3年で2度の「業務改善命令」という異常事態だ。関西電力の社員らが、大手電力会社以外の小売事業者、いわゆる「新電力」の顧客情報を不正に閲覧し、営業活動にも悪用されていた問題。 経済産業省は4月17日、関西電力と関西電力送配電などに対し、電気事業法に基づく「業務改善命令」を出した。電力小売の公平な競争を揺るがす不正行為に、極めて厳しい行政処分が下された形だ。一連の不正閲覧は、何が問題で、再発防止のために何が求められるのだろうか。 

電力の小売自由化を“骨抜き”にする不正

経済産業省 資源エネルギー庁・保坂伸長官
電気事業の中立性、信頼性に疑念を抱かせる状況を作り出した当事者であることを踏まえ、この命令を重く受け止めていただくとともに、必要な措置を早急に講じていただきたい」

4月17日、関西電力の森望社長を東京まで呼び出し、「業務改善命令」を出した経産省。電力の公正な小売競争を根底から揺るがす不正に、国も怒りが収まらない。

電力の小売自由化を進めてきた国は、新規参入した電力小売事業者、 いわゆる「新電力」も、大手電力会社と平等に送配電ネットワークを利用できるようにするために、2020年に大手電力会社の発電・小売部門から送配電部門を分社化させた(発送電の法的分離)。送配電会社は当然、電気を送り届ける上で「新電力」の顧客情報も持つが、その情報は、資本関係がある大手電力会社に対しても、見せてはいけないルールになっている。大手電力会社がその顧客情報を使って営業活動を展開し、「新電力」が不利になる状況が生まれないようにするためだ。

しかし2022年12月、関電の子会社「関西電力送配電」のシステムで、情報遮断に漏れがあることが判明。「新電力」の顧客情報を、関電の社員委託先社員も閲覧できるようになっていた。送配電側の調査によると、低圧(家庭や商店など)の電気について、2022年12月までの約3年間で、関電の社員511人と委託先の社員1095人、合計1606人が「新電力」の顧客情報15万3095契約分を閲覧していた。不正閲覧はまさに“常態化”していたのだ。

閲覧目的は問い合わせへの対応など様々だが、国が危惧していた“営業活動への悪用”があったことも明らかになっている。上記の1606人のうち、62人の関西電力社員が、5万4774契約分にのぼる「新電力」顧客情報を「営業活動に使う目的」で閲覧。電力使用量が多い住宅を抽出し、関電とのオール電化契約への切り替えを促す訪問営業を行っていたケースなどが発覚した。営業活動との因果関係は断定できないものの、情報が閲覧された新電力の契約のうち、3911契約が関西電力との契約に切り替わっている。
興味深い事実も出てきている。関西電力のアンケート調査に応じた関電社員456人のうち150人(約33%)が「電気事業法上、問題になり得ると認識していた」と回答。一方で、委託先社員833人のうち810人(約97%)が「問題になり得ると認識していなかった」と回答した。関電社員のコンプライアンス意識の低さが改めて浮き彫りとなったとともに、委託先社員の法令や制度への理解の乏しさも露わになった形だ。

“タイミングが良すぎる” 関西電力から新電力顧客への「営業電話」

“被害者”とも言える「新電力」側は今回の事態をどう見ているのだろうか。京都市に事業所を置く「TERA Energy(テラエナジー)」。僧侶が立ち上げた異色の「新電力」だが、社長の竹本了悟氏は、“顧客情報が関電に漏れているのではないか”と感じる場面が、以前からあったという。
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 (TERA Energy 竹本了悟社長)
「正直な話、数年前から、お客さんに対して、関電と名乗る電話で営業が入るという事例は多く聞いていましたので。たとえば、テラエナジーに電気を切り替えた顧客に対し、1か月とか少し経ったタイミングで、関電と名乗る営業の電話がかかってきて、 “今の契約よりもメリットがある契約に切り替えることができますよ”という営業電話がかかるという事例は、いくつか聞いていますね。 (新電力に)契約を切り替えた顧客に、しばらくしてすぐに連絡が入るという事例は、テラエナジーだけではなくて、周辺の新電力の方々からも情報としては入っていたので」
「独占から(自由化に)移行してきた流れがありますので、新電力側というのは “巨人に蟻がぶつかっていく”というぐらい、不利な状況で電力小売ビジネスを展開することになっています。そうした中で、一番力を持っているところが、ルール無視でそういうこと(不正閲覧)をやるような業界なんだなということに対しては、非常に残念に思いますし、一刻も早く改善してほしいと思っています

