いまJR四国での管内では赤字対策・コスト削減のために、昔ながらの駅舎の建て替えが進められています。ローカル線の赤字に頭を痛める鉄道会社は少なくありませんが、各地では生き残りをかけたさまざまな取り組みが行われています。
まるで「バス停」 建て替えで簡素化が進む駅舎
のどかな田舎風景を駆け抜ける列車。徳島県では電車ではなくディーゼル車が走ります。ここで最近、ある変化が起きているといいます。
JR牟岐線の立江駅。町の風景とはちょっぴり不釣り合いなメタリックの建物があります。これ、なにかというと「駅舎」なんです。中はこじんまりとしていて、改札はなく券売機もない無人駅です。ぽつんとさみしい駅舎。でも、ここだけではありません。
(記者リポート)
「JR徳島線・阿波半田駅に来ているのですが、駅舎はご覧の通り非常にコンパクトです」
「駅舎」というより「バス停」に近い印象です。隣にあるトイレよりも小さな駅舎。これに地元の人たちは…。
(地元の人)
「(Q初めて駅舎を見た時どう思った?)すごくさっぱりしたなと思いました」
「乗り降りする人がおらんし、こんなんでもええんちゃう。なかってもええくらいよ」
実は、いま徳島県内の歴史ある木造の駅舎が次々と取り壊され、簡素な形へと姿をかえているのです。背景にあるのは「コスト削減」。改修工事や検査などで多ければ数百万円が定期的にかかる木造駅舎に比べて、簡素化することでその費用を大幅に削減できるというのです。いまでは徳島県内にある47の駅舎のうち、2割近くの駅舎が建て替えられました。
しかし、学生の乗り降りが多い駅では困ったこともあります。
(地元の人)
「(Q雨の日とかは?)水が入ってきます。しかもベンチがめっちゃ水だらけになるんですよ。20人~30人くらいがこの中に入って、ずっと来るのを待っていますね。めっちゃ窮屈な思いをして」
「(前の)木造駅舎のほうが好きでした。座れる空間も広かったですし、建物感があったので」
東みよし町にある阿波加茂駅も今後の建て替えが決まっています。しかし、地元の住民らが木造駅舎の取り壊しに反対する署名を町に提出するなど、存続を望む声も根強くあります。
(地元の人)
「残念やね。ここが中心じゃけん、加茂のね。加茂らしい駅舎を置いといてもらいたいけどね」
専門家『地域とJRが一緒になって駅を守っていく必要がある』
JR四国にとっては存続のための苦肉の策といえますが、この動きについて専門家は次のように話します。
(関西大学経済学部 宇都宮浄人教授)
「JR四国はそもそも利益が出る会社ではない。ただ、公益性があるということでやっている会社ですから、すべてをJRに丸投げしてしまってはいけない。地域とJRが一緒になって駅を守っていく必要がある」
「バス」として走り「鉄道」としても走る!世界初の特殊車両「DMV」
一方、攻めの姿勢で生き残りをかける鉄道会社もあります。徳島県最南端の町・海陽町。一見、普通のバスのように見える乗り物が、「赤字路線の救世主」として注目されているのです。
(観光客)
「これだけが目的で2~3時間くらいかけて来たね」
「(Q何が一番の旅行の目玉?)これ。世界初やから一度乗ってみようと」
それは、バスと鉄道の2つの顔をもつ“世界初”の特殊車両「デュアル・モード・ビークル
(DMV)」です。乗客を乗せたままモードチェンジするということで、実際に乗り心地を体験しました。
(車内アナウンス)
「ただいまから鉄道モードにモードチェンジを行います。モードチェンジスタート」
運転士がスイッチを押すと、車輪が降りて車体がゆっくりと持ち上がります。
(記者リポート)
「音楽が流れだしました。ちょっとずつ車体が傾いている…前が浮いているような気がします。あ、すごい。走行音が変わりました。ガタンゴトンと鳴っています」
モードチェンジにかかる時間はわずか15秒ほど。DMVを導入して以降、世界初の車両が体験できる旅行ツアーがつくられるなど、全国から多くの人が訪れるようになりました。
(愛媛から来た人)
「モードチェンジとか太鼓の音とかいろいろあっておもしろかった」
バス会社と鉄道会社に勤めている2人は、なにやら意見が割れているようで…。
(記者)「これは駅舎?バス停?」
(バス会社の人)「これはバス停でしょう」
(鉄道会社の人)「これは駅舎です」
(バス会社の人)「これは道路にあるのでバス停です」
(鉄道会社の人)「いや、これは駅舎って言いますね。だって、モノレールとかタイヤで走っている」
(バス会社の人)「あれはレールやろ?ここにレールねえやろ」
DMV導入後は売り上げも好調!取締役『観光の起爆剤になっている』
DMVは2021年12月に運行がスタート。徳島県南部と高知県東部を結ぶ海岸線をバスモード・鉄道モードと切り替えて走ります。
第三セクターの阿佐海岸鉄道が約16億3000万円かけて実用化を進めたDMV。1992年の開業以来赤字が続いていましたが、導入後は利用者数がコロナ禍前の約2倍に。売り上げも5倍近くとかなりの好調なんだそうです。
(阿佐海岸鉄道 大谷尚義取締役)
「地域に新しい人の流れを呼び込む観光の起爆剤。地域の経済効果を上げていくのも大きな使命というか、目的になっています」
これを商機に町の土産物売り場にはDMVグッズがずらり。Tシャツにぬいぐるみなど15種類以上が並びます。
特に人気なのが、DMV型のモナカ。車体やタイヤにあんこをつめ、自分で組み立てることができるんです。さらにバスから鉄道へモードチェンジすることもできます。肝心のお味は?
(記者リポート)
「あんこを結構入れたんですけど、全然しつこくなくて、丸ごとペロっといけそうですね」
観光には大きな役目を果たしているDMVですが、今後は地元の人の日常の交通手段にも根付きたいといいます。
(阿佐海岸鉄道 大谷尚義取締役)
「多くの観光客の方が来てくださっていますけれども、地域のみなさんの日常の足としても定着できたらいいなと思っています」
赤字路線をどう守り、存続させるか。鉄道各社の挑戦は続きます。