波紋が広がりそうな“約束達成宣言”です。6月12日、関西電力の森望社長は福井県の杉本達治知事と面談。県内の3つの原発で現在保管され、福井県側が県外への搬出を求め続けていた「使用済み核燃料」について、その一部を、「核燃料サイクルの実証研究」で使用するためにフランスに搬出すると明らかにしました。関電は「 “県外搬出”の約束はこれで果たした」と主張しています。“ウルトラC”とも言える奇策は、裏を返せば、国内で使用済み核燃料を移管することの難しさを改めて露呈しました。使用済み核燃料の保管問題は、希望の光が見え始めたどころか、暗闇へ突き進んでいるかのような様相を呈しています。

約5年~7年で満杯になる使用済み燃料プール

 使用済み核燃料とは、原子炉で使い終わった燃料のことで、放射性物質を含んでいます。そのため簡単には処分できず、原発内の使用済み燃料プールに保管されています。使用済み核燃料を再処理してウランやプルトニウムを取り出し、再び燃料を作り出すことを「核燃料サイクル」と呼びますが、日本ではまだ実用化に至っていません。また、再処理した後に残る高レベル放射性廃棄物を地下深くの岩盤に埋める「最終処分地」も、日本国内ではまだ決まっていません。行き場のない使用済み核燃料は、原発内のプールに“たまり続けている”のが現状です。
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 関西電力も例外ではありません。福井県内に、高浜・大飯・美浜の3つの原発を抱えていますが、使用済み核燃料の貯蔵量の合計は、容量の8割をすでに超えています。高浜原発では約5年、大飯原発では約6年、美浜原発では約7年で、プールが満杯になる見込みです。

先送りが続いていた「中間貯蔵施設」の候補地提示

 こうした状況に地元の福井県はかねてから懸念を示し、使用済み核燃料の県外搬出を求め続けてきました。関電も、使用済み核燃料をいわば“仮置き”する「中間貯蔵施設」を福井県外に設けることを約束。しかし、放射性物質を含む使用済み核燃料を引き受けたいと手を挙げる自治体はやはり存在せず、関電は候補地の提示を先送りし続けてきました。

 一時、東京電力と日本原子力発電が共同出資して青森県むつ市に整備している中間貯蔵施設に、関電の使用済み核燃料を搬出するプランも浮上しましたが、むつ市の猛反発を受け頓挫。候補地選定は難航を極めます。
2023年末までに候補地提示を約束した森本前社長 2021年2月.jpg
 福井県の我慢も限界に近づく中、関電は2021年2月、「2023年末までに候補地を提示できなければ、(40年超原発の)美浜3号機や高浜1号機・2号機は運転させない」と、悲壮な決意を示しました。今年の年末が最終期限だったわけです。

“フランスへの一部搬出は県外搬出”これで約束達成…?

 そうした中、6月12日、関西電力の森望社長は福井県庁を訪れ、杉本達治知事と面談。大手電力会社やフランスのオラノ社と共同で行う核燃料サイクルの実証研究に伴い、高浜原発で保管している使用済み核燃料の約200トンを、2020年代後半にフランスに搬出すると明らかにしました。確かにフランスは“福井県外”です。森社長は「フランスへの搬出は中間貯蔵と同レベルの意義があり、県との約束はひとまず果たした」と主張しています。

 しかし実情を見れば、約束達成と胸を張るのは、かなり無理があります。今回、フランスへの搬出が決まった使用済み核燃料は、現在3つの原発で保管されている燃料のわずか6%にすぎません。2020年代後半の搬出後もコンスタントにフランスに追加搬出することが決まっているわけでもないのです。問題を“棚上げ”“先送り”したとも言えます。
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 関電は「福井県との約束に搬出の“量”は含まれていない」とする姿勢ですが、県側が求めていたのは、あくまで“恒久的に使用済み核燃料を移管できる場所の確保”だったはずです。さすがに予想外の一手だったのか、福井県の杉本知事も「十分精査した上で、県議会や立地自治体の意見も聴き、県として総合的に判断していきたい」と、態度をいったん保留しています。

運転期間が長期化 増え続けるばかりの使用済み核燃料

 福島第一原発事故から12年。いったんはすべて運転を停止した関電の原発も再稼働が進んみ、現在は5基が稼働中。近く高浜1号機・2号機も再稼働し、全7基が「フル稼働」する状況がまもなくやって来ます。

 今年5月末には、原発の運転年数をめぐり大きな動きがありました。これまでは“原則40年、1回に限り20年延長可=最長60年”というルールでしたが、法改正によって、安全審査などで停止していた期間を運転年数から除外することが可能に。いわゆる“60年超運転”が可能になったのです。原発の運転期間の長期化は、不可避の流れになりつつあります。関電も、美浜3号機と高浜1号機・2号機の3基ですでに20年の運転延長が認められていますが、法改正によって、この3基も“60年超運転”の道が出てきました。また関電は現在、2025年に運転開始から40年を迎える高浜3号機・4号機についても、20年の運転延長を国に申請しています。

 稼働原発が増え、運転年数も延びれば、使用済み核燃料は当然増え続けます。しかし、中間貯蔵施設を確保しない限り、原発内の使用済み燃料プールが“あふれてしまう”未来が早晩やってきます。この究極のジレンマを解消する策は、残念ながら見つかっていないのです。

「トイレなきマンション」に真剣に向き合う段階

 今年6月、大手電力7社は電気料金(規制料金)の値上げに踏み切りましたが、関電は値上げを実施しませんでした。原発の稼働状況が好調であることが、最大の要因です。普段意識することはあまりありませんが、関西エリアは他のエリアと比べても、原発の恩恵を想像以上に享受しています。その恩恵の裏で進む“非常事態”に、我々消費者も本気で直視しなければならない段階に来ています。原発は「トイレなきマンション」と言われることがありますが、そのようなマンションでの豊かな生活が、永久に続くはずはないのですから…。

(MBS原発担当 松本陸)