2月14日、日本銀行新総裁の後任人事案が国会に提示されました。人事案では総裁に経済学者で金融分野に高い見識を有する『植田和男氏』が選任されたということです。総裁になれば戦後初の学者出身者となる植田氏とは一体どんな人物なのでしょうか?金融政策へのスタンスや総裁が変わり『住宅ローン』への影響はあるのでしょうか?住宅ローンアナリストの塩澤崇さんに解説していただきました。
(2月16日MBSテレビ放送『よんチャンTV 』より)

―――日銀の新総裁候補、植田和男さん(71)の人物像ですが、「物腰が穏やかで紳士的、大学生からの受けも良い、話し上手で英語堪能。」だということです。これまで総裁には、日銀出身者と財務省出身者が交代で就任するのが慣例でしたが、戦後初めての『学者出身』となりそうです。住宅ローンアナリストの塩澤崇さんによると「政治や経済のしがらみがなく、正論が言える人。世界中の優秀な頭脳を味方につけられる」と、非常に前向きに捉えていらっしゃいます。

塩澤崇さん: そうですね、植田さんは経済学の学者出身ですので政治・経済から適度な距離感があり、「これが正しいこと、やるべきこと」と正論を言えるところに期待できる人物なんじゃないかと思います。金融政策、今ならアベノミクスをやっておりますが、これを続けるべきか変えた方がいいのか、こういったところを客観的に判断できる人ではないか、というのが第一印象です。

 東京大学を出て、マサチューセッツ工科大学で経済学博士課程を取った超一流の経済学者なので、海外とのネットワークっていうところもしっかりお持ちで、先日、ニューヨークの連邦準備銀行の総裁がわざわざ植田さんに対して「一緒に働けることを楽しみにしている」と、応援のメッセージを寄せたほどです。

 総裁も、アメリカのスタンフォード大学で経済学の博士課程を取っていて、MITは日本でいう東京大学みたいなもので、スタンフォード大学は京都大学みたいな感じなので、東大と京大でキャッチボールできるっていう、間柄でしょうか。

そもそも日本銀行総裁は、どんな仕事をしている?

塩澤崇さん: 最近は、世界各国中央銀行のトップは『超一流の経済学者』がなるという状況ですので、植田さんも仲間にスッと入れる、彼らからいろんなアイデアをおそらく引き出せると思うんです。日本にとっては、「世界中の優秀な頭脳を味方につけることができる」っていうことで期待できる存在なんじゃないかと考えております。

―――では改めて日本銀行は何をしているの?というところですが、「物価の番人」と呼ばれ基本的には「物価の安定を図り、国民の生活を守る」仕事です。日銀総裁の役割は、年に8回金融政策決定会合が行われ、ここで議長を務め、金利の水準などの方針を決めるという役割を担っています。現在の日銀総裁・黒田氏は「アベノミクス」の屋台骨、異次元の金融緩和政策を実行しています。塩澤さんは、この10年間をどのように評価されますか。

塩澤崇さん: そうですね、黒田総裁は低金利にすることによって日本経済を回復させることができると、金融政策に絶大な自信を持っていた方なのかなと思います。その良かったところは外野から何を言われようと、「もう低金利だ」とやり続けた点は、評価できると思うんです。

 一方で、金融政策で何でもできると考えていたがゆえに、例えば政府、今なら岸田さんに対して「もっとあれやって、これやって」という催促があまりなかった。そこが政府を野放しにしてしまい、緊張感がなかった点が、やや残念だったかなと振り返っています。

―――いっぽう新総裁候補の植田さんは、塩澤さんによると「金融政策の限界を知る人」ということですので、黒田さんとはずいぶん印象が違いますね。

塩澤崇さん: そうですね。昨年、植田さんが日銀の政策に対して意見を述べたことがあって、その時、いま日銀の低金利政策って二つの大きな柱があるんですけども、そのうちの一つに問題があるんじゃないかっていう形で疑問視してるんです。

 なので、低金利の理解はあるんですけれど、やりすぎて問題があるところはやってはいけないという限界を知っている人という印象があります。

――植田さんと、岸田政権との距離感はどうなりそうですか。

 適度な緊張関係が岸田総理と植田さんの間に生まれるんじゃないかなと思うんです。中央銀行がやることはやりますけれども、国がやらないといけないことは、で牽制といいますか、鞭を打つこともあるんじゃないか。適切な緊張関係が生まれて、より良くなっていくんではないかなというふうに考えています。

―――ここまで非常にいい話ばかりになっていますが、日銀総裁としての政策スタンスも確認しておきましょう。金融政策も「ハト派・中立・タカ派」という言い方をするんですね、金融緩和に積極的なのがハト派、引き締めに積極的なのがタカ派と呼ばれています。黒田総裁はハト派寄り、では植田さんのスタンスは、どうなのでしょうか。

植田氏の「金融政策スタンス」過去の発言などから推察すると 

―――塩澤さんによりますと、植田さんのスタンスは「中立よりはハト派寄りで、黒田総裁に比べるとタカ派寄り」ということですね。

塩澤崇さん: 2月10日にメディアからの取材を受けたときに、「現状の金融緩和は必要だ」というふうに発言していますので、全体的に見るとハト派寄り、中立と黒田さんの間ぐらいになるんじゃないかなと思います。

 あと、過去の発言っていうところで、彼は2000年頃に日銀の審議委員というのをやってるんですね。その時日銀は、「利上げをしよう(タカ派的な)」スタンスをとっていたんですけれども、それに対して植田さんは、反対票を投じてるんですよ。一連の言動を振り返ると、性急な金利引き上げ、これは多分ないんじゃないかなと、そう考えていいかなと思います。

―――いまの日本にとってわかりやすく言うと「ハトとタカ」どちらがいいんですか。

 そうですね、今結論から言うとハト派の方がいいかなと思っておりまして、というのが、残念ながら日本の経済、コロナ前の状況にまだ回復していないんです。まだ風邪を引いてるような、弱い形なので、体温を温めてあげる必要があるんです。お金の巡りを良くするっていうことですので、それを促すような金利を下げる低金利政策が今の日本にはフィットしてるんじゃないかなと思います。

―――では、私達の暮らし、例えば住宅ローン金利はどうなる?といういうことを、専門(住宅ローンアナリスト)の塩澤さんに伺いたいと思います。


―――塩澤さんによると「固定金利」は、長期金利を低く抑える政策(YCC)が解除されれば、連動して固定金利も上昇するだろう。現在1.8%ぐらいですが、最大2.5%程度に上がる可能性があるとのこと。いっぽう「変動金利」は、当面低いままで推移し、上昇は人手不足で賃金が上がる2030年以降か、とこのこと。2030年に状況がいろいろ変わってきそうということですか。

塩澤崇さん: そうですね。変動金利を上げるということは日銀が、マイナス金利政策という低金利政策の根本を大きく変えるときなんです。これをどのタイミングで行うかでいうと、賃金がしっかり上がる、経済のサイクルが回っている、これが確認できた後なんですよ。

 では日本において賃金がしっかり上がるタイミングがいつかとなるとですね、やはり【バブル世代の退職、これによって全産業に人手不足が起き、賃金がワーッと上がるこのタイミングなんじゃないか】と思っております。

 そういう意味で言いますと日銀が本格的に利上げをするというのはまだもうちょっと先になってしまうんじゃないかなというふうに考えられます。

―――新総裁の誕生で、私達の生活ちょっとでも良くなったらいいなというふうに感じます。現在の黒田総裁の任期は4月8日までです。