日はないというくらい本当に楽しかったです」

 子どもたちも手を離れ、この先の人生を考えた時、教育現場でペーパーティーチャーが必要とされていることを知りました。「先生になりたい」。30年越しの夢を叶えるため講師の登録をしました。

家族も応援「いい先生になると思う」

 家族の反応は…。

 (中川さんの長女・菜摘さん 大学4年)
 「誠心誠意を持って本気でぶつかっていく先生になるんじゃないかなって、子どもと。いい先生になるんじゃないかなと思っています」

 大学時代から連れ添う夫の忠嗣さん(53)は、いろいろなことに挑戦する妻の姿を見てきました。

 (中川さんの夫 忠嗣さん)
 「経験があるんで、子育てとか学校、教育に対しての。だからそれがプラスになってもし教壇にたてることがあれば、生徒にすごく有意義というか、いい先生になれるのかなと」
 (中川有紀さん)
 「そんなん言わんといて。なれなかったらすごく困るから」

「いろんなことに挑戦し、目標に向け努力してほしいと指導していきたい」

 尼崎小田高校で取材した上浦先生。英語教師として充実した日々を送っています。この先もずっと、先生として子どもたちを教え続けていきたいと考えています。

 (兵庫県立尼崎小田高校 上浦萌恵先生)
 「今だったら天職と思えるくらい、好きな仕事で幸せにできているなというのは感じますね。(Qどんなことを教える先生になりたい?)諦めなければ多くのことは実現可能だから、いろんなことに挑戦して、自分の目標に向かってどんどん努力していってほしいと指導をしてきたいと思います」