金魚すくいで使われるポイが、なんと外科手術のトレーニングに活用されています。血管などを縫い合わせる技術の習得に一役買っているということですが、どのように使われているのでしょうか。
水の中を泳ぐ金魚を器用にすくう“金魚すくい”。この金魚すくいで使うのが、プラスチックの枠に和紙をはりつけた「ポイ」と呼ばれる道具です。繊細ですぐに破れてしまうポイが、医療の分野で大活躍しているといいます。
訪れたのは、愛知県の名古屋市立大学。医師の卵たちが集う医学部の研究室で学生たちの手元を見てみると、ポイを活用した外科手術のトレーニングが行われていました。
例えば心疾患などの外科手術では、先の曲がった針とピンセットで血管などを縫い合わせるのですが、それには繊細で高度な技術が求められます。この技術の習得にポイが一役買っているというのです。
このポイを作っている工場は奈良県広陵町にあります。国内シェア6割を誇る、日本一の金魚すくいのポイ工場です。しかしポイは無地が主流のため、印字することができるポイ用の薄い紙がなく、製作は原材料の洗い出しからはじまったといいます。
(堀田プラスチック工業 杉本勝久社長)
「小さい会社ですから、医学に関連するものをつくれるっていうのは全然想像つかなかったんで。苦労はいっぱいありましたけどね」
依頼を受けた2年前は、コロナ禍により地域の祭りが次々に中止となったため、ポイの需要はほぼゼロ。まさに渡りに船でした。
(堀田プラスチック工業 杉本勝久社長)
「これで練習してもらって医療の技術が上がれば、本当に私らとしてはうれしい」
苦労を重ねた末にできたこの手術トレーニング用ポイ。記者も実際に針とピンセットを使って試してみます。一見、簡単そうに見えたのですが…すぐに紙が破れてしまいました。
(学生)
「手が震えて、実際の血管だと思ったら全然縫えないです」
(名古屋市立大学 心臓血管外科 山田敏之外科医)
「このもろさ、薄さが内膜(血管)と同じではないんですが、この紙が破れないように縫う能力、技術は、血管をきれいに縫うということに通じる要素がたくさんある」
他にも血管を模した練習素材などはありますが、1つ何千円する高価なものも多いため、1枚30円程度のポイはかなりリーズナブルです。
さらに、縫われたポイの写真から、正確に針を通せているかや糸のたわみなどを瞬時に採点するアプリもあるということです。
外科手術トレーニング用ポイが開発された背景には、いま医療業界で起きている深刻な外科医不足の問題があるといいます。
(名古屋市立大学 心臓血管外科 山田敏之外科医)
「どうなったら手術デビューできるのかとか、どうしたら次のステップにいけるのかというのがなかなかわからなくて、ゴールのわかりにくさが外科医のなり手不足の原因の1つに。ゴールが設定しやすいトレーニング、これができるようになると、外科医を目指しやすくなるということにもなります」
金魚すくいのポイで高度な技術を習得した医師らが手術室に立つ日もそう遠くないかもしれません。