事務いすが生み出す熱狂レース『いす-1GP』。事務いすで1周180mの商店街を2時間走り続けて周回数を競う大会です。2010年に京都府京田辺市のキララ商店街で誕生、日本事務いすレース協会(JORA)が主催しています。そんな『いす1』で今年初めて中学生限定の大会が開催されました。大会の若き運営者となった中学生の奮闘に密着しました。

父親が生んだ『いす-1GP』に夢中に

 中学3年の田原有真くん(14)。一見、普通の生徒に見えますが、ひとたび家に帰れば…。
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 いす1のパーカーに、いす1の帽子。いつもの自慢のファッションです。
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 実はいす-1GPは有真くんの父親・剛さんが発案して2010年にスタートしました。現在では全国20か所以上で開催され、台湾やシンガポールといった海外でも人気を博しているのです。

 (田原有真くん)
 「最初は小学4年生くらいで行った台湾の時で、めちゃめちゃ人で盛り上がっていたので、これは面白そうだと思いました。(Qいす1を考えたお父さんはすごい?)普通に生活していてこんなん出てこないと思います」
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 いす1の楽しさを知るためにも、24歳・脚力に自信ありの記者が有真くんと対決してみると…。

   (記者)「負けたー。速いな、やっぱり」
 (有真くん)「ありがとうございます。こんな感じでどんどんいろんな人をいす1のファンにしていきたいです」

 しかし有真くん、ある危機感を持っていました。

 (田原有真くん)
 「いす1を知っている人がたまにいる感じで、全然みんな知らないです。ちょっと悲しいなって。中学生限定のいす1大会をやります」

 新型コロナウイルスで大会が3年間中止となったこともあり、周りはいす1を知らない人ばかりに。さらに、大会には16歳以上しか出場できないことから、新たに中学生限定の大会を立ち上げることに決めたのです。
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 (いす1生みの親・有真くんの父親 田原剛さん)
 「いす1を自分なりの視点で見てくれていたのはうれしいですね。基本的には中学生大会の募集であったりとか運営についても一度任せてみようかなと」

目指せ出場者30人!景品交渉にチラシ配りも自ら

 3月4日に開かれた実行委員会の会議。大人たちの中に有真くんの姿がありました。会議では中学生大会についてさまざまな質問が。

 (実行委員会メンバー)「最初にテクニックやコツのレクチャーって参加者は受けられたりするんですかね?」
 (有真くん)「うーん…」

 (実行委員会メンバー)「男子と女子の体力差というのもあるかなと思うんですけど」
 (有真くん)「まだ詳しくは考えていないんですけど、うーん…体力だけで勝てる競技ではないと思っているので、テクニックで勝てるならいいんじゃないかと思います」

 その一方で心強い援軍も。学校の同級生たちが大会の運営を手伝ってくれることになったのです。

 (有真くんの同級生 重村祐真くん)
 「田原君から最初にいす1って聞いて、自分も知らなかったんです、最初。いす1ってどんなもんなんだろうって感じて、その時に興味を持った」
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 そんな新たな仲間たちと話し合うのは出場者を集めるためのある秘策。ズバリ景品作戦です。

 (有真くん)「景品で何があったらうれしい?」
 (同級生)「中学生やからな」
 (同級生)「ギフト券みたいな」
 (同級生)「トロフィーとか飾っておけるもの」

 大人の大会の景品はお米ですが、中学生が喜びそうなものは?

 (有真くん)「焼き肉やったらいろんな人と友達とか家族とかと食べに行けたりするし。焼き肉どう?焼き肉」
  (同級生)「焼き肉いいやん」
 (有真くん)「焼き肉うれしいやろ?」
  (同級生)「うん」

 激論の末、5位までに入れば焼き肉の商品券がもらえることに決定しました。

 とはいえ、大会の予算には限りがあり、景品にするにはどこか焼き肉店に協力してもらわねばなりません。早速、次の週末に地元の焼き肉店「牛匠かぐら 松井山手店」に交渉に向かいます。

 (有真くん)「大会の景品をここの焼き肉券にしたいんですけど…。自分もお弁当とか食べさせてもらったんですけど、めちゃめちゃおいしかったので、ぜひここがいいと思いました」
 (上田健太店長)「それなら是非うちも協力させていただきたいと思います」
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 交渉はあっさり成立。さらに攻め込んで店の前にポスターも貼らせてもらうことに。
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 目標の出場者30人を目指して勧誘はまだまだ続きます。

 (勧誘する有真くん)「いす1出てくれへん?いす1知らん?1位とってくれたら焼き肉1万円食えんぞ」
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 学校でポスターを配ったり、しっかりとSNSでもアピールしたり、中学生とは思えぬ行動力で手を尽くします。

 (田原有真くん)
 「不安は特にないです。ずっとワクワクが勝っています。まだ当日があるので最後までやりつくそうと思います」

大会当日 大人も中学生も出場者が続々と

 そして迎えた大会当日。大人の大会には続々と全国から出場者が集まってきます。
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 (島.RC千歳)
 「北海道からきました。(Q北海道大会の?)優勝チームです」
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 (コクヨ東京レディース)
 「株式会社コクヨです。速さとかわいさを兼ね備えています」
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 そんな中、中学生大会にも出場者が続々とやってきました。

 (中学生大会 出場者)
 「友達(有真くん)にチラシを配られて、面白そうと思ってやってみようと思いました。田原君のおかげで出られることに感謝しています」

 (中学生大会 出場者)
 「(目標は)1位です」
 「右に同じです。お金ないんで焼き肉が食べたかったんです」

 出場者は18人。目標には届きませんでしたが、必死の勧誘が実を結びました。受付にまだ来ていない人には…。

 (有真くん)「俺が電話するわ。なんて言おう…シャイやから。…(電話が終わり)いま向かっているらしいです。一安心です」

 しっかり大会責任者としての仕事を全うします。
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 そして、その時がやってきました。

 (マイクで話す有真くん)
 「ただいまより、いす-1GP2023京田辺大会を開会します」

焼き肉を目指して白熱の戦い!真剣に挑む中学生たち

 中学生大会は大人と違い直線30mの勝負。2回走ったベストタイムを競います。目指すは焼き肉。中学生たちがいざスタートです。

 みな表情は真剣そのもの。必死に足を動かして、ゴールを過ぎても止まらないほどの勢いです。
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 見るだけでは物足りないと、有真くんも出場しますが…転倒してしまいました。

 (田原有真くん)
 「(Qここまでどう?)結構白熱してます。みんな結構真剣というか、本気で焼き肉を狙っていてうれしいです」

 激しい熱戦に沿道からの応援も盛り上がりを見せます。

 そして中学生大会が終了しました。

 (出場者たち)「(Q楽しかったですか?)楽しかったです!(Q有真くんには?)発案してくれてありがとうな」
  (有真くん)「盛り上げてくれたんで。出てくれてありがとう」
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 いす1で生まれたみんなの笑顔。初めての中学生大会は大好評のうちに幕を閉じました。

 (田原有真くん)
 「大人たちとか友達とかの協力もあってできた大会だと思っています。来年以降ももっといす1を広げて、いまよりもっと多くの人をいす1に呼びたいです」
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 少し背伸びした中学生の春。愛するいす1のためこれからも走り続けます。