2019年にステージ4の「舌がん」がわかった歌手でタレントの堀ちえみさん。大手術から4年が経った2023年2月15日、東京で手術後初となるライブが行われました。手術やリハビリを乗り越えて再びステージへ立つ堀ちえみさんを取材しました。
堀ちえみさんを襲った「舌がん」…舌の6割以上を切除
(堀ちえみさん)
「たたたたた…、ららららら…、りにりにりにりに…とか、こう家事をしながら“ながらリハビリ”みたいな」
家事をしながら舌を動かすトレーニング。手術から約4年、今も1日も欠かさずリハビリを続けています。
1982年にデビューした堀ちえみさん(56)。「花の82年組」と呼ばれ、トップアイドルとして人気を集めました。その後は情報番組やバラエティなどに出演。幅広い活動を続けてきました。
そんな堀さんを2019年、突然の病が襲います。「舌がん」のステージ4でした。2019年2月に行われた11時間に及ぶ手術では、舌の6割以上を切除し、残った舌に足の筋肉などの一部を移植して舌の形を再建。さらに首のリンパ節に転移したがんも切除しました。
手術後のリハビリは飲み込む練習から始まりました。堀さんが自分で動かすことができるのは舌の付け根のあたりにわずかに残された本来の舌だけ。その本来の舌を使い再建した舌を動かすのですが、思うようにはできません。
声を出すリハビリもすぐに始まりました。新しい舌にあわせた50音の発声を一から身につけていくのです。
(堀ちえみさん)
「最初はもう気が遠くなるっていうか、現実を受け止めたくなくって。話ができないままでもいいかなとか、家族にジェスチャーで伝わればいいのかなとか」
話すための練習だけで精一杯。歌うことなどはまったく頭にありませんでした。
再びステージに立ちたいと思う一方で…『ファンをがっかりさせちゃうんじゃないか』
そんな堀さんを変えたのは、家族の勧めで渋々行ったボイストレーニングでした。手術前から通っていたボイストレーニング。以前は難なくできていたことが、新しい舌が邪魔をして思うようにできません。
(堀ちえみさん)
「落胆して、泣いて泣いて泣いて…。先生が『今、歌を歌える環境にあるということに感謝して、歌を歌いましょう』って。その言葉が…」
「なってしまった事は嘆いても仕方がない」「やらないと前に進めない」。諦めていた歌に向き合うことを決めました。
(堀ちえみさん)
「いろんな方が歌っている映像をずーっと見て、舌ばっかり見て。鏡を見て、どうやれば声が出て歌えるんだろうって研究して。そうしたら、とにかく口をあーって開けて、舌をへこませられないんだったら舌ごとへこませようと考えて」
自分なりの声の出し方を模索し続ける日々。これまで何度も歌ってきた自分の歌も歌詞を音読するところからのスタートでした。歌詞の言葉ひとつひとつの発音を見直し、1曲をフルコーラスで歌えるようになるまで1年近くかかりました。
ただ、歌への思いが強くなる一方で、再びステージに立つことには葛藤があったといいます。
(堀ちえみさん)
「ファンの方の昔のイメージを崩してしまう、がっかりさせちゃうんじゃないかとか、もう出ない方がファンの方のためになるのかなと思っていたんですけど。復帰をみなさんが望んでくださっていたということを知って。歌を歌っている私を、こうなっても望んでくれている方がいらっしゃるということがありがたいと思って。それに私は応えたいと思ったからがんばろうと思いました」
発音しづらくなってしまった『ちえみ』という言葉
手術から4年。堀さん自身としては約6年ぶりとなる今回のライブ。リモートで行うボイストレーニングにも力が入ります。歌詞に自分の名前が入ったアンコールの定番曲「CHIEMI SQUALL」を歌う堀さん。しかし…。
(堀さん)「♪ちえみ~好きよ~」
(ボイストレーナー)「『ちえみ~』がちょっと遅れますね」
(堀さん)「あー、『ち』がやっぱり、『ちえみ』って言いづらいから」
実は手術後、『ちえみ』は堀さんにとって発音しにくい難しい言葉に。何度も繰り返し歌い体に覚えさせます。
その後もライブメンバーとの音合わせなど、本番に向けて歌い込む日々が続きました。
復活のステージを待ち続けた「堀ちえみ親衛隊」
2月6日、この日はライブスタッフが一堂に集まってのリハーサルです。
(堀ちえみさん)
「キラキラ輝くようなステージにしたいと思います。どうかよろしくお願いいたします」
2日間にわたりオープニングからアンコールまで通しで曲をあわせていきます。ライブ本番まで9日。復活のステージが近づいてきました。
堀さんの歌を堀さん以上に信じて待ち続けてきた人たちがいます。
(堀ちえみ親衛隊)
「せーの!ちえーみちゃーん!」
「堀ちえみ親衛隊」のみなさんです。デビューから41年、ずっと堀さんを応援し続けてきました。
(堀ちえみ親衛隊)
「待ちに待ったという感じですね。ついにやっとここまできたかという感じです」
「絶対にまた歌ってくれると信じて、毎日みんなで励ましあって。本当にうれしいしかないです」
親衛隊といえば、歌の合間に大声で叫ぶ合いの手「コール」です。今回のライブでは20を超える楽曲が演奏されるようですが…。
(堀ちえみ親衛隊)「はっきりいって足腰がみんな弱い。(親衛隊総会長は59歳で)特に一番お年なんで」
(親衛隊 総会長)「最年長なんで私」
(堀ちえみ親衛隊)「全身全霊かけてがんばります」
『歌い続けてよかった。生きていてよかった』
そして2月15日、ライブ会場となった東京都葛飾区の「かつしかシンフォニーヒルズ」には、この日を待ちわびた多くのファンが詰めかけました。
(群馬から来たファン)「私がファンでずーっと聞いていたんで、子どももみたいな」
(子ども)「小さい時から聞いていたんで」
(群馬から来たファン)「本当に大変な時期を乗り越えたんで、何が何でも仕事を休んででも来ようと思って来ました」
(北海道から来たファン)
「高校生の時とかライブのチケットが手に入らなくて、1回だけ見に行けたのが高3のときだったんですけど。そこから数えて今日、今年ちょうど40年ぶりなんですごく楽しみにしてきました」
親衛隊も気合十分でスタンバイです。
ライブは1982年のデビュー曲「潮風の少女」で始まり、「クレイジーラブ(1984年)」「リ・ボ・ン(1985年)」などを歌います。
アンコールで歌われた「CHIEMI SQUALL」では、会場のファンと大合唱に。闘病を乗り越えて再び立ったステージ。信じて待ってくれていたファンとかけがえのない時間を過ごしました。
(ステージで呼びかける堀ちえみさん)
「ずっと見守ってくれてどうもありがとうございました」
(堀ちえみさん)
「歌うということを術後に1回手放してしまったけれども、今日はステージの上で歌ってよかった、歌い続けてよかったなって思ったし。あとはステージでも言いましたけれども、生きていてよかったって」