長いコロナ禍で運休や減便が相次ぎ、仕事がなくなってコールセンターや自治体職員など他業種へ出向していた航空会社の社員たち。しかしいま、徐々に利用客が戻ってきたことにより、出向していた社員らも本業に復帰しました。そんな中、空港の現場では新たな課題も生まれていました。

平日でも出発ロビーは混雑 空港スタッフは大忙し

 今年5月23日(火)の関西空港。平日にもかかわらず、出発ロビーは利用客で大混雑していました。

 (利用客)
 「韓国です。5年ぶりくらい。楽しみですね」
 「ストレス発散です。韓国料理が食べたいです」
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 活気が戻ってきた関西空港。働く人たちも大忙しです。

 (グランドスタッフ)
 「(Q空港の雰囲気は変わった?)変わりましたね。だいぶにぎやかになりました」

 「仕事がない…」どん底のコロナ禍を乗り越えた空港スタッフに密着しました。
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 空港グランドスタッフの松下梨紗さん(24)。午前8時、向かう先は国際線のチェックインカウンターです。午前便の搭乗手続きを担当します。

 【チェックインカウンターでの様子】
 (松下さん)「おはようございます。パスポートお預かりします。お待たせしました、搭乗口35番です」
 (韓国語で話す松下さん)「おはようございます。マスクをとってください。ありがとうございます。ライターなど入っていませんか?」

 ソウル行きということもあり、この便には韓国人が多く搭乗します。
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 (空港グランドスタッフ 松下梨紗さん)
 「(Qけっこうお客さん乗っている?)ほぼ満席です。忙しいですね、国籍もさまざまなので」

 チェックインカウンターでの仕事を終えると、すぐに搭乗ゲートへ。搭乗手続きを担当した便の見送りをします。
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 飛行機が大好きだという松下さん、念願叶っていまの仕事に就きました。

 (松下梨紗さん)
 「(飛行機を)見るほうが好きなんです。見ていたら心が癒やされる。展望デッキに行ったら1人でも1時間くらいいるんですよ」
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 松下さんが所属するのは、空港の地上業務を手掛ける会社「スイスポートジャパン」です。搭乗手続きや飛行機の出発準備など「グランドハンドリング」と呼ばれる仕事を世界中の航空会社から引き受けています。こうした会社は全国に大きいところだけでも60社以上あるといいます。

コロナ禍で業務なくなり化粧品店に出向『ショップから飛行機を見て悲しくなった』

 慌ただしく午前中の仕事を終えた松下さん。昼休み、お弁当をいただきます。

 (松下梨紗さん)
 「きのうの残り物しか入っていないです。手作りです」

 松下さんが入社したのは2019年12月。「コロナ禍」直前のことでした。

 (松下梨紗さん)
 「(2019年)12月は一番ピークでお客さまが多かったと思うんですけど、(2020年)1~2月くらいからだんだんお客さまが減ってきて。やっと慣れてきて仕事も楽しくなってきたくらいで仕事がなくなってしまったので、すごく悲しかったですね」
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 2020年になると新型コロナウイルスの感染が拡大。その影響で関空の国際線は運休や減便が相次ぎ、出発ロビーは暗くひっそりとしたこれまでに見たこともない光景になりました。
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 この会社も空港での仕事がなくなり、多くの社員が異業種へ出向。松下さんも関空の対岸にある「りんくうアウトレット」内の化粧品店などで1年と1か月間仕事をしていました。

 (出向時の松下さん)
 「販売業が初めてですので不安な気持ちもあるんですけど、精いっぱい頑張ろうと思います」

 こう話していた松下さん。当時を振り返ると…。

 (松下梨紗さん)
 「複雑ですね。空港に帰っても仕事がないので、いま頑張ること、それしかないとわかっていたんですけど、ちょうど飛行機が見えるショップだったんですよ。それを見ながら悲しくなったのを覚えています」

離職者が増加…業界全体で「スキル持つ人材」が不足

 いまからちょうど1年前、ようやく空港に戻ることができました。ただ、その頃から状況が変わり始めます。コロナ禍で航空業界は不安定とみられ、空港スタッフの離職者が増えた一方で、少しずつ回復してきた航空需要に伴い、今度は業界全体でスキルを持つ人材の不足に悩まされることになったのです。

 (スイスポートジャパン・企画管理部 友野浩行さん)
 「復便(定期便の再開)の状況が急激にかえってきている状態なので、それに対して我々も採用を強化していますが、なかなか経験(を積む)ということが時間がかかってしまうこともありますので、そことのギャップのなかで人手不足が生じていると感じております。地上職員がいてお客さまを案内したり荷物を入れたりするということをやらないと飛行機自体が飛ばないので、非常に重要なポジションだと思っております」
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 この会社でも今年4月、新卒で85人を採用。1日でも早く戦力になってもらうべく先輩が指導する日々です。

 (今年4月に入社した社員)
 「(入社して)1か月ちょっとです。責任感のある仕事で大変なんですけど、楽しみながらしています」
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 午後、入社4年目の松下さんも新人の研修にあたります。向かったのは搭乗ゲート。到着する飛行機から乗客を安全に出口へ誘導する重要な仕事です。

 (中途採用の社員)「到着のお客さまと出発のお客さまが一緒にならないように、出発扉と到着扉を同時に開けないこと」
    (松下さん)「一番大事です」

 ほかの業種から入社した未経験者の中途採用も多いので、細かい点もしっかり教えます。

 (中途採用の社員)「カーゴの方、どうぞ」
    (松下さん)「『ティーウェイ』ってつけたほうがいいよ」
 (中途採用の社員)「『ティーウェイ』カーゴの方、どうぞ」

 (中途採用で今年5月に入社した社員)
 「本当に始まったばかりなので、何もかもが注意の連続ですね。まだ知らないことのほうが多いです」

駐機場スタッフ…お見送りの時に感じる“やりがい”

 一方、駐機場では…。

 (ランプサービス 中西洋介さん)
 「いま到着予定の便が入ったのでスポットに向かいたいと思います」

 到着した飛行機の誘導や手荷物などの積みおろしをするのも、グランドハンドリングの仕事です。
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 (中西洋介さん)
 「きょうの到着は比較的安定して(荷物が)少ないほうかなと思いますけど、ご覧の通りこれから積む荷物のほうが非常に多くて、出発作業のほうが比較的ボリュームが多いかなと」
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 ここでも人手不足は深刻で、最小限のチームで作業することもあります。仕事はハードになりますが、ようやく戻った日常に喜びを噛みしめます。

 (中西洋介さん)
 「お見送りの時にお客さまが手を振ってくださったら、ものすごくやっていてよかったなって。あの瞬間があるからこの仕事を続けられる部分ではあります。コロナの頃の寂しかった気持ちを忘れずに心を込めて手を振りたいと思います」

『活気ある空港になって本当にうれしい』

 夕方、松下さんは手荷物の受け取り所に来ていました。コロナ前の賑わいに戻りつつある空港。人手不足もあって任される仕事は日々増えています。でも、コロナを乗り越えて改めて思うことがあります。

 (松下梨紗さん)
 「しんどいことも多いですけど、定刻に安全に飛行機を飛ばしたときはすごくやりがいがあるので、おもしろいと思います。グランドスタッフという仕事が夢だったので、活気ある空港になって本当にうれしいですね」

 コロナ禍に翻弄された空港スタッフ。それでも前を向き続け、空港運営を支える姿がありました。