今年のスキー場は、コロナ明けムードに加え積雪も多く、大賑わい。一方で全国でバックカントリースキーによる事故も多発しています。そんな中、関西で最も人気のスキー場で、ゲレンデの安全を守る『パトロール隊』の1日に密着しました。
出勤は午前6時…安全確認から1日が始まる
滋賀県の北部・米原市にあるスキー場「グランスノー奥伊吹」。昨シーズンは関西のスキー場で最も多い延べ24万5000人が来場した人気ぶりです。
夜明け前の午前5時、スキー場はすでに動き始めていました。闇の中を走る圧雪車。ゲレンデのコンディションを整えます。
午前6時、パトロール隊が出勤してきました。パトロール隊に入って6年になる茂木翔平さん(32)。
ミーティングを終えるとすぐにゲレンデへ向かいます。
1日のはじめは安全確認から。14あるコースを隊員6人で手分けして見て回ります。そんな中、ある場所ではネットを張り始めました。
(パトロール隊 茂木翔平さん)
「(Q何の作業をしている?)ここの下が段差になっているんですけど、こっちから来たお客さまがそのままこっちに落ちないように、目印としてネットを張っています」
ネットは営業が終了すると撤収して、毎朝張り直しています。雪の積もり方や量などゲレンデの状況が毎日変化するためです。
リスクも伴うバックカントリー「助けにいく私たちも遭難のリスクを背負う」
スキー場の最高地点付近、取材した日の午前7時の気温はマイナス8℃でした。「立入禁止区域」という看板が立てられた場所がありました。
(パトロール隊 茂木翔平さん)
「ここから先はスキー場の管理区画外になります」
この先は整備されていないバックカントリー。手つかずの自然を楽しめる一方で、雪崩が起こるなどリスクを伴う雪山です。全国でも遭難事故が相次いでいて、今年1月には長野県で外国人2人が雪崩に巻き込まれて死亡する事故も起きています。うち1人は世界選手権で優勝したアメリカ人のスキー選手でした。
(パトロール隊 茂木翔平さん)
「バックカントリー自体がすべて悪ではないと思います。すごく楽しいアクティビティーだと思うんですが、やはりそれに伴って事故もあるので。それがもし起きてしまったときに、それを助けにいく私たちや山岳救助隊の方々も、同じ遭難のリスクを背負って入っていかなければならない」
昼食を食べようとした時に『ケガ人発生』の連絡
午前8時、営業開始。
隊員たちはゲレンデのパトロールに出発。緩んでいるネットを張り直したり、落とし物を拾ったりします。今のところ大きな事故もなさそうです。
(パトロール隊 茂木翔平さん)
「(トラブルは)やっぱり午後なんです。ふと気が抜ける瞬間があるみたいで、その時にアクシデントが起きることがすごく多い」
午前11時30分、少し早めの昼休憩。弁当を食べようとした、その時。
(電話で連絡を聞く隊員)「ケガ人、コース上に倒れている」
スノーボードで転倒した20歳の男性がいるとの連絡が入りました。
茂木さんたちはすぐに現場へ。頭を打っている可能性があることから救助用のボートに乗せて救護室まで運ぶことになりました。
(男性に話しかける茂木さん)「ノーヘルで滑っているから、安全策をとって」
【救護室でのやりとり】
(茂木さん)「こうなる前、どこまで覚えている?今、気持ち悪い?」
(茂木さん)「2人は見ていた?瞬間は見ている?」
(友人)「(転倒の)瞬間見ていました。飛んで背中から落ちてそのまま」
(茂木さん)「お医者さんじゃないから、ここで今の症状を劇的に治すことはできないんだけど、もうちょっと観察して、救急車にした方がいいのか自分たちの車にした方がいいのか考えたいから、まずもう今日は帰る準備しようか」
(友人)「わかりました」
男性はしばらく休むと体調が良くなりましたが、茂木さんからの勧めで、大事をとって病院へ行くことにしました。
午後にケガ人が次々と訪れる救護室
その後も救護室には次々とケガをした人たちが訪れます。茂木さんが予想していたように、一転、慌ただしい午後に。
滑走中に友人とぶつかり、あごから出血した大学生。
(茂木さん)「1回消毒はするわ。血は止まっている」
(男性)「この辺、病院とかはないんですか?」
(茂木さん)「山の中だからね。麓の病院まで40分かかる。最終的な診断をするわけじゃないけど、経験上、縫うことは回避できそう」
幸い傷口は浅く、病院に行くほどでもなさそうです。
(Qパトロール隊にみてもらってどうですか?)
(男性)「やっぱり安心しました。近くに病院もないので、ここでみてもらえるのは大きいのかなと思います」
(パトロール隊 茂木翔平さん)
「来た傷病者の方をみて、いかに早くどうやって病院まで運ぶのか、ということを第一に考えて隊員全員が動いています」
ケガ人の対応も落ち着きようやく午後1時前に昼休憩です。
(茂木さん)「(弁当を)温め直しです」
茂木さんがパトロール隊を志したのは小学5年の時。スキーで転倒して足を骨折した際にパトロール隊に助けてもらった経験からだそうです。
過去に手当てをした人がお礼を伝えに来訪
午後3時、パトロール本部に1人の男性が訪ねてきました。
(隊員)「もしかして、ゆうた?」
(男性)「えー、覚えている」
(隊員)「覚えている。どう?」
(男性)「(体を動かす)」
(隊員)「動く動く。良かった良かった」
大学4年の山口佑太さん。去年12月、コースを外れて沢に転落。
何とか自力で救護室までたどり着けましたが、その後パトロール隊に手当てをしてもらうなど助けてもらったといいます。そのときのお礼にとやってきたのです。
(山口佑太さん)
「温かい言葉をかけていただいて、いろんな方が僕の様子を見に来て、『大丈夫?大丈夫?』みたいな。(Qその時の板は?)これです。取りに行ってくれた。捨てる覚悟で崖を上がったので、まさか取ってきてくれるとは思っていなかったし、うれしかったですね」
転倒したとみられる男性…緊急性が高く救急車を手配
営業終了まで1時間となった午後4時。
(電話で話す茂木さん)「本部です。…ケガね。わかりました。行きます」
50代の男性が倒れているとの連絡が入ります。
(周りに知らせる茂木さん)「たぶんボート。柱に当たった、頭が」
男性がいる現場に到着しました。
(茂木さん)「意識レベル確認します。救急車呼んどいて」
男性はスキーで滑走中に単独で転倒したとみられ、動くことができません。緊急性が高いことから救急車を呼ぶ手配をします。
(茂木さん)「今ちょっと運ぶ段取りしているから、ちょっと待ってね」
(救急隊)「救急隊です。お名前言えます?」
救助から20分後、救急隊に引き渡しました。
「私たちが目立たないくらい安全なスノーリゾートになれたら」
この日は計11人の負傷者を救助。午後5時、パトロール隊の長い1日が終わりました。
(パトロール隊 茂木翔平さん)
「ここで仕事をしていく中で、ケガをする方をゼロ人にしていくというのが最終的なゴール地点になると思いますが、私たちがただ裏方として存在して目立たないような、それくらい安全なスノーリゾートになれたらなと思います」