発送電分離 資本関係も解消する「所有権分離」求める声も

不正閲覧問題を受け関電は、2月下旬~4月末までテレビCMの放映も含め“能動的な営業活動”を自粛している。しかし、“2か月の営業自粛などでは足りない”と、より厳しい処分を求める意見書を国に提出したのが、電気料金の比較サイトを運営する「ENECHANGE(エネチェンジ)」だ。
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(ENECHANGE 千島亨太執行役員)
「(小売自由化や発送電分離といった)電力システム改革の信用を損なったという意味では、それを徹底的に解明して、改めて再スタートを切るには1ヶ月2ヶ月では、とてもじゃないけど足りないと思っています。原因究明もまだできていません。 改善できる期間というのは6か月ぐらい(の能動的な営業活動停止)を取るべきだと思って、今回の提言を出しています」
今、電力業界ってウクライナ情勢などで燃料価格が上がってしまって、電気代の値上げをお願いする立場じゃないですか。国民の皆さんに一定の理解、値上げの痛みをお願いしつつ、お願いしている企業が裏側では悪いことをしている、不正なことをやっている。これはちょっと理屈に合わないと思うんですよね。真摯にオペレーションをしっかりと回すことができて、初めて値上げなどが履行されるべきだと思っています
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一連の不正閲覧問題を受け、罰金増額など、電気事業法上の罰則強化を求める声が上がっている。さらに、送配電会社の独立を徹底するために、法的に別会社にする「法的分離」にとどまらず、発電・小売会社との資本関係も解消させる「所有権分離」を実行すべきだという声も高まっている。

実際に海外では、イギリスやドイツなど所有権分離を実現している国がある。
ENECHANGEの千島氏も、所有権分離を視野に入れるべきだとする立場だ。

(ENECHANGE 千島亨太執行役員)
「考え方は3つあると思っています。1つ目は自主的に改善してもらうこと。これは今まさに、関電さんが自主的に取り組みをされているような改善策で解決する方法。2つ目は、今の(発送電の)法的分離という枠組みの中で、監査監視機能と罰則規定を強化することによって、自浄作用を図ること。最も厳しい3つ目が(発送電の)所有権分離。それによる完全な分離独立を図り、徹底的に監視管理対象にするという、この3つだと思うんですよね。残念ながら、1つ目と2つ目が、上手くいっていなかった、または上手くいかなさそうであるのが明確になってしまった」
電力業界が過度に“性善説”に立って、不正がまかり通る状況を放置していたことを看過せずに、所有権分離も含めてどんなシステムが最適なのかを議論するタイミングだと思っているんですよね

関西電力と関西電力送配電に出された業務改善命令は、電気事業法に基づく行政処分としては、最上級の厳しい処分だ。経産省は関電・関電送配電の両社に、抜本的な再発防止策を練って進捗を報告することのほか、関係者への厳正な処分を命じている。

関西電力が業務改善命令を受けたのは、金品受領問題に関連して出された2020年3月以来。3年間で2度も業務改善命令を受ける異常事態で、信頼は完全に地に堕ちた。

関西電力は経営理念の中で、自社の存在意義として、『「あたりまえ」を守り、創る』を掲げている。関電が、電力の安定供給という「あたりまえ」を担ってきたのは事実だが、不正閲覧問題にせよ、カルテル問題にせよ、公正に他社と競争するという「あたりまえ」は、悲しいほどに軽視していた。“不祥事のデパート”というイメージを払拭するのは容易ではなく、いばらの道が待っているだろう。

(MBS 電力担当 松本陸)