おそらく日本でここだけ?大阪市生野区の大阪偕星学園高校にある『キムチ部』。部員は10人、活動は週に3日で、文化祭に出店するなどいろいろな活動をしています。そして創部から1年足らずで、漬物の創作レシピで競う「全国漬物グランプリ」に挑戦。部員たちの奮闘を取材しました。

白菜の塩漬けからつけだれまで!キムチつくる高校生たち

 大阪市生野区の大阪偕星学園高校は生徒数は約830人。大阪コリアタウン近くに位置する文武両道を掲げる学校です。

 2年生の栗川大輝くん。去年できたばかりの全国でも珍しいキムチ部の部長を務めています。
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 放課後、活動拠点という食堂に案内してもらうと、厨房ではまさにキムチづくりの真っ最中。

 (部員)「ベストは1日おいたら。水の出方が違います」
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 とにかくおいしい白菜キムチをつくるべく、白菜を塩漬けするところから始まり、唐辛子・ニンニク・りんご・魚醤などを混ぜ合わせたキムチのつけだれまでも。白菜キムチを一から十まで自分たちの手でつくっているのです。
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 (キムチ部・部長 栗川大輝くん)
 「最初はめっちゃ辛かったり、超まずかったり。時間がたてばどんな味が良いのかっていうのもわかってきたので、そこからは(味が)安定してきたかなと思います」

どうしてキムチ部?

 去年4月にできたキムチ部。コリアタウンの近くにあるこの学校ならではの学びの場を、と学校側と栗川くんたちが協力して立ち上げました。

 (キムチ部・部長 栗川大輝くん)
 「キムチ部っていう斬新さがおもしろすぎた。やりたいことないかなと探していたから、じゃあやりますって言って最初に手をあげさせてもらった」
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 顧問も含め全員がキムチづくりは初心者でしたが、できた自家製キムチは文化祭でふるまうなど、アピールを続けて部員は10人まで増えました。
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 でもどうしてキムチ部に?

 (1年 花田瞳吾くん)「初めて聞く部活やったので、どんなんかな~って思って1回体験きたらおもしろかったので」
 (1年 松本綾華さん)「どんな人がおるんやろうって思って入ってみました。おもしろい人がめっちゃいました」
 (部長 栗川大輝くん)「めっちゃ俺のこと見るやん」

コリアタウンの人たちも応援「私もキムチ部の親と考えて」

 キムチ部の活動は“漬ける”だけではありません。学校近くのスーパーに来ていたのも活動の一環です。市販のキムチを食べ比べ、味の研究をすることもキムチづくりには欠かせません。
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 (栗川くん)「リンゴっぽい甘さがあったくない?」
 (柳原くん)「コクがあるよな」
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 取材した日、部員らがやってきていたのは大阪コリアタウン。キムチを扱う店が20軒ほどありますが、目的は買うことではなく、自分たちのキムチをプロに食べてもらいアドバイスをもらうためです。

 (部員)「白菜とヤマイモのキムチを持ってきたんで、食べてもらうことはできますか」
 (店の人)「おいしくなってる。前より数段。十分、これでも。白菜がちょっと柔らかすぎるんやわ。塩のやり方をもうちょっと考えたらええと思う」
 (部員)「わかりました」
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 コリアタウンの人々にとってもキムチ部は特別な存在のようです。

 (キムチ店の人)
 「え、こんなんできるの!と思って。私もキムチ部の親と考えて。(Q我が子のような?)そうですそうです。うれしかったですよ」
 「何にしても興味好奇心を持つのはいいことやと思うから。自分の教えられる範囲はできるだけ教えるようにしている。かわいらしい」

たらこキムチや柿キムチ!?大会に向け試作重ねる

 多くの人の支えを得ながら地道に改良してきた白菜キムチ。創部から1年を迎える前に新たなチャレンジを決めました。漬物の創作レシピで競う「全国漬物グランプリ」の学生部門に応募することにしたのです。
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 一次選考はレシピの審査。ほかの漬物に負けないオリジナルキムチを、とアイデアを持ち寄ります。

 (2年 楊颯太くん)「普通の白菜キムチに飽きを感じている人に、きゅうりを入れることによってあっさりした味が増えることで、飽きを感じなくなるんじゃないか」
 (1年 松本綾華さん)「私が考えたのは『たらこ×キムチ』です。ちょっぴりカツオとか和の味がするとか」
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 後日、考えたレシピで早速、試作品づくりです。材料として選んだのは、たらこ・えだまめ・かぼちゃ・らっきょうなど。さらにはこんな変わり種も。

 (花田くん)「柿?」
 (沖田顧問)「柿もやろう」
 (柳原くん)「柿キムチってこと?」
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 柿の甘みとキムチだれの辛みの融合を狙います。ほかにも、たらこは生だけでなく炙ってから漬け込んでみたり、えだまめはキムチだれと炒めてみたり。
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 約3時間かけて8品を完成させました。
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 それぞれの味は?まずはたらこキムチから。

 (松本さん)「塩辛いな」
 (柳原くん)「辛い」

 柿キムチは?

 (柳原くん)「別にその…嫌いってわけじゃないです」

 どれもしっくりきませんでした。レシピの提出期限まで残り2か月です。

アドバイスを求めて大手キムチメーカーへ

 方向性が定まらない中、部員らが頼りにやってきたのは大阪のキムチ工場。約30種類のキムチを1日10~15トン生産する大手キムチメーカー「高麗食品」です。
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 工場長の黄成守さんは実は大会の厳しさを知る経験者でもあります。

 (黄さん)「僕も法人部門で申し込むんで。3年4年くらい連続で応募して1回だけです、本選に行けたん」
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 試作した柿のキムチの改善方法など具体的なアドバイスを求めます。

 (黄さん)「フルーツって何が難しいって、元がおいしいから、これ別に無理してキムチにせんでいいやんっていう」
 (柳原くん)「味の薄い食べ物ってあるじゃないですか。やっぱりそういうものが」
 (黄さん)「一番向いていると思います」

 食材をおいしく変身させることこそがキムチの醍醐味というわけです。そして、もう1つ大事なことが。

 (黄さん)「ごはんに合うしお酒にも合うしパクパク食べてしまう、ってなるのが一番理想的なキムチとしての姿かな。高校生なんでやっぱりごはんでしょ。合わすとしたら」

オリジナルレシピがついに完成!一体どんなキムチに?

 そして今年2月、キムチ部のオリジナルレシピが最後の試作段階にきていました。試行錯誤を繰り返してたどりついたキムチとは…。

 (キムチ部・顧問 沖田仁美先生)
 「大豆ミートを下味するんですけど、そぼろの味」

 白菜キムチとそぼろをかけあわせた、黄さんのアドバイスを生かしたごはんのお供です。そぼろは栄養価が高く低カロリーの大豆ミートを採用しました。
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 (栗川くん)「おいしいな」
 (松本さん)「うどんの上にのってそう」
 (栗川くん)「うどんの上のお肉の味がする」
 (沖田顧問)「めっちゃいいやん!めっちゃ肉になった。これでいこう」

 白菜キムチと混ぜ合わせれば完成です。

 ごはんと合わせて試食してみます。

 (栗川くん)「うまい。ちゃんとキムチの味もして、大豆ミートにつけた味もちゃんとしてるから、おいしいかなって思います」
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 4か月間の試行錯誤を経てようやくたどりついた自信作。キムチと大豆ミートの相性も問題なしです。これで漬物グランプリに挑みます。
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 (キムチ部・部長 栗川大輝くん)
 「キムチつくるところから考えたら1年かかっています。今年1年である目標の最終段階に、やっと初めての一歩を踏み出せたかなって感じがします」
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 この後、キムチ部の「白菜キムチ×大豆ミートのそぼろ」は見事1次選考を通過。今後は決勝に進み4月29日に結果発表となりますが、優勝すればメーカーから商品化される可能性もあるということです。初出場で初優勝という快挙を見据えてキムチ部の挑戦は続きます。