新型コロナウイルスによる『自宅放置死』で家族を失った遺族たち。5類移行にともない行政による対策終了・緩和が進む中、「これまで以上に医療の充実を」と訴えます。自宅療養中に亡くなった人は第6波で555人、第7波で776人(厚生労働省調べ)。悲しみを繰り返さぬようにと声を上げ続ける遺族の活動を取材しました。

コロナ感染後に自宅で1人亡くなった弟

 新型コロナウイルス陽性を知らせる医師からの電話が最後の通話でした。

 大阪府内に住む高田かおりさん(48)。唯一の身寄りで沖縄に移住していた弟の竹内善彦さん(当時43)をコロナで亡くしました。
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 コロナの陽性確定は2021年8月5日。保健所が6日と7日に電話をしたもののつながらず、8日に自宅アパートを訪問したところ、1人で亡くなっていました。本来、保健所は陽性者と1日連絡がつかない場合は自宅を訪問することになっていましたが、当時は第5波で業務がひっ迫して遅れたといいます。弟の死を知らされたのは8月10日でした。
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 (高田かおりさん)
 「なんで医療にたどり着かせてくれなかったんだろうと。あと1日早かったら、あと2日早かったら助かったんやなって。誰にも看取られずにひっそりとってそういうことじゃないですか。それが一番つらかったかな」
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 高田さんは、善彦さんの死は「自宅放置死」だったと訴えて、2021年9月に遺族会を立ち上げて代表を務めています。遺族会が調査したところ、医療にたどり着けずに亡くなった人が全国各地にいることがわかりました。

 【さいたま市で死亡した男性(当時73)のケース】
 「保健所に『軽症』と判断され、入院を希望していたが自宅療養を余儀なくされ、体調が急変し死亡した」

 【東京都内で死亡した男性(当時45)のケース】
 「LINEが既読にならないのを不審に思った家族が様子を見に行くと死亡していた」

遺族の懸念「5類移行で自宅放置死が増えるのでは」

 厚生労働省によりますと、コロナ感染後に自宅療養中に亡くなった人は第6波(2022年1月~3月)で555人、第7波(2022年7月~8月)では776人に上りました。感染者数が増加したことが要因とみられています。こうした中、国は新型コロナウイルスの位置付けを2類から5類へ引き下げることを決めましたが、遺族会では自宅放置死がさらに増えるのではないかと懸念の声が相次ぎました。

 (父親が死亡した男性)
 「当時は第1波で、発熱した当時はすべて新宿区は入院を断られたんですね。いまだにそういうことが続いていると思うので、5類になったからそれが解決できるのかなというのは非常に心配しております」

 (高田かおりさん)
 「2類相当から5類になった時に、もう本当に放置死は起こらないのか、これって放置をされる前提なのか、すごく遺族としては怖い部分があって。そこに対して自宅放置死がなかったことで終わらせてもらったら困る」

 こうした意見を国に提出するため、高田さんら遺族は街頭などでの署名活動を続けました。国に求めるのは自宅放置死の検証。その上での医療体制の改善です。

 (署名活動を行う高田かおりさん)
 「5類になって、このままだったら同じことになってしまうので、大人も子どもも含めてちゃんと医療にかかれて、いままでコロナがなかったのではなくて、また次いろいろなことが起こった時に教訓にしてくださいと」

善彦さんが亡くなった沖縄へ 恩人が話した「弟への思い」

 署名活動を行う中、高田さんが向かったのは沖縄県那覇市。弟が亡くなった経緯を直接確かめたいと、善彦さんが亡くなったアパートを訪れました。

 (高田かおりさん)
 「悲しいっていうか、受け入れないとしょうがないというか。わかっているんやけど、いいひんの。弟の最後の姿は見ていないけれど、ここに来るのは、ちゃんと見とこうって」
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 この夜、善彦さんの友人らから話を聞くことができました。
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 比嘉篤志さん。亡くなった後、大阪にいる高田さんに代わり部屋の片づけなどを引き受けてくれた恩人です。
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 (比嘉篤志さん)「部屋の片づけをしに行った時には、ベッドの横にお弁当と飲み物が置いてあって、食べようと思ったけど食べきれないくらいきつかったんじゃないかなと。善彦の件も、これはちゃんとやってあげないと、と。弟みたいなもんだから。それこそちゃんとみんなでやろうよと。みんなの弟君だったから」
 (高田さん)「ありがとうございます。篤志さんからお話を聞くと、他界しちゃったけど幸せだったんだろうなって。ちゃんと生きさせてもらえていたんやなと。早かったけど」

善彦さんを診断した医師も署名

 もう1人、会いたい人がいました。善彦さんを診断した曙クリニックの医師・玉井修さん。コロナ陽性を知らせる最後の電話をしたのが玉井さんでした。

 (玉井修医師)「苦しがっている様子も電話は全然聞こえなかった。それが最後の電話になっちゃったんだよね。あの後、多分急変してしまったのかなという感じがする。これだけはこれだけは信じてほしい。これだけは信じてほしい。あの時やれることは精いっぱいやった。ただね、彼の命は帰ってこないから。これは事実だし。生き残った我々が何をすべきか、何を話していくべきかというのは、竹内君が残してくれた課題じゃないかなと思う」
  (高田さん)「やっぱりちゃんと生きていたんやなって、先生のお話を聞くと、頑張って生きていたんやなって」
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 コロナと闘った医師とコロナで弟を亡くした遺族。立場は違っていても思いは同じでした。署名にも快くサインしてくれました。

 (玉井医師)「我々は忘却してはいけないんですよ。それをやらないためにも、こういう署名活動をぜひやっていただきたい」
 (高田さん)「ありがとうございます。頑張ります」
 (玉井医師)「じゃあグータッチをしましょう」
 (高田さん)「ありがとうございます」

1万346人の署名と共に加藤厚労大臣に直訴

 今年4月、高田さんは国会を訪れていました。集まった署名は1万あまり。加藤勝信厚労大臣に思いを直接伝えます。
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 (高田かおりさん)
 「コロナでたくさんの人が悲しみの彼方に追いやられて、たくさんの命が奪われました。私たちが言いたいのは、とにかく起こったことを検証していただいて、これからの明日にどうかつなげてください。1万346人の方々の署名です。この思いを受け止めてください。お願いします」
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 (厚生労働省 加藤勝信大臣)
 「5類への移行となりますが、そうした移行を進めるにあたっても、コロナがなくなるわけではございませんから。しっかりその点を留意しながら、円滑に進めていきたい」

「優しくて誰にでも好かれた弟やったらどうしてほしいか」

 国内でコロナに感染して死亡した人は7万4669人(今年5月8日時点)。医療を受けられないまま不条理に亡くなった人も多くいるとみられます。その1人、善彦さんの死を無駄にせず教訓として生かしてほしい。高田さんは訴え続けます。
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 (高田かおりさん)
 「優しくて誰にでも好かれた弟やったらどうしてほしいかなって。『大事な人とか友達とかが俺と同じ目にあうの嫌やし、やってくれへん』と言われている気がしてやったかな。いつまでやるんやろうなと思うけど、『やって』と言っているもん。『言い続けて』『納得いくまで』と言っているような気がしますね」