18歳・19歳が特定少年と位置づけられることになった去年4月の少年法改正。これにより18歳・19歳が少年院ではなく刑務所に入所する例が増える可能性があります。そんな中、改正をきっかけに刑務所では「若い受刑者に教育を受けさせる」という新たな取り組みが始まっています。その現場を取材しました。
刑務所で行われる授業 取材した日のテーマは『暴力について』
埼玉県川越市の川越少年刑務所。ここでは犯罪傾向が進んでいないとされる主に26歳までの約600人が服役しています。
ここは犯した罪を償うための刑務所です。しかし去年9月から更生に向けた新たな取り組みが始まっています。
(受刑者)「気をつけ、礼。よろしくお願いします」
(受刑者らに話す教官)「きょうの目標は、暴力を振るいやすい状況や状態について考える」
取材した日に行われていたのは授業。テーマは『暴力について』で、ストレスを感じたときの対処法を共有していきます。
(受刑者)「話すのが面倒くさくなったり、人の話を聞くのが面倒くさくなったりしたら、ストレスが溜まっている」
(教官)「そういうときには具体的にどう対処してきました?」
(受刑者)「ないです。時間の経過ですね」
(教官)「時間に任せる?」
(受刑者)「そうですね」
(受刑者らに話す教官)
「皆さんには(ストレス軽減法を)10個くらい、この所内にいる間に作ってほしい」
21歳・A受刑者『無免許運転で同乗の友人を死亡させたなどの罪』
授業を受けているのは初犯であることなどの理由から選ばれた18歳~22歳の受刑者24人です。そのうち21歳のA受刑者。
(A受刑者・21歳)
「道路交通法違反と無免許運転過失致死と住居侵入と強盗致傷で捕まって来ました」
19歳のときに無免許運転で事故を起こして同乗していた友人を死亡させたなどの罪で服役しています。ここに移送される前の刑務所では『袋を折り畳む』という刑務作業が中心の生活でした。
(A受刑者・21歳)
「ただただ時間をつぶして、そのときの気分とかで1日を過ごしていたので、無駄だったなと思います。作業して、みんなでテレビ見て、寝てを繰り返していた」
少年院の『更生目指す指導法』を刑務所に
ここで服役する9割以上が1日のほとんどを製品の検品や製作などの刑務作業に費やしていますが、A受刑者ら選ばれた24人はこうした作業はしません。これは刑務所での指導に少年院のノウハウを生かすという新たな取り組み。単純な刑務作業を行わせるだけの懲罰を科すよりも、少年たちの更生へと大きく舵が切られたのです。
きっかけとなったのが去年4月に改正・施行された少年法です。民法の成人年齢引き下げに伴い、少年法では18歳と19歳が「特定少年」と位置づけられ、検察官に送致される罪の範囲が拡大。これまで少年院に送られていた少年が刑務所に入所するため、少年院ならではの更生を目指す指導法を取り入れたというわけです。
午前8時。刑務官の号令のもと向かった先は教室です。
解いているのは国語や数学の問題。タブレットを使った映像学習にも取り組むなど、こうした教育指導に1日の半分が割かれています。
21歳・B受刑者『特殊詐欺のいわゆる受け出し子をした罪』
21歳のB受刑者。19歳のとき、特殊詐欺で高齢者から現金をだまし取る、いわゆる「受け出し子」をして刑務所に入りました。
(B受刑者・21歳)
「大事な友だちがいて、その友だちから誘われて断りきれずにやってしまった感じです。被害者の家に行ったときも、『なんでだまされちゃうんだろう』みたいな感じでずっと罪悪感はもっていました」
高校を中退し、これまでほとんど勉強したことがありません。ところが今では4時間の自由時間も机に向かうようになったといいます。
(B受刑者・21歳)
「最初は全然やる気なかったんですけど、高校時代に勉強していなかったものが反動で楽しくなってきたみたいな感じです。(Q自分の中で感じる変化は?)すごく変化しているってわけじゃないんですけど、勉強が大きいのか、いろいろな将来を見据えることを考えるようになりました。勉強すると知識がついて自分のやりたいことが増えてくる」
授業以外の残りの半日は、国家資格の取得を目指す職業訓練を受けています。半年間、受刑者を見てきた教官は彼らの変化を感じていました。
(担当の作業技官)
「ただ紙折をずっとやるのではなくて、ある程度『ここからここをこうやろう』と自分で工夫しながらやっていけば、出来上がったときには成功体験というか、最初は『なんでこれをやらないといけないんだ』という受刑者が『これだけの時間でできましたよ』なんていう感じで言っているので。少しはやる気を持ってやれてきているのかなと」
教官「再犯しないようにするのが僕たちの一番の仕事」
別の時間、A受刑者は担任の教官の面接を受けていました。話題は自らが起こした交通事故についてです。
(担任教官)「裁判のときに被害者遺族の方から、『死んでほしい』と本気で言われたんだよな。それを踏まえて、被害者遺族の方に考えや思いはあるかな」
(A受刑者)「やっぱり『もう戻らない』っていう言葉。改めて話していて現実味を帯びたというか実感しました」
“遺族への思い”までは言葉が出ませんでした。面接は月に一度。前回からどのような変化があったのか、さらに問いかけが続きます。
(担任教官)「前回は『無免許を気にしていなかった』と言っていた。自分から『さあ行こう』というわけじゃなかったと。今はそういう気持ちはなくなってきた?」
(A受刑者)「そうですね。自分がどうにかできたかなと思うので」
(担任教官)「この1か月で変えたものって何かな?」
(A受刑者)「自分の今まで書いてきた日記とか、そういうのを振り返って原因を考えたときに、自分が止めることもできたし、今回みたいに事件・事故を起こしちゃってるのも自分自身。それが自分が悪いかなと思うことにつながりました」
次の面接までに、遺族に何ができるか、考えをまとめることになりました。
こうした時間以外も、受刑者と担任は毎日、日誌を通じてやり取りしています。ひとりひとりに寄り添い、事件に向き合ってもらうことで、贖罪の気持ちを芽生えさせることが目的です。
(A受刑者の担任)
「最初は自分のことだけしか目がいかなくて。それが少し自分のことから被害者、遺族の方へ目が向けられた。受刑者に厳しいことをするというのも遺族の方とか社会的に見たら必要で『当たり前だろ』と思うことかもしれないですけど、受刑者を教育して、社会に出て再犯をしないようにするのが、僕たちの一番の仕事かなと思います」
『教育』を受けることへの受刑者らの思い
24人の教育期間は1年。半年後には教育中心の生活を終え、それぞれ残りの刑期を過ごすことになります。
(B受刑者・21歳)
「(Q今、何のために刑務所にいると思いますか?)もちろん罪を償うというのもあるんですけど、やっぱり立ち直る必要がある。罰を与えるだけだと何も進まないような気もするので、教育、“教えて育てる”というのが出所後の生活にも大事だなと思います」
(A受刑者・21歳)
「なんかちょっと優遇されているように見えるところに、(遺族は)疑問とかいらだちとかを感じるのかもしれないなと思います。これ以上、自分のせいで誰かが亡くなるとか悲しむとか、そういうのは起こさないようにしたいなと思います」