大阪育ちの直木賞作家・西加奈子さん(46)。乳がんと診断され新型コロナウイルスとも闘った嵐のような日々を綴った最新作が話題になっています。

移住先のカナダで乳がんと診断 抗がん剤治療や乳房摘出手術を受けた日々

―――大阪は久しぶりですか?
 (西加奈子さん)
 「電車乗ってみんな関西弁なんが、『めっちゃみんな関西弁やん』って思います。なんか変な感覚になります」
4.jpg
 作家の西加奈子さん(46)。2004年に作家デビューして、2015年に「サラバ!」で直木賞を受賞しました。
2.jpg
 そんな西さんは4年前、夫と子どもと一緒にカナダへ移住。その1年8か月後の2021年8月、乳がんと診断されます。

 今年4月に発売された著書『くもをさがす(河出書房新社)』では、乳がんの中でも治療が難しいとされる「トリプルネガティブ乳がん」と診断され、抗がん剤や手術などを受けたカナダでの約8か月をありのままに綴っています。
@.jpg
 「例えば、抗がん剤ユニットに行って抗がん剤を打つ時とか、こっちはドラマチックな気持ちになるんで、初めて打つ時とかに、こう瞑想でもしながら打とうと思って『ふー』とかやってたら、看護師さんがラジオつけてボン・ジョヴィかかってきて、『♪Shot Through The Heart』とか看護師がボン・ジョヴィ歌っているんですよ」

―――ボン・ジョヴィに救われたんですよね?
 「わろてまいますよ。めちゃくちゃ歌ってるやん、看護師やん、みたいな。私は患者ですよね、もちろん。『乳がん ステージ2B トリプルネガティブの変異遺伝子保持者』の患者。ではあるけど、1回もほんまに“かわいそうな患者”として扱われたことはなかったです。私がどれだけ痩せようが苦しんでいようが、『加奈子かわいそう』っていう態度は1回もとらなかったです。それにすごく救われました」

 西さんは、抗がん剤治療の後に乳房の摘出手術を受けます。がんが見つかった右胸だけでなく両胸を切除。再発と転移を予防するためでした。

―――両方の乳房を切除するというのは大きな決断でしたね?
 「それもよう言われるんですよ、『大きな決断で』『勇気があって』と。ほんまに『いらんな』って思ったんですよね。それはもちろん、いままでのお話もいま話していることも全部主語は『I』『私は』なんですよ。『私はいらんから、あんたもいらんやろ』は絶対にない。私の場合はほんまにもういらんかったんです。もういらんな、ありがとうっていう感じで。めっちゃ満足しているというか、むっちゃ好きです、いまの体が」

「人生で一番、自分を見つめ続けた8か月やった」

 抗がん剤治療中に新型コロナウイルスにも感染。笑顔で話す西さんですが、心の中にはさまざまな感情が渦巻いていました。

 「落ち込む時にとことん落ち込んだんですよ。めちゃくちゃ怖かった時に、その怖いのをなかったことにして『大丈夫、私は』って乗り越えたことは1回もなくて。怖いな、死ぬのが怖いんやな、じゃあなんで死ぬのが怖いんかなってずっと、ずっと、ずっと自分に寄り添って、ほんまに自分を慈しんだ。自分を見つめ続けた8か月やったので、人生で一番」

 そして、この経験は“作家・西加奈子”にも変化をもたらしました。

 「いままで自分も小説を書いてきた分、小説なりのクライマックスがあったりして、エピローグを書いて小説が終わるみたいなところがあったんですけど、実際自分ががんになって、エピローグとかクライマックスが終わっても人生は続くんやなっていうのをすごく感じました。物語が終わったあとも登場人物の人生は続いていくんやということを身をもって体感したので。作品を量産していると登場人物のことを忘れてもうたりするんですよね、書いた後の。でもそれはちょっとなんか嫌やなって。登場人物ととことん付き合うということをしたいなって思います」