新型コロナ感染は収束へ向かっているとはいうものの、では卒業式はマスクは必要?春の卒業式シーズンを迎えて政府は『卒業式でのマスク不要』の方針を示しています。ただし、体調不良や距離をあける、換気するなどの考慮ポイントも。アメリカの小学校のマスク無しでの感染者数の増加は5%弱という調査結果も。こうしたデータについて、新型コロナ訪問診療チームの「KISA2隊(きさつたい)」の小林正宜医師は、感染拡大のきっかけになる可能性に触れた上で、「そのときの流行状況がポイント」と指摘しました。(2023年2月9日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

小林正宜医師(大阪の葛西医院の医院長で、若手医師を中心とした新型コロナ訪問診療チーム「KISA2隊」大阪隊長。在宅治療で厳しい状況下のコロナ患者に寄り添う医療活動はMBS「情熱大陸」で取り上げられる)

アメリカの学校調査でマスクなしの感染拡大率は4.49%

---葛西医院の小林正宜先生にお話を伺います。連日コロナの患者さんを診ていらっしゃいますが、最近の感染者数とか、感染された方の症状をどのように感じていますか?

感染者数は落ち着いてきたというような状況で、往診数もピークの10分の1近くまでになっているような状況ですので、状況としてはいい状況が来ているというところだと思います。

---そんな中で、卒業式など学校の式典でのマスク着用の判断について、どうやっていけばいいのかというところです。マスク着用の有効性を考える研究があります。アメリカのマサチューセッツ州で小・中学校を対象に行われたもので、マスク着用の義務を継続した学校とマスク着用解除した学校を15週間にわたって比較しました。その場合に、解除した学校で感染者は1000人あたり44.9人増えたとの報告があったそうです。5%弱という数字になりますが、これを多いと思うのか少ないと思うのかは人によるかもしれません。この数字どう思われますか?

人によって多いと感じるのか少ないと感じるのか。ここからさらにどれぐらい拡大していくのか。拡大のきっかけを作ってしまうかもしれませんし、というところになると思います。

---15週間に限っての研究でしたからね。一生に一度の卒業式や入学式ではマスクを外して参加したいという気持ちも理解できます。マスクを外す際の考慮ポイントは▼体調に不安な人は参列を控えましょう▼参加者同士の距離をあけましょう▼会場の十分な換気は確保してください▼着用・不着用はあくまで本人の意思を尊重しましょうということです。先生は考慮ポイント4つありましたけども、どういうふうに評価されますか?

4つのポイントは非常に重要かと思います。それに加えて流行状況というのも非常に重要なポイントかなと思います。今のように感染が落ち着いている状況であれば、比較的安全にマスクを外すことができるんじゃないかと思いますし、かなり流行が逼迫しているようなときには少し強めにマスクをしていただくということも臨機応変さが必要じゃないかなと思います。

---そして大人にも関わるこういったニュースが入ってきました。マスクの着用ルールを、3月上旬にも屋内屋外を問わず個人の判断に委ねることで調整していくということです。5類に移行する5月8日を待たずに3月上旬にもこういったことにしようかということ。そしてJNNの世論調査で今後のマスクについてどうされますかと、まさに個人の判断の部分を聞いたわけですけれども、すると▼屋内屋外問わず外すという方が10%▼屋外では外すが屋内ではつけるという方が31%▼屋内外問わずつけるという方が33%▼まだ決めていないという方も22%います。64%は屋内ではつけるということですね。屋内外問わず個人の判断に委ねますという岸田文雄総理の発言について、佐藤さんはどういうふうに思われますか?

マスクルールの個人判断は「岸田総理の政治的理由」

(毎日新聞元政治部長・佐藤千矢子さん)
1つ理由としてあるのは、5月に広島でG7サミットがありまして、アメリカのバイデン大統領をはじめ各国の首脳が来るわけですね。皆さんマスクしてないですね、母国では。そういう人たちに、日本に来るからマスクしてくださいっていうのか、あるいは岸田さんが逆にバイデン大統領たちに合わせて記念撮影のときにマスクを取るのか。どっちにしても非常に日本国民との差が出ると難しい、批判を浴びやすいので、なるべくマスクを取りたいっていうのが、政権の意向として、スケジュール感でね、5月19日からのサミットをにらんであるんだと思うんですよ。ただあくまでもそれは感染状況に倣ってやらなきゃいけないので、そこがちぐはぐにならないように進めていってほしいなというふうに思いますね。

---小林先生は、5類になってからの医療体制が不透明であると、医療機関や公共機関、密集場所においてはマスクの着用が望ましいとおっしゃっています。重症化リスクのある人を守るためにマスク着用を推奨するような方針も必要なんじゃないかということ。やはりリスクの高い人をどう守るかということは大切ですね。

(葛西医院 小林正宜医師)
はい、その点が非常に重要だなと思ってまして。マスクをするという意味合いが2つあります。自分を感染から守る、これは皆さん意識しているところだと思うんですけれども、もしも自分が無症状の感染者だったとしたら周りにうつしてしまうかもしれないと。それを防ぐ意味でもマスクをして、特に高齢者の方、重症化リスクの高い方が今なおコロナ感染すると重症化して命に関わるということ方が多くいらっしゃいますので、そういう意味では、医療機関とか人が密集している場所においてはマスクをしていただく方がいいんじゃないかなというふうに思っています。

---自分がかからないじゃなくて、自分が感染させないという意味のマスク。外す場合だけではなくて付ける場合っていうのもやはり呼びかけていかなければいけませんね。そして刻一刻と変わっていくわけですが、大阪府では3月末で新型コロナに関するいろんな事業が廃止されます。まず大阪コロナ重症センターなどの臨時医療施設は3月末で廃止です。また、確保病床を上回る患者の受け入れをしてくれたところへの協力金など、各種協力金支援事業も廃止となります。また、ワクチンの大規模接種会場の設置や運営も3月末で廃止となります。こういった11の事業を廃止し、また1つの事業を縮小していくという。先生は自宅療養者が増えるんじゃないか、症状の重い人が増えるんじゃないかということを気にされてるわけですね。

今のような流行が落ち着いている時期においては大丈夫だと思うんですけれども、感染者が増えて流行期に入ったときに、病院がですね、ベッドを受け入れる側が十分なベッドを確保しているにもかかわらず、さらに受け入れてほしいと要請があったときに、協力金があるかないかで受ける側のモチベーションがたぶん変わってくると思いますから、そういう意味では協力金もある意味重要なポジションを占めていたんじゃないかなