大阪市の中で外国人住民が一番多い生野区(2022年12月末時点で2万7480人)に、在籍児の半数が外国籍だという保育園があります。言葉や文化・習慣が違う子どもたちをどうサポートしていくか…。苦悩や課題を抱えながら、新たな取り組みも進める現場に迫りました。

言葉も文化も違う児童・保護者 配布物には『韓国語やベトナム語も記載』

 大阪市生野区にある認可保育園「生野こもれび保育園」。朝の定番「おはようのうた」は、日本語に加えて、ベトナム語・韓国語・中国語で歌い上げます。
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 保護者に配るプリントも、行事予定が各国の言葉で表記されています。

 (生野こもれび保育園 辻本慶子園長)
 「在籍している子どもの母語です、行事予定だけは覚えてほしいので。遠足の日に『知らなかった』では困るので。保護者の方がほとんど日本語が読めない。漢字は特に読めないですから、ルビを打つようにしています」

 こうした対応を始めた理由。それは、在籍する園児88人のうち、半数の44人が外国人だからです。さらにこの2年で一気に増えたのがベトナム人家庭の子どもたち。いまでは園児の4割を占めるといいます。
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 (1歳児を担当する保育士)
 「前に私がいた保育園でもここまでベトナムの人は…。初めてなので、どうコミュニケーションとるのか考えていこうかなと」

 (1歳児を担当する保育士)
 「言葉の壁はあると思いますね。先生が何を言っているかもわからないし。でもやっぱり日本に慣れてもらわないといけない」

 言葉の違いに習慣・文化の違い。保育士や職員には“子どもを保育するだけではない対応”が求められています。

保護者との『言葉の壁』も 橋渡し役を担う「保育職員」兼「通訳」

 今年3月、春から園に通う子どもたちの保護者への説明会が行われていました。ベトナム人のフェン・チャンさんは、4月から「保育職員」兼「通訳」として採用されました。1歳児の新園児の7割がベトナム人(4月1日時点)。これまでの体制では十分な対応が難しいからです。
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 【説明会の様子】
  (職員)「おやつは食べますか?」
 (保護者)「…」
  (職員)「おやつ…3時とかにお菓子。ご飯じゃなくて、ご飯とご飯の間におやつ。わかる?」
 (保護者)「(うなずく)」

  (医師)「予防注射はいままで全部打っていますか?」
 (保護者)「予防接種…どんな予防接種ですか?」
  (医師)「はしかとか風疹とか」
 (保護者)「多分、接種あるかもしれない。ベトナムで」

 来日から年数がたっていても職場や家庭では日本語を使用しない保護者もいるため、言葉の理解度はさまざまです。しかし、安全な保育のためには保護者との意思疎通は欠かせません。

  (職員)「フイくんはお家でなんて呼ばれていますか?フイくんって呼んでいます?」
 (保護者)「わからない…」
  (職員)「フイくんって呼んでいる?呼ぶとき」
 (保護者)「…」
  (職員)「チャンさんいけるかな?アレルギーのこと聞きたい」
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 チャンさんがその橋渡し役を担います。保護者から聞き取った内容を職員に伝えます。

 (通訳するチャンさん)「アレルギーはないです」
        (職員)「豚肉・鶏肉・牛肉は大丈夫ですか?」
 (通訳するチャンさん)「お肉も大丈夫です」
 (通訳するチャンさん)「お家で食べ物を小さく切っていたら食べられます」

「日本語を覚えてほしい。日本社会の中で将来的には進学もあるだろうし…」

 必要となっているのは保護者たちへのサポートだけではありません。保育士たちが訪れたのは5歳児クラスに通うベトナム人・ナムくんの家。

 (ナムくんの担任)
 「すごいやん、ナムくん。勉強しているの?」

 勉強をするナムくん。テキストに書かれているのはベトナム語です。
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 (ナムくんの担任)
 「保育園のナムくんの様子っていうのをお話させてもらおうかなと思って」
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 2年前に来日したナムくん。最初は日本語が話せませんでしたが、友達とも会話ができるようになってきました。

 【他の子どもとのやりとり】
 (ナムくん)「ちっちゃ!ちっちゃいな、ほんま帽子」
  (子ども)「被って帽子」
 (ナムくん)「被るでー、被るでー」
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 ただ、まだ来日して2年。先生が言ったことを理解するのには、ほかの子どもたちより時間がかかってしまいます。

   (ナムくんの担任)「頑張ったけど、なかなかそれがうまくいかなくて、悔しい思いもたぶんしていると思うんですけどね。『わかってあげてね』とみんなに声掛けはしているんです」
 (ナムくんのお父さん)「日本語全部わかりませんから、心配する。先生・友達の話のときにわからないことが一番心配」
   (ナムくんの担任)「そうですよね。きょうね、生野区の小学校で使っている教科書を持ってきたんです。ちょっと見ていただいて」
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 持参したのは、1年後にナムくんが学ぶことになる教科書。どの程度の日本語が必要となるのか理解してもらうためです。

 (ナムくんのお父さん)
 「文章で勉強するのはまだ難しいですね。計算するのは大丈夫だけど…」

 日本の小学校に進学するのか、ベトナムに帰国して進学するのか、まだ決めきれていません。記者は、お父さんに通訳してもらいながらナムくんにたずねました(※ナムくんはベトナム語で回答)。
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   (記者)「日本とベトナムどちらの小学校に行きたい?」
 (ナムくん)「日本」
   (記者)「どうして日本の小学校に通いたいの?」
 (ナムくん)「友達がいるから。日本語がまだいっぱい話せないから、先生と話すとき、ちょっとしかわからないけど、友達のことはわかる」
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 園児の4割を占めるベトナム人の子どもたち。小学校に進学した後、彼らを待ち受ける状況に辻本園長も危機感を募らせています。

 (生野こもれび保育園 辻本慶子園長)
 「日本語を覚えてほしいんですけど、それ以前に覚えようとしてほしい。学校だけではなくて日本社会の中で将来的には進学もあるだろうし就職もあるだろうから、そのとき非常に不利になるのは確かだから」

日本語を教える時間を設ける「持っている力を100%生かせる社会であってほしい」

 こうした中、今年度から新たに始めたことがあります。外国人の園児らに日本語を教える時間をつくりました。

   (職員)「僕の」
 (ナムくん)「僕の」
   (職員)「名前は」
 (ナムくん)「名前は」
   (職員)「ナムです」
 (ナムくん)「ナムです」

 (生野こもれび保育園 辻本慶子園長)
 「将来的に継続して日本に住んでもらおうと国が思うんだったら、能力を持っておられる方々をそうやって排除してしまうことになるので、持っている力を100%生かせる社会であってほしいと思います」

 少子化が進む日本。国は外国人労働者の確保に力を注いでいますが、一方で外国人の子どもたちの学び、人生をどうサポートしていくのか。課題は残されています。