2月24日でロシアによる軍事侵攻の開始から1年となります。そのタイミングでロシア軍の大規模攻撃が懸念されていますが、ロシア軍の1日あたりの死傷者数が平均824人となっていて、NATO事務総長は「すでに大規模攻撃は始まっている」としています。ウクライナ情勢に詳しい岡部芳彦教授は「ひたすら突撃し、世界史上最も致命的な攻撃を繰り返すのではないか」としています。

また、これまで延期していたプーチン氏の「年次教書演説」。そこでは一体何が語られるのでしょうか?岡部氏が3つの可能性について解説しています。(2023年2月15日放送MBSテレビ『よんチャンTV』より)

◎神戸学院大学 岡部芳彦教授(ゼレンスキー大統領と2回面会 ウクライナから「内閣名誉賞」を授与されモスクワ留学歴も)

―――「ウクライナへの大規模攻撃は既に始まっている」と、NATOからコメントが発表されました。ロシアは侵攻1年をどういうふうに捉えているんでしょうか?

 こういうときはロシアのニュースを見るのが良くて、最近は一部トップニュースで扱うことが多いので、やはり攻勢が始まっているという認識だと思います。

―――イギリスの国防省は、ロシア軍の1日あたりの死傷者数が平均で824人。最小の時期と比べると、4倍以上多いわけです。岡部先生によりますと、「攻撃はひたすら突撃で徴集兵だけでなく、精鋭部隊の犠牲者が急増している。1916年ロシア帝国軍の、世界史上最も致命的な攻撃を繰り返すのか」どういうことですか。

 ウクライナ軍の将校がテレビのインタビューに答えて、「今までこういうふうな戦術っていうのは自分は学校で習ってない」と言い、「歴史の教科書でひたすら突撃ってのはあったけど、そういう攻撃なので自分たちもかなりメンタル的に厳しい」というように答えています。

独立メディア「第155海軍歩兵旅団が壊滅か」
神戸学院大学 岡部芳彦教授: 今まで膠着状態に陥っていた背景には、ロシア軍が力を蓄えていた、あるいは動員兵を訓練していた、と言われるんですけれど、一つ興味深いのは、「第155海軍歩兵旅団というのが壊滅した」という話がありまして、戦争が始まったときにキーウ攻略やブチャなんかにも投入されてたんじゃないかと言われ、一度去年壊滅してるんです。そこでまた兵士を集めて訓練をして投入したけど9割ぐらいが戦死したんじゃないか、とロシアの独立メディアなんか言ったりしてます。

―――これだけ見ると、大規模攻撃を仕掛けてるのはロシアなんだけれども、ダメージを受けているのもロシアというふうにも見えます。

 戦争1年に向けて、何か戦果を上げたいという意図があるので、かなり無理をして攻撃してるんじゃないか。1916年の話を挙げたのは、第一次世界大戦の末期にブルシーロフ攻勢というのがあり、同じようにドイツ軍を攻撃して、戦闘には勝ったんだけど国内が不安定になって後にロシア革命を引き起こすようなこともあるので、攻勢に出るときは政治的なリスクもあるのも事実かなと思われます。

―――プーチン大統領の頭脳と言われる極右思想家ドゥーギン氏は、「戦いの終わりはロシアの勝利か、人類滅亡の2択しかない」と話しました。岡部先生によると「互いに決定打に欠け、長期化は必至」だと。

 ドゥーギン氏はいつも同じようなことを言っていますので、今特に核兵器部隊に大きな動きはありませんので、あまり核攻撃の可能性はないかなと思っています。

「ウクライナ政府高官や国会議員と話しますと…」
―――いっぽうウクライナはあまり長引かせたくないというところですか。

神戸学院大学 岡部芳彦教授: ウクライナ政府高官や国会議員と話しますと、結構半年ぐらいで終わるんじゃないか、とかそういう予想をするんですね。彼らはあまり根拠がないんですけれど。ただ一つわかったことは、それに向けて計画を立てることがわかりました。

 例えば半年後に終わるってなると、ここら辺までにこの領土を奪還して、そのためにはこの戦車が要るとか、それで要求が出てくるという形です。去年10月に話したときは、春先に終わると言ってたんですけれど、最近は、秋までかかるんじゃないかという声が出始めてるのでそういう目標を立てているんだと思う。

―――ロシアは長期戦への覚悟ですか。

 ニュースなんかを見てると非常に興味深いんですけど、第二次世界大戦のレニングラードの包囲戦は900日続いたんですけども、本当は900日終わった日にやればいいのに400日目のときに記念日をして、「まだまだ続く、それに耐えたんだ」っていうことをよくテレビで放映しています。暗に第2次世界大戦の逸話を使って、もしかすると戦争はまだまだ続くかもしれない、備えないといけないっていう雰囲気作りをしてるんじゃないかなというふうに感じてます。

次の注目は プーチン大統領が演説で何を語るのか
神戸学院大学 岡部芳彦教授: プーチン大統領はよく、彼にとって記念する日に、戦闘行動を起こしたりしますので何かあるんじゃないかと。ポーランド国境なんかを見てますとウクライナの避難者なんかの出国が続いてますので、やっぱりかなり不安を感じているように感じる。

―――そして岡部先生が今後注目するポイントは「2月21日プーチン大統領が年次教書演説」で何を語るのかというところです。

①大攻勢で戦果を上げた。近い将来侵攻終結か ②特別軍事作戦はまだ続く。侵攻の長期化か ③ウクライナの非ナチ化を目指し、相手が倒れるまで戦うのか、このあたりが注目ですね。

 これは、議会に対してプーチン大統領が説明するもので去年はなかったんですね、実はその前の年の内容を改めて見ると、「もし西側がロシアに危害を加えるならすごい対抗措置をとる」ことを既に2年前に言ってたので、もしかすると今回の構想があったのかなと、今となっては思います。

 可能性を3つ上げたのは、全然違うことなのでどうパターンでいくかで、これからの流れがわかるんじゃないかなと。「大攻勢で戦果を上げた」と発表すればもしかしたら終結に向かうかもしれませんし、「特別軍事作戦続く」と言うかもしれませんし、「非ナチ化」は、最初と変わらない。

広島サミット「ウクライナから誰が来日するのか」
神戸学院大学 岡部芳彦教授: もう一つ、もしかすると4つ目のオプションとして、「動員についてのコメント」があったりすると国内の動揺も広がるし、あるいは方向性が見えてくるかなというふうに思っています。特別軍事作戦、戦争に参加した兵士もそこに並べると思うんですね。そしてやはりそういう雰囲気で、彼らはヒーローで、我々の戦いは正しいということは絶対強調するんだろうなと思います。

―――もうひとつ岡部先生の注目ポイントは、5月のG7広島サミット、「ウクライナから誰が来日するのか」。

 そうですね。G7と協力・相談しながら、どういう形で呼ぶのかとか、絶対話題になってるはずなんです。ゼレンスキー大統領は安全確保が難しいので、アメリカに行ったときはアメリカ軍機でしたし、この間イギリスに行ったときはイギリス空軍の飛行機でだったので、日本に来るのは難しいと思いますが、誰がなにで来るのかな、というのもちょっと興味深い。

 クレバ外相に関しては外務大臣ですので可能性としてはあるんじゃないかな。今後もしかするとサミットに向けて、毎月ウクライナの要人が来るようなこともあるのかもしれません。