「子育て環境日本一」を目指す一方で、財政難の京都市。今年度、保育所の補助金が13億円削減されました。保育所の経営ひっ迫、保育士の給与カットで現場はどうなっているのか、その声を取材しました。

京都市では国の基準よりも保育士の配置を手厚く設定

 京都市山科区にある西野山保育園。午前7時に朝の保育が始まります。乳児のクラスでは抱っこをせがむ園児や泣いてしまう園児など朝から大忙しです。
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 午前9時半、年齢別のクラスが始まりますが、まだまだ遊び足りない子も。そんな気持ちに保育士は丁寧に寄り添います。

 (園児に話す保育士)
 「だいじ、だいじ、ないない行こう」
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 西野山保育園には、0歳児から5歳児まで124人の園児が在籍。京都市では国の基準よりも保育士の配置を手厚く設定していますが、この園では保育の充実のため、さらにそれより多く保育士を配置しています。それでも、突然起こる子ども同士のトラブル。保育士の忙しさには変わりはありません。

 (園児に話す保育士)
 「当たったら痛いね。いじわるじゃないってちゃんとわかってはる。だから悲しくて泣いている」

補助金減額「すごく残念」「時代に逆行しているというか…」

 その一方で、京都市の保育士はいま複雑な状況に置かれています。今年度、京都市が13億円補助金を削減したことを受けて、この園では800万円ほど補助金が減額となる見通しで、前年度から職員の賞与を0.5か月分減額としました。

 この状況に保育士からは次のような声が聞かれました。

 (保育士・7年目)
 「保育士も毎日子どもを守るために一生懸命働いている中での補助金カットや賞与カットというのはすごく残念やなと」

 (保育士・37年目)
 「今までよりも求められるものが増えているのに、処遇というかお給料が減っていくという。時代に逆行しているというか」

 賞与カットの一方で、コロナ対策や保護者対応など求められることは増え続けています。

お散歩や給食「もうバタバタな感じです」

 午前10時すぎ、1歳児クラスがお散歩にでかけます。園児の人数を数えて出発です。大人の足で徒歩3分ほどの公園に到着。子どもたちは思い思いの方向に散らばっていきます。

 (保育士)「いいものあった?」
  (園児)「いいものあった!」
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 かくれんぼをしたり、ブランコに乗ってみたり、好奇心の赴くままにあっちへこっちへ。

 その間、保育士さんはというと、子どもたちと遊びながらも保育の事故を防ぐために人数の確認を頻繁に行います。

 【保育士たちのやりとり】
 「こっちで12。そっち半分で7いたらOK」
 「7!」
 「OK!」
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 (保育士)
 「この公園は4か所出入り口があるんですよ。ピュッと行ってしまったら車通りなので、しょっちゅうしょっちゅう数えています。けど1歳児ってものすごく好奇心がむくむく育つ時期なので、何でもかんでも『あかん』としてしまうのはやっぱりかわいそうだし、そういうところをぐぐっと伸ばしてあげて、どんどん身体と心が成長してほしい」

 正午前、給食の時間。2歳児のクラスをのぞいてみると…。

 (園児に話す保育士)
 「お肉と一緒にお豆1個頑張ろう。よっしゃ!」
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 1人の園児の食事介助をしていても、あっちからこっちから呼ぶ声が。子どもたちが少し落ち着いてから、保育士もようやくお昼ですが、ゆっくりと食べることはできません。

 (保育士)
 「こんな感じです。子どもたちがだいぶ自分で食べられるようになってきたので、大人も離れて食べながら、子どもたちの食べる様子を見ながら、もうバタバタな感じです」

保育だけでなく『保護者の相談役』も

 午後1時すぎ、園児たちはお昼寝の時間。
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 その間、保育士たちはというと、紙に何かを書いています。

 (保育士)
 「お母さんたちは仕事中で子どもの姿が全然わからないので、『日中はこんなんして過ごしていた』というのをちょっとでも伝えられたら。保護者と保育園の交換ノートみたいな感じです」

 保育士が担う仕事は子どもの保育だけではありません。子どもを知るプロとして保護者の相談役も担います。

 (1歳児・3歳児の保護者)
 「子どものこと以外、プライベートとのことでもすごく話しやすくて親身になって対応してくれたりとか、気になったことがあったら面談の日程をすぐ決めていただいて、いろいろお話を聞いていただけるのですごく助かっています」

経験年数に応じた「給与加算」が11年で頭打ちに

 多くの役割を求められる保育士。しかし、こうした経験が豊富なベテラン保育士が、制度見直しで複雑な思いを抱いているといいます。今年度、保育士の経験年数に応じて支給される給与の加算が、11年で頭打ちとなったのです。その結果、ベテランを多く抱える園では、経営のひっ迫や変更前の給与水準を保つことが難しくなっているといいます。

 (ベテラン保育士・37年目)
 「11年目以降は変わらないし、そんなお給料もらっているのも申し訳ないのかなという気持ちを同年代はもったというか。高いお金をもらっているあなたたち(ベテラン)はいりませんよと言われている感覚」
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 こうした状況に、保護者や保育所団体も反対の声を上げています。

 (保護者 今年2月の会見)
 「子どもたちの命と将来に深くかかわる保育士。その仕事はきわめて重要にもかかわらず、あまりにも低くみられていないか、ないがしろにされていないか」
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 これについて京都市に話を聞きました。

 (京都市・子ども若者はぐくみ局 横川勇樹幼保企画課長)
 「削減のための見直しではなくて、これまで課題のあった制度について各職種ごとに必要な人件費が確実に行き渡るように透明性の高い制度に変更したものですので、我々も丁寧に説明してご理解をいただければそういう結果につながってくるというふうには考えています」

「『日本一子育てしやすい』と掲げるなら、なおそこにお金を入れて」

 京都市は削減後も「53億円の市の独自予算を確保している」として「給与水準の維持は可能」としていますが、西野山保育園の吉岡昌博園長は、保育現場に起きたしわ寄せを京都市にはしっかりと把握してほしいと訴えます。

 (西野山保育園 吉岡昌博園長)
 「子どもたちが安心してすくすく育ってくれる環境を整えてほしい。これは親御さんも保育士も、僕たち運営するものも同じ思い。京都市として『日本一子育てしやすい』と掲げるのであれば、なおそこにお金を入れてもらわないと難しいんじゃないかなっていうふうに思いますね」
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 保育所の一日は閉園の午後7時まで続きます。未来を担う子どもたちと、働く親。両方をサポートする保育所と保育士をどう支えていくべきか。課題に直面しています。