4月23日から兵庫県西宮市で開催されている「ポップサーカス」。1996年に旗揚げし、これまでに170を超える都市で公演。世界で活躍するパフォーマーたちが集結しています。そんなポップサーカスが始めた新たな取り組み「サーカス・アーティスト育成制度」。この育成制度で採用された訓練生たちと、公演開幕までの舞台裏に密着しました。

繰り広げられる大技の数々…全国で公演行う「巡業型のサーカス団」

 手に汗握る大技に、鍛えられた肉体から生み出される迫力のパフォーマンス。4月23日に開幕した「ポップサーカス西宮公演」。目の前で繰り広げられるダイナミックな技の数々と幻想的なステージに観客は釘付けとなりました。

 (観客)
 「楽しかったです。大興奮で」
 「楽しかった。(Q何が楽しかった?)全部」
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 多くの人でにぎわったサーカス会場。さかのぼること8日前の4月15日、この場所では大粒の雨が降る悪天候の中、設営作業が進められていました。4月9日に栃木県宇都宮市での公演を終え、西宮へ約600kmの大移動。何もない工場跡地に一からサーカス会場をつくっていきます。設営スタッフに交じり作業を行うのは、サーカスでステージに立つパフォーマーたち。
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 スタッフ・出演者全員で作業を行い、2日間かけて高さ20m・幅46mの巨大な特設テントが立ち上がりました。
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 1996年に旗揚げした「ポップサーカス」。自前の特設テントとともに日本各地をめぐり公演を行う巡業型のサーカス団です。大型動物やバイクなどは使わず、世界中から集まったトップパフォーマーたちによる迫力満点のショーが見どころで、これまでに170を超える都市で公演。1500万人以上の観客を集めてきました。

 しかし3年前の2020年2月、新型コロナウイルスの影響で公演休止を余儀なくされます。その後も再開のめどは立たず、出演者たちはそれぞれ自分の国に帰るなどし、サーカス団はいったん解散となりました。

育成制度に応募した訓練生『サーカスの道を捨てたくない気持ちが強くて』

 そんな厳しい状況の中、サーカスは新たな取り組みを始めます。それは「サーカス・アーティスト育成制度」です。サーカスの舞台に立つことを目指す若者にプロの講師から指導を受ける機会を与えるというものです。
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 (ポップサーカス 澁谷明浩さん)
 「現実的なことを言えば、いろいろ収入が全く無いわけですから、そういう中で始めるというのは大変だったんですけれども、希望とか夢とかを途切れさせないということをやらないと、そのままズルズルと諦めモードになるのはやっぱりよくないので」
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 1年半前にオーディションを開始し、いまサーカスには5人の訓練生がいます。そのうちの1人が、兵庫県出身の藤田真子さん(21)です。

 (訓練生 藤田真子さん)
 「中学生のときに家族旅行でリゾート施設に行ったんですけれども、そのリゾート施設のアクティビティに空中ブランコがあって、空中ブランコをやったときに『これやりたい!』みたいな感じで。いったん普通の高校に進学していたんですけど、いろいろ進路とかを考えるにあたって、やっぱりそういう道を捨てたくないなという気持ちが強くて」

 目指すなら早いほうがいいと、高校3年のときにアクロバットを学ぶことができる高校に転校。本格的に技を学びサーカス団への就職を目指しますが、コロナの影響でサーカスの求人は全くありませんでした。

 (訓練生 藤田真子さん)
 「練習は続けているけどどうしようかなと思う瞬間はいっぱいあったんですけど、そんな中でポップサーカスを見つけた」
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 諦めかけていた夢がこの育成制度でつながりました。しかし入団当初、サーカスは公演休止。練習に使う設備はなく、もっぱら体育館や野外で筋トレやマット運動といった基礎訓練の毎日。繰り返し行うことで、できなかった技もこなせるようになりました。
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 そして今年2月、3年ぶりにサーカスの公演が再開され、訓練生もサーカスの設備を使ったパフォーマンスの練習ができるようになりました。

 (訓練生 増野さんごさん・19)
 「最初の合宿は回数がエグくて。昼間にやったのに夜また同じのを繰り返すって言われて、キツって思って」
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 訓練生を指導する中国の「大連雑技団」出身の張永強先生。妥協を許さない先生も訓練生のがんばりには太鼓判を押します。

 (張永強先生)
 「彼らはみんな一生懸命やっています。とてもいい。私はとても満足しています」

“テント裏のコンテナ”で共同生活 

 藤田さんたち訓練生は特設テントの裏にあるコンテナで暮らしています。

 (訓練生 藤田真子さん)
 「隣は同じ訓練生のさんごちゃんが住んでいて、このコンテナには4人住んでいます。あまり広くないのでロフトベッドを買って、これにしてからだいぶ住みやすくなりました。冷蔵庫とかはもらったものです。炊飯器もいただきました」
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 部屋には電気や冷暖房は付いていますが、トイレ・シャワー・水道などは別のコンテナです。ポップサーカスのような巡業サーカスでは、スタッフ・出演者が会場内でともに共同生活を送るのが基本のスタイルです。訓練生は今回初めて会場の引っ越しを経験。自分たちの手で生活空間をつくるところから始めました。

 (訓練生 藤田真子さん)
 「こっち(西宮)に来てから1日目がライフラインを整えるというのがメインの仕事だったんですけど、終わったかなと思ったらどこかでポンプが動いてなくて(水が)あふれてきたり。それも共同生活ならではなのかなって」
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 4月21日、開幕2日前。特設テントでは公演の無事を祈る安全祈願が行われていました。ステージでは出演者がパートごとに自分たちのパフォーマンスの確認を行っていきます。その傍らでは、会場の設営がまだ続いていました。訓練生はステージには立てない分、サーカスの運営スタッフとして設営作業に打ち込みます。

大盛況となった公演初日 藤田さん『来年はステージに立てたらいいな』

 4月23日、迎えた公演初日。この日を待ちわびた多くの観客が会場につめかけました。

 (観客)
 「僕が初めてだから行きたいと思って。早く行きたくて、朝行きたかったけど(サーカスは)昼からだった」
 「(Qサーカス楽しみですか?)うん、楽しみ。とりあえずサーカス見たい」
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 初回公演は1200席が完売。ジャグリング・一輪車・リボンアクロバットなど、1つの技が決まるごとに客席からは大きな歓声があがります。
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 藤田さんたち訓練生は照明や客席案内係など裏方として公演を支えます。大盛況となった公演。いつかは自分も舞台に…。藤田さんの思いがまた強くなりました。
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 (訓練生 藤田真子さん)
 「見渡す限り全部お客さんみたいな感じで埋め尽くされていたのは、本当に、自分はショーに出ていないですけどそれでもすごくうれしかったですし、毎日ショーに携われているおかげでモチベーションにもつながります。できたら来年はステージに立てていたらいいな」