大阪府堺市の「茶山台団地」で6月3日、年に1回のイベント『16棟マルシェ』が開かれました。この団地では老朽化とともに住民の高齢化が進んでいましたが、最近はファミリー層の入居者も多くなり、活気が戻ってきているということです。そこには“団地再生”の取り組みがありました。
広くてお得『ニコイチ物件』で空き家減少 “救われた”入居者も
1967年、高度経済成長期に大阪のベッドタウンとして泉北ニュータウンが誕生。その中の1つとして茶山台団地は完成し、子育て世代に人気の住宅地となりました。しかし半世紀を越え、高齢化や建物の老朽化などから空き家が目立つように。
ところがこの5年、入居率は上昇し続け、いまでは93.7%に。そこには様々な“仕掛け”が。
住人の湯川まゆみさん(43)は5年前、家族3人で“ある理由”に惹かれて引っ越してきました。住居は一見、何の変哲もない普通の部屋に見えますが…。
(湯川まゆみさん)
「ベランダ伝いになっているので、このベランダから渡る形になっています」
実はこの部屋、ベランダ伝いで2つの部屋が1つになった「ニコイチ」物件なのです。広さは91.68平方メートルで、家賃は7万6000円(※入居から5年間は、市から2万円の補助)。団地を管理する大阪府住宅供給公社が8年前に始めた取り組みで、広い部屋にお得に住めると空き家がぐっと減りました。
湯川さん、ニコイチならではの間取りに救われたこともあったそうで…。
(湯川まゆみさん)
「コロナの時とかは、一戸やったら離婚してたかもしれへんなっていうくらい…やっぱりずっと家にいるわけじゃないですか。狭かったら、やっぱりストレスかかるじゃないですか。壁が壊されていないニコイチやったんで、より良かったなと」
実は湯川さん、小学5年まで茶山台団地で育ちました。
一度は団地を出たものの、自身のNPOの活動で団地再生に携わり、団地の良さを再認識して茶山台に帰ってきました。
(湯川まゆみさん)
「例えば、帰ってきたら、ドアノブに何かつるされてて、野菜とか。『ドアノブかけとくわ』みたいな、まだそういう信頼関係が残っているんかなっていうのも、団地のおもしろさやなと思う」
団地の一室に「食堂」 住民ら交流の場にも
湯川さんは団地を再生させるため、始めたことがあります。団地の一室にある食堂「やまわけキッチン」です。住民みんなでおいしいご飯と楽しい時間を山分けしようと、5年前にオープンしました。
(湯川まゆみさん)
「1人で食べてて寂しいとかそういった声を聞いていたので、食があればここに来るきっかけにもなるし、誰かと話すきっかけにもなるし。1週間に1回は絶対行くようにしているみたいな人がいて、ご自身で安否確認されに来ましたとか、そういう入り方もあるし」
ここは食事を楽しむだけでなく、住民らの交流の場にもなっています。テーブルの一角で行われていたのは将棋です。対局するのは中学生・廣出季和さん(13)と京師進さん(69)です。
(廣出季和さん 対局の様子)
「負けました」
2人は4年前からここで対局を続けています。
(京師進さん)
「どんどん強くなっていますよ。最初のころと比べるとぐ~っと強くなってる」
集会所は「図書館」に さらに「団地で結婚式」も!?
住民同士のつながりはここだけではありません。集会所だった場所は図書館へと生まれ変わり、ここでは子どもたちへの絵本の読み聞かせや、高齢者向けのスマホの困りごと相談会などを開催。
(相談者)「これ(アプリ)減らすことできる?」
(相談にのる人)「いらないやつですか?」
さらに、住民が団地で結婚式!披露宴では住民らが参列し、団地全体が幸せムードに包まれました。
復活した「子ども会」 『16棟マルシェ』での射的開催に向けて準備
かつてのにぎわいが少しずつ戻ってきた中、ある活動も復活しました。「子ども会」です。取材した日は、団地の一大イベント『16棟マルシェ』に向けた話し合いが行われていました。
(子ども会 会長・池田淳さん)「有料でやるか、無料でやるか」
(子ども)「50円くらいやったら、ちっちゃい子でも持ってるんじゃないかな」
子ども会のブースでは射的をすることが決まっていますが、大人は意見を出さず、子どもたち中心で決めていきます。ルールを決めるとみんなで買い出しに。景品で使うお菓子はすべて子どもたちが選びました。
(子ども)
「(Q選んだ基準は?)立つもの。倒されないようにめっちゃ際に立てます」
しかし、イベント前日は大雨。やまわけキッチンでは、イベントで販売するお弁当の仕込みが行われていました。コロナの扱いが5類に変わり、4年ぶりのフル開催。でも不安が募ります。
(湯川まゆみさん)
「やることはやったけど、お客さん来てくれるかなっていう、その不安しかないです」
バルーンアートに射的に…イベント当日は大盛況!
イベント当日。無事、快晴に恵まれました。いよいよ茶山台団地のお祭り『16棟マルシェ』が始まりました。
(大人)「神様ついてるで」
(子ども)「神様?なにそれ」
(大人)「なんでやねん。神様ついてるからこんな晴れたんや、見てみ」
(子ども)「神様じゃなくて上昇気流が原因で晴れたと思うよ」
会場にはバルーンアートや子どもにも安全なネイルカラーなど、14のブースが並びました。
子ども会が準備してきた射的も大盛況です。
(子ども)「めっちゃ(お菓子)取られてる」
「子どもが増えただけでなく、ご高齢の方も結構来てくれた」
湯川さんのやまわけキッチンのお弁当も大人気。団地の住民だけでなく多くの人が集まり、大成功に終わりました。
(湯川まゆみさん)
「毎年重ねるごとに子どもが増えて、でも今回は子どもだけじゃなくて、結構ご高齢の方も来てくださった。やっぱりちょっと引きこもってるというか、閉じこもっている住人さんの出てくるきっかけになればいいなっていうのもこのイベントに込められていたので、それがうまくいったかなと」
住民らのハートを掴む茶山台団地での取り組み。団地再生のヒントは、こうしたところにありそうです。