関西で最も歴史があるとされる学生プロレス団体があります。それは1978年創設の同志社大学プロレス同盟「DWA」です。しかし、現在、「DWA」に所属する選手は1人だけ。伝統の灯を絶やさぬよう奮闘する、たった1人の学生プロレスラーに密着しました。

同志社プロレス同盟「DWA」の“たった1人の選手”

 リング上で繰り出される豪快な技の数々。選手同士が激しくぶつかり合い、そのたびに会場が沸きます。
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 石井海翔さん(21)。同志社プロレス同盟「DWA」唯一の選手です。大学に選手はたった1人。そのため、ほかの大学の選手らに交じって興行に参加しています。石井さんは同志社大学神学部に通う3年生。中学生の時に見た海外選手の動画に衝撃を受け、自分もやってみたいと“学生プロレス”がある同志社大学の門をたたきました。

 (石井海翔さん)
 「普通の格闘技じゃ出せない魅力が間違いなくプロレスにはある。技の美しさであったり、しかもかっこいいじゃないですか、必殺技がある選手って普通に考えてかっこいいじゃないですか。技名もすごくイカしたもの、イカしたネームの選手もいっぱいいる。そういったやっぱりかっこよさですかね、プロレスラーの一番好きなところは」
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 とはいえ、中高6年間は美術部でスポーツ経験はゼロだった石井さん。筋トレに加えて毎日の“餅生活”で、2年間で12kg体重を増やしました。
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 所属するプロレス同盟「DWA」は1978年に創設。関西で最も歴史ある学生プロレス団体と言われています。ところが、コロナ禍で活動ができなくなり、十数人いた部員は一桁に…。石井さんが入った時には4年生7人になっていました。
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 選手1人となったいま、練習は大学から片道2時間かけて立命館大学の選手らと合同で行っています。

 (石井海翔さん)
 「(Qもし新入生が入らなかったら?)まずいですね、まずいどころの騒ぎじゃないんでね。サークルとしての立ち位置が危ぶまれるので、とにかく1人は入ってもらわないと」

繰り出される技!技!技の嵐!久しぶりの興行に会場は白熱!

 今年2月、「学生プロレス」の興行日。リングは選手らが自ら設営していきます。会場の真ん中にべニア板を敷き詰めてテープで固定。20人で1時間半かけて6m四方のリングが完成しました。コロナ禍で興行が一切できなかった「学生プロレス」。選手もファンも待ち望んだこのひととき、試合が始まると会場に熱気があふれます。
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 出番を控えた石井さんのもとに強力な応援団が駆けつけてくれました。創設メンバーのOBです。

 (創設時のOB)
 「4月に新入生が入ってくれればいいんだけどね。なんとかDWAを存続させてほしいです」
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 DWA存続への期待を一身に背負い、石井さんの出番がやってきます。会場に、リングネームである「フェリス・ジェリコ女学院」が呼びあげられました。石井さん、何度も練習を重ねてきた技を次々と決めていきます。そして…試合は石井さんの勝利。興行も大成功し、最後まで観客たちを魅了しました。

 (観客)
 「プロ顔負けで、ものすごくよかったと思います」
 「初めて学生プロレス見たんですけど、こんなに試合が白熱すると思わなくて。楽しかったです」

キャンパス内で公開試合をしたい石井さん…しかし『ご期待に添えない』

 3月10日、春休み。学生の姿もまばらなキャンパスに石井さんの姿がありました。新入生に仲間入りしてもらいたいと、学内での公開試合を企画しようというのです。公開試合はこの数年、コロナ禍で開催できていませんが、以前は新入生の歓迎期間や学園祭などでの公開試合が大学プロレスを知ってもらう機会になっていました。
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 今年こそはと、イベントの実行委員会へ直談判します。

 (交渉する石井さん)「先日もお話させていただいたんですけど、プロレスの試合を今出川キャンパスでやりたいと思っているんですけど、どうにかなりませんかね?」

 実はこれまで何度もお願いをしてきましたが、安全面やリングを立てられる場所がないからと許可がおりていません。今回は…。

 (オリエンテーション実行委員会)「ご期待に添えない形になってしまって申し訳ないんですけれども、今年度は…」
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 (石井海翔さん)
 「学内でも試合ができる実績を作りたい、残したいですね。僕たちが今年やって来年に引き継ぐっていう形を取りたいです。僕しかいないんで、僕が動くしかないんで」

新歓イベントでビラ配り…勧誘受けた新入生『痛そう』

 4月6日。キャンパスは新入生をサークルや部活に勧誘する新歓イベントで賑わっていました。石井さんにとっては勝負の時です。自らデザインしたチラシを配って新入生にアピールします。
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 (石井さん)「こんにちは、プロレスサークルです。どうですか?興味ありませんか?」
  (新入生)「いや、あんまり…」
 (石井さん)「よかったらビラだけでも。ありがとうございます!」

 でも…やや苦戦している様子。

 (勧誘を受けた新入生)
 「痛そう。見る分には超たのしいですね」
 「(Qプロレスをやってみようとは?)いや、それはあんまり思っていないかなって。(Q入りたいのはどこ?)サイクリングクラブっていうサークルがあって」

特設ステージで見せた圧巻のパフォーマンス!悪役を倒す姿に新入生も大興奮

 結局、公開試合は実現できませんでしたが、粘り強い交渉の結果、代わりに特設ステージでパフォーマンスが披露できることになりました。といっても、リングはないのでマットを敷いて即席リングを設営。他校の仲間たちも駆けつけてくれました。

 石井さんにとっては学内での初めてのパフォーマンスです。

 (石井海翔さん)
 「あと数分後には出番がくる。もうやれるだけのことをやるだけですね。全力で頑張ります」
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 そして…。

 (マイクパフォーマンスをする石井海翔さん)
 「みなさんこんにちはー!なんと今、純同志社大学生は私だけしかいません。俺がかっこいいヒーローだったらだれか入ってくれるのかな…。俺がヒーローだったらなあー!(リングに悪役プロレスラーが登場して)なんだなんだ!おい!お前どこから入ってきた!ここは神聖なる同志社大学だぞ!ここで彼女を救ったら、皆さん僕たちのサークルに入ってくれますかー!?」
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 自虐ネタで笑いをとりつつ、プロレスの格闘技としての魅力も伝えようと技を光らせます。石井さん、ステージで力を尽くしました。見ていた学生たちの反応もまずまずです。

 (新入生)
 「いやアツいっすね!めちゃくちゃおもしろかったです」
 「全力でかっこよかったです」
 「次のステージを見るために来たんですけど、早く着きすぎて、見たらすごいのやっていた…」
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 (石井海翔さん)
 「ステージを見た感じすごくいっぱい人が来てくれて、『こんなに人が来てくれるんだ』と思ってすごくうれしかったですね。少しでも僕たちに感化された人たちがサークルに入ってくれればと思います」

 学生プロレスの伝統の灯を絶やさない。起死回生へのゴングは鳴らされたばかりです。