神戸ポートアイランドにある動物園「神戸どうぶつ王国」。今年のゴールデンウィークには約4万8000人が訪れました。さまざまな希少動物も展示され、来園者を楽しませる仕掛けがたくさん施されている動物園ですが、その裏には『野生の姿にこだわる』敏腕園長の思いがありました。
徹底的に「野生」の姿を再現!敏腕園長の強いコダワリ
神戸市中央区にある「神戸どうぶつ王国」。スマトラトラやナマケモノなど…さまざまな動物たちが生き生きと動きまわります。
(客)
「レッサーパンダがだらんとしていてかわいかった」
「いっぱい動物を触れるし、いろんな種類の動物もいるので、楽しいからまた来たいなと思った」
ネコ科の中で最も古い種とされるマヌルネコ。生息数が減少しているため繁殖活動にも力をいれています。
マヌルネコの様子を注意深く観察する男性。神戸どうぶつ王国の佐藤哲也園長(66)です。隣の男性となにやら話し込んでいますが…。
(神戸どうぶつ王国 佐藤哲也園長)
「(Q話していたのは誰?)お客さん。(Qお知り合い?)お知り合いっていうか、マヌルネコのファンの方で。ありがたいことにずっといてくれるので、その日の様子を聞くのに手っとり早い(笑)。(Q園長はなぜ『制服』を着ない?)この方がお客さんの声が聞こえるから。こういう格好をしているとお客さんと変わらないから、けっこう本音が耳に入ってくる」
園長が目を光らせるのは動物だけではありません。コツメカワウソがいる人気エリアでは…。
(佐藤園長)「この『ヨシ』大丈夫かい?」
(植物担当者)「これだけ立ってるので、3月4月に新芽が芽吹くのを待ちます」
(佐藤哲也園長)
「ここは東南アジアの湿地帯を参考にしている。自分が行って見てきていますから。(Q東南アジアの森を再現?)お客さんのためじゃなくてカワウソのために。そうすれば(カワウソが)自然界にいたような活動をしますよね。それはお客さんが見ても楽しいですから」
「徹底的に野生の姿を再現する」、これが神戸どうぶつ王国の大きな魅力です。
夜行性動物の新エリアを考案『動物たちの真実の姿を見せたい』
姫路セントラルパークなどで飼育員をしていた佐藤園長。40歳で独立すると、栃木県那須の動物園を譲り受けて経営を立て直しました。そして2014年、倒産した前の施設を買い取り「神戸どうぶつ王国」を開業したのです。国内最大級の広さをほこるハシビロコウの生態園など新しい展示場を次々にオープンさせて、園長就任以来、集客は右肩上がりです。
そんな敏腕園長がいま、コロナ後の起爆剤として期待しているのが、ニホンモモンガや国内ではここでしか飼育していないフクロシマリスなど「夜行性動物だけを集めた展示場」です。
(佐藤哲也園長)
「まだ全然完成していないんで工事現場みたいですけど、実際にはここが森になりますから。夜行性の動物を昼間見ても寝ているだけですから。それが真実の姿と誤解されるでしょ。そうじゃないのを見せたいなと思って」
今年4月11日、展示する動物たちの搬入が行われました。中でも園長のお気に入りが、ニホンモモンガです。そこには、ある思いが…。
(佐藤哲也園長)
「ニホンモモンガは国内でもどんどん数を減らしていて希少動植物種になっているわけですけど、こういったものが日本に住んでいることをわかってもらえれば、ニホンモモンガの将来も明るくなる気がしています」
オープンまであと10日ほど。準備は順調に進んでいます。
引退した動物たちの面倒を見続ける佐藤園長『せめて最期の時を幸せに』
佐藤園長は毎日どうぶつ王国にいるわけではありません。この日は兵庫県福崎町にある会社兼自宅にいました。
(佐藤園長)「おはよ~」
(社員)「きょう佐藤さんにお願いしたいことがあって、キャバリア(犬)の皮膚と、フンの検査と、老猫の管理方法の相談がしたいです」
(佐藤園長)「はい」
中には人工保育器や診察台があり、園長自ら飼育動物の体調管理や定期検査を行います。
(佐藤哲也園長)
「(Q顕微鏡で何を見ている?)モルモットのうんこです。たとえば寄生虫とかいろんなことがわかりますけど、これで見つけたら獣医に連絡して病院で治療の診断をするわけです」
動物がいるのは建物の中だけではありません。広い芝生にいたのは…。
(佐藤園長)「大地!はいはい、大ちゃん」
神戸どうぶつ王国などでショーにも出ていたボーダーコリーの大地(14)、引退犬です。
(佐藤哲也園長)
「(Q第一線で活躍できない犬を引き取る?)引き取っているんじゃないです、自分のところの動物ですから。一生懸命仕事した犬や動物が定年になって再任用も終わって、伸び伸びと過ごす場所がここです」
大地以外にも、展示できなくなった動物をここで飼育。最期の瞬間まで面倒を見つづけることが動物園を経営する者として当然だと考えているからです。
(佐藤哲也園長)
「せめて最期の時を幸せに…。幸せかどうかわからんけど、であろうと思うことはしないといけないと思うわけです。人間と違って自分たちだけでは生きていけない仕事仲間だから」
念願の新エリアがついにオープン!しかし…『全然だめ。0点や』
4月21日、神戸どうぶつ王国に園長念願の新しい展示場「モモンガの夜」がオープンしました。初日の様子を見るため、久しぶりに園を訪れた佐藤園長。しかし、エリアの入口を見た途端、スタッフを呼びつけました。
(佐藤園長)「全然だめだ、全然だめ」
(スタッフ)「植物がですか?」
(佐藤園長)「全然だめ、0点や。今までで最悪」
(スタッフ)「作り直し?」
(佐藤園長)「やり直しやり直し」
(佐藤哲也園長)
「だって夢がないでしょう、夢が。さあこれから入るんだって思った時に夢がない、まったく。夜の森に入っていくんだという期待感もない」
(スタッフ)
「全力で仕上げたんですけど、まだまだ全然及んでいないので。これから言っていただいた所を改善しながら、さらに良い展示場にしていけたらなと」
かき入れ時のゴールデンウィークを前に、園長からの厳しい指摘。スタッフたちは急ピッチで修正作業に取り組みました。
改善された新エリアに客の反応も上々…それでも佐藤園長は「野生」を追求し続ける!
そして、迎えたゴールデンウィーク本番。「モモンガの夜」には多くのお客さんが訪れていました。動物たちも元気に動き回り、お客さんの反応も上々のようです。
(客)
「あ~モモンガ!」
「かわいい~」
「アルマジロがかわいかった」
「暗い感じで別世界にいてるみたいで、おもしろかったです」
そして、課題だった入り口も大きく姿を変えていました。
(佐藤哲也園長)
「これでまだね、いよいよ野生の夜の世界に入っていくという雰囲気は少しできた。前よりはできています」
これで完成かと思いきや…。
(佐藤園長)「この辺まで消さないと。これ(施設の一部)が見えているのが最悪や。鉢が丸見えがよろしくない。もうちょっと鉢を隠してほしい」
どこまでも「野生」を追求する佐藤園長の頭の中に妥協の文字はありません。
(佐藤哲也園長)
「全ての施設・パフォーマンスは常にブラッシュアップを考えていかないといけないものですので、完成形はないんじゃないかと思っています。(Qどうぶつ王国への満足度は?)僕が今まで体験してきた本当の野生に対してまだ50%かなと。私は本当の野生の世界を100とみています」
人々を魅了する動物園「神戸どうぶつ王国」。その裏には動物への大きな愛に溢れ、徹底的に野生にこだわる敏腕園長の存在がありました。