日本一の営業距離を誇る私鉄・近鉄電車。従来、忘れ物はそれぞれの駅で管理していましたが、集約して管理しようと、2022年11月に近鉄四日市駅(三重)と鶴橋駅(大阪)の2か所に「忘れ物センター」が設置されました。鶴橋駅には多い時で1日1000点以上の忘れ物が届くということです。そんな忘れ物センターの1日を定点観測しました。
かばんの中から出てきた「大量の傘」「扇子」「帽子」
年間5億人が利用する近畿日本鉄道。電車の中や駅で見つかる忘れ物は1日あたりなんと1000点以上。大阪・鶴橋にある「忘れ物センター」では、大阪線や奈良線など17路線192駅で拾得された忘れ物が集められ、保管・引き渡しを行っています。
午前9時、近鉄忘れ物センターに大きなかばんを持った職員らが入ってきました。
(近鉄忘れ物センター(大阪) 大川悟副所長)
「大阪難波の忘れ物です。前日分、きのう届いた分ですね。(Q何か鳴っていますが?)携帯電話です。(Q落とした人がもしかしたらと?)そうですね」
かばんの中から出てきたのはお土産らしき紙袋や大量の傘、扇子、帽子など、大阪難波駅に届けられた1日分の忘れ物です。
センター内のアラームが鳴るとおもむろに部屋を出る職員たち。向かったのは駅のホームです。
(近鉄忘れ物センター(大阪) 大下宣成所長)
「京都、奈良、天理、生駒方面から来る忘れ物のかばんを受け取りにきています」
そこに特急列車が到着。職員らが手際よく大きなかばんを降ろしていきます。届いたのは奈良駅や天理駅などの忘れ物。各地で拾得された忘れ物はこうして運行列車に乗せられて忘れ物センターに届くのです。
ここからセンターは大忙し。届いた忘れ物の件数や拾得時に登録した内容に間違いがないか、ひとつひとつ確認していきます。化粧液や体操着、そして硬貨1枚もれっきとした忘れ物。きちんと登録して保管します。財布やカード類の忘れ物はすべて中身を出してコインの枚数まで確認します。
(近鉄忘れ物センター(大阪) 大下宣成所長)
「大事なカードをすべて忘れておられるみたいですね。マイナンバーカードも。(Q個人情報など貴重品が入ったものは?)警察に届けて警察に引き渡しとなります。それまでに気づかれてこちらに連絡が入ったら、ここで引き渡しはします」
「お土産」「定期入れ」「虫かご」まで…さまざまな忘れ物が届く
この忘れ物センターができたのは2022年11月。それまでは駅長がいる駅で忘れ物の保管をしていましたが、駅係員の負担軽減と業務の効率化を図るため、センターを新たにつくり集約することになりました。テレビのモニター、スーツケース、運動靴など、実にさまざまな忘れ物が届きます。
中には、「虫かご」も。よく見ると中には生きたクワガタがいました。今年5月に拾得され、1か月経ったいまでも引き取りの連絡はないといいます。
午前11時30分、届いたすべての忘れ物の分類・確認作業が終了。この日の忘れ物は全部で925点。忘れ物の数が多く、午前中はこの作業だけで終わってしまうといいます。
午後1時、忘れ物センターの引き渡し窓口オープンの時間となりました。オープンと同時にやってきたのは、ひとりの男性です。
(職員)「品物はなんですか?」
(男性)「お土産です」
男性は3日前、東京から帰省。東京駅で買ったお土産を忘れてしまったんだとか。
(職員)「こちらですか?中身の確認をお願いします」
(男性)「OKです」
(男性)
「兄弟がいて、その子どももいるんで、(お土産は)子どもが喜びそうなお菓子です」
お土産を渡したその足で東京に帰るそうです。
オープン直後は貴重品を引き取りに来る人が続きます。
「PiTaPaの定期を忘れちゃって。きのうの夕方ぐらいに電車の中に忘れちゃって。ほんま大変でしたよ、きょう」
「こんなもの(iPad)忘れるかなって感じなんですけど。だいぶ焦って、きのうの晩に電話して『ある』って言われて」
「在留カードなどが入った財布」「同級生からの誕生日プレゼント」
財布を落としたというベトナムからの留学生の姿もありました。落としたのはただの財布ではないようで…。
(留学生)
「学生証と在留カードとキャッシュカードと定期券が入っています。全部のカードが財布の中」
(職員)「お待たせしました。こちらですか?」
(留学生)「はい、そうです」
(職員)「中身を見てもらっていいですか?」
(留学生)「はい」
ホームに落ちていたところを乗客が見つけて届けてくれたとのこと。中身は全部そろっていました。
(留学生)
「ありがとうございます。本当に本当にありがとうございます」
その後も引き取りに来る人は途切れません。
(職員)「これ(日傘)で間違いないでしょうか?」
(女性)「そうです!よかった!ありがとうございます。ラッキー」
(日傘を受け取った女性)
「もうよかったー、大したものでもないけどね。ものは大事にせんとあきません」
(帽子を受け取った男性)
「3年ぐらい使ってますからね。被って帰らせていただきます。似合っていますか?」
午後4時15分、小銭入れを落としたという女性がやってきました。同級生からの誕生日プレゼントだといいます。
(女性)「表のほうにチョウチョの刺しゅうがしてあるんです」
(職員)「・・・これですかね?」
(女性)「はい、それです。ありがとうございます」
(小銭入れを受け取った女性)
「手作りなんです。誕生日が同じ日の同級生がいるんです。これの色違いで、チョウチョは私で、花は友達がもらって、2人で大事にしているんです。なのに、なくすんです」
最近増えている忘れ物が「ワイヤレスイヤホンのケース」
午後6時50分、センターを訪れた男性。引き取りに来たのは、ワイヤレスイヤホンのケース。最近増えている忘れ物です。
(男性)
「まだ1か月も経たないぐらい、買ったばかりで。(Qそれは結構ショックですね?)そうですね」
職員は、落としたと思われる日付・路線・色などを聞き取り、登録されている忘れ物から該当するものを探します。
(職員)「これですか?」
(男性)「ちょっと違う…」
(職員)「違いますか…」
(職員)「お待たせしました。これでは?」
(男性)「ちょっと違いますね。(自分のは)細長い、だ円形のような」
数が多い上、似たようなものが多く、なかなか見つかりません。「何とか見つけてあげたい」、職員も必死です。
(職員)「これですかね?」
(男性)「あーこれかな。これですね」
(ケースを受け取った男性)
「よかったです、ほっとしました。もうなくさないよう気をつけます」
『忘れ物を渡したときの笑顔を見るとうれしくなる』
午後8時、営業終了の時間です。扉を閉めに向かうと…。
(女性)「もう終わりました?」
(職員)「よろしいですよ、どうぞ」
(女性)「すみません」
仕事終わりに駆け込みでやってきた女性。定期券を忘れたといいます。
(職員)「こちらですか?」
(女性)「あ、それです!」
時間ギリギリ、定期券は女性の元に戻りました。
(女性)「ありがとうございます」
(職員)「どうぞ、お気をつけて」
(近鉄忘れ物センター(大阪) 大下宣成所長)
「(忘れ物を)渡した後の喜びを見させてもらったらこちらもうれしくなりますんでね。ひとつでも多くの忘れ物を落とした方にお返しできるようにがんばっていきたいと思います」
この日は60点の忘れ物が持ち主の元へと帰っていきました。