約5年前に『LGBTのかけこみ寺』として生まれた寺があります。性別の「性」に「善い」と書いて『性善寺(しょうぜんじ)』。自身もLGBTの当事者である住職が「若い世代はSNSなどで相談ができるが、中高年の方はそういったところでは相談しづらいのではないか」という思いでつくました。この寺の住職とそこに集う人たちを取材しました。

住職は55歳の時に「男性から女性へ」

 大阪府守口市、性善寺は住宅街にあります。住職の柴谷宗叔さんは男性から女性へと性転換をした性的マイノリティーです。毎月開催される縁日にはLGBT当事者だけでなく近隣の住民も集います。

 (性善寺・住職 柴谷宗叔さん)
 「ずっと自分を押し殺してきた。ここへ来たら仲間がたくさんいるので自分の心に偽らずに本音が話せる。心の安らぎなんですね」
2.jpg
 幼いころから男であることに違和感を持っていた宗叔さん。大手新聞社で記者をしていましたが、2005年に51歳の時に退職して僧侶に。55歳で性別適合手術を受けて女性となりました。

 (柴谷宗叔さん)
 「なんかみんなと違う。女の子と同じことをしている方が楽だったんですね。けれども仲間に入れてくれない。おかまだといじめられたり。若いころはずっとそうでしたね」

宗叔さんの母親は「男の子に産んだつもりなんやからね」

 しかし、女性となった後もその事実を認めてくれない人がいます。母親の良子さんです。

 (記者)「お母さんにとって娘ですか?それともまだ息子なんですか?」
 (良子さん)「返事できん。どっちや」
 (宗叔さん)「娘に決まってるやないの」
 (良子さん)「男の子に産んだつもりなんやからね」
4.jpg
 女性になった一人息子。良子さんはそれを受け入れることができません。

 (記者)「性別適合手術をしたと初めて聞いたときはどう思いましたか?」
 (良子さん)「そらびっくりするわ」
 (記者)「今は?」
 (良子さん)「もうしゃあないなと思う。諦めなしゃあない。まあ言うたら親不孝やで」
5.jpg
 一番わかってほしい人に理解してもらえなかった悩み。自分のような人は他にもいるはず。僧侶となってからは『LGBTのかけこみ寺』をつくるために支援者を募ってきました。

 (柴谷宗叔さん)
 「もんもんとした気持ちを持ち続けながらどうしようもなかったです。私と同じような思いを持っている方々の相談できる場所をつくりたい」

 そして2018年、今の寺を前の住職から引き継ぐこととなり、性善寺が生まれました。

性別適合手術を予定している相談者Aさん『社会がどこまで受け入れてくれるか』

 月一の縁日、祈祷の後はカレーを囲んでの食事会。そこにはかつての自分と同じ悩みを抱える人たちが集います。

 (相談者Aさん)「今後手術して、戸籍を変えたい」
   (宗叔さん)「そうしたらカミングアウトせなあかん」
 (相談者Aさん)「実際、そこまでする必要があるのかと考えたけど、自分の身分証とかに自分が男性と書いてあること自体が嫌なんですよ、苦痛なんですよ」
   (宗叔さん)「苦痛よね」

 女性への性別適合手術を控えているAさん。しかし、葛藤があります。

 (相談者Aさん)「(性転換して)社会がどこまで受け入れてくれるか。そういう漠然とした不安感があるんです。産んでもらった男の体を傷つけるのはいいのかなと、仏様とかが見て怒ってくるのではとついつい思ってしまったんです。いいんですか」
   (宗叔さん)「うんうん」
 (相談者Aさん)「本来の自分で…」
   (宗叔さん)「そうそうそう、そうです」

 当事者だからこそわかる苦しみ。宗叔さんはそれに耳を傾けて寄り添います。

救われた当事者「必要なときに出会った性善寺」

 虎紫志織さんも性善寺に救われた当事者の一人です。

 (虎紫志織さん)
 「必要なときに必要な人に出会う、というような言葉ってあるじゃないですか。それが性善寺さんだったのかなと思っています」
9.jpg
 成人式の時に撮られた写真。そこには不満げに佇む志織さんの姿が残されています。

 (虎紫志織さん)
 「振袖を着たかったしセーラー服も着たかったけど、この時は絶対着られなかったから、悔しい思いをかみしめていた」
10.jpg
 お見合い結婚を経て息子を2人もうけましたが、「男性であること」への違和感は増すばかり。その後は離婚し、性別適合手術を受けて、去年に女性になりました。その時に相談に乗ってくれたのが宗叔さんでした。

 (虎紫志織さん)
 「22歳の時に家出をして親を泣かせているし、離婚をして妻も子どもも捨てたというかたちになるので。そういう負い目はあるんですけれど、これから先の人生は私のためだけに生きるんだという選択をしたわけなんです」

悩みながら生きるLGBT当事者の居場所に

 様々なものを手放して得た「本当の自分」。だからこそ、志織さんは性善寺で答えを求める人たちに、あえて厳しい言葉をかけることもあります。

 (虎紫志織さん)
 「興味本位で、軽い気持ちで、薄っぺらい覚悟でこちら側の世界には来ないでほしい。私たちは人生をかけて命をかけて、それだけの覚悟をもって性別を変えているわけだから」
12.jpg
 本当の性に悩みながら生きるLGBT当事者たち。性善寺はそうした人の居場所となっています。

 (性善寺・住職 柴谷宗叔さん)
 「ここへ来たらやっぱり同類がいるので、お互いにアドバイスし合ったりできるので。そういう意味ではそういう場がつくれてよかったなと。もっともっとたくさんの人に知っていただいて、色んな方が来てくださればなと」