中国からのもの思われる気球がアメリカに飛来、撃墜されたことで注目されています。実は日本にもこれまでに3回飛来しているのを目撃されていて防衛省は「中国の無人偵察用と強く推察される」としています。では、日本に飛来した時、アメリカと同じように撃墜できるのか?軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「高度の問題から日本のF15戦闘機では一発で命中させられるかはわからない」と話します。
(2023年2月15日MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――アメリカなどで確認されている無人の気球は、2019年に鹿児島で、2020年に宮城で、2021年に青森で確認されましたが、当時あまり危機感は感じられなかったといいます。アメリカ当局によりますと、気球の大きさは約60m、機器の重さは約900kg。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんによりますと、日本で発見された気球の一部は、アメリカに飛来したのと同じタイプではないかというのですが。

黒井文太郎さん: 仙台で見つかった気球は本当にそっくりです。そういうところから防衛省は今回そういう判断をしたということだと思います。

―――機器がぶら下がっているようですが、何だと思われますか?

アメリカの発表によりますと、地上を含めた通信を傍受するアンテナではないかということですね。通信用の電波を傍受してデータを蓄積していくためのものということですね。

発見されたものをですね過去にさかのぼるといくつかあるということなんですが、報告されている数はそれほど多くはないですよね。ただ見つかってない、もしくはそのまま見過ごされたというケースはあります。ただどのぐらい飛んだかという数字はちょっとわからないです

―――なんで気球なのか、偵察用は軍事の世界ではメジャーな存在なんでしょうか。

今は衛星であったり偵察機の時代ですよね。その後、気球をスパイに使ったのは1950年代の話ですね。1956年にアメリカが500機ぐらい一度に西ドイツやトルコから飛ばしてソ連の上空を飛んだことあるんですけれども、回収できたのは約1割で、半分ぐらいしか写真が撮れなかったんですね。そのためすぐ偵察機の時代に入りましたね。

―――では今どうして気球をまた使っているのか。

衛星に比べると低いですから、情報を集める可能性はあると思います。しかし、領空侵犯をしてしまうと大きな国際問題になりますので、偵察機を飛ばせないということで、気球であれば見逃されるだろうということが大きいと思います。

気球はゆっくり長い間滞在できるというメリットはあるんです。ただ衛星だと狙ったところに軌道を変えながら計算して誘導できるんです。しかし気球ですと、今回は操縦装置がついてますが、なかなか難しいですね。

―――サウスカロライナ州で撃墜された気球の飛行ルートなんですが、中国から漂ってカナダを通りアメリカに行った、これは気流に乗っていただけとみられるのでしょうか。

アメリカの有力紙(ワシントンポスト)がアメリカの情報機関の内部情報を報道したんですが、それによるとこのコースは、中国は意図してなかったようですね。本来であれば東の方に抜けていってアメリカのグアム、ハワイの軍事基地のあたりに飛ばしたかったのが、気流の関係で行ってしまったということらしいですね。

たまたまアメリカ本土のICBMの上空に来たんで、そこに滞在してたまたまそういう情報を取ろうという工作をしたみたいです。

―――でも気流に乗れば、中国から海を渡ってアメリカ大陸まで飛行することが可能なんですね。

通常そこまで遠くには飛ばさないんですが、高度によってそういうことが可能ですね。ただ上空の気流は天気ですから変わるんですね。思ったところに狙って、そこの上にいかせるというのは現実的に難しいと思います。

―――どうして中国は気球を飛ばしているのかというところなんですけども。目的はどのように見てらっしゃいますか。

はい、ピンポイントで特別な作戦でどこかを偵察したいというよりは、要はアメリカ本土も含めて基地も含めて常に情報を集めたいわけですね。そういった情報を集めるのに、もちろん衛星も使えますが気球を飛ばせば高度が低いから何かしら情報が取られる。何か特殊な作戦というよりは、常日頃から行っている情報収集の一環ではないかなと思うんです。

それぞれの情報はピースとして、あまりそんなに重要でもないんですけれども、中国は実はこういったピースを集めて分析する巨大な分析機関を持ってるんですね。それを刻々とアップデートしていかなきゃいけないので、そういった情報集めだったんではないかなと思いますね。

―――情報収集以外の目的や可能性として、攻撃をしてくるという可能性は。

攻撃は、アメリカに届くミサイルがなければ昔日本軍が風船爆弾を飛ばしたことはあるんですけれども、やっぱり誘導がほとんど効かないですよね。ですから気球を使うんであれば普通にミサイルを使うだろうなというふうに思います。

ジャーナリスト 立岩陽一郎氏: ランド研究所ってアメリカにありますけども、これアメリカの国防総省と非常に密接な研究です。そこの研究員が言ってたのは、19年前から実はあったんだと。ところが、気球ってね、レーダーに映らないんですよ。だからわからなくて、何だかわからなくて、アメリカは解析度を高めて高めて、やっと把握できるようになった。

撃墜っていうのはその結果なんです。だからアメリカも何か中国がやってるなって見てるわけですよ。でも把握できないので、撃墜という行為には至らなかった。今回そういうことが能力的にできるようになったっていうことでしょう。

―――気球だから、電波をキャッチするような動きも考えられるんじゃないかということは、黒井さんどうでしょう。

黒井文太郎氏: もちろん衛星でもできて、中国も力入れてるんですけれども、低い方が電波の発信源の位置特定とかそういった精度は高いと思うんですね。ただ先ほど言いましたけれども、ここを狙ったというよりは、ざっくりやったデータ収集用だということだと思います。

要するにばれないと思ったんでしょうね。気球は普段から民間のものを含めていっぱい飛んでますんで、そういった面では今までもばれないできたんですね。つい先ほど出たワシントンポストの報道なんですけれども、アメリカ情報機関は、これ海南島っていう南シナ海の基地から飛ばしてたんですけれども、もうそのときから飛ばことをわかっていて追跡したようです。

つまり、レーダーでキャッチする前に、情報機関が、中国がここでこういうことをやるぞという作戦を何かしらの方法でつかんで、最初からモニタリング、監視た結果ということですね。

―――今後、気球が日本にやってきたとき、レーダーで検知はできるのか。ミサイルで撃墜はできるのか。黒井さんによりますと、レーダーでの検知は「動きの遅い対象も検知できる設定にすればできる」

やはり、敵の偵察機とかをモニタリングするのがレーダーの仕組みでしたから。そういうものに関しては補足できても検知しない設定だったんですけれども、こういった遅いものに関してもやっていこうというふうに設定を変えて、その後カナダの上空とかでいろんな細かいものをキャッチしていったという流れだと思います。

―――ミサイルで撃墜の場合はどうなんでしょう。「低高度なら飛行が安定するので撃墜は可能」ということですか。

できないってことはないと思うんですけれども、今回もアメリカ北部の方で1回ミサイル失敗してるんですね。言うほど簡単ではないということが言えると思います。特に高い高度は、戦闘機なんかも空気抵抗がないですから、操作性が悪くなるんで、そういった意味では難しいんですけれど、今回「F22」という非常に操作性の高いものがありましたんで成功したということだと思います。

―――日本での撃墜の可能性は。

やろうと思えばできないことはないとは思うんですけれども、そう簡単ではないので一発でできるかっていうとわからないです。日本はF22持ってないので、一世代前の「F15」というものを使います。それなりのパワーがあるんで上昇はできますけれども狙いをつけるといいますかね操作性、そういったものが一発でできるかどうかというところですね。

―――撃墜でなく「網で捕獲する」などは、日本にもアメリカにも装備がなくて難しいんじゃないかと。

今までそういうのを私も見たことないんで、網が噴出するような爆弾みたいなものを作れば可能かもしれないんですけれども、なかなか難しいのかなと。仮に何100mとか何1000mぐらいまで、ヘリコプターが届くような高さまで下りてくれば可能かもしれないですけど、今のところはちょっと聞いたことはないです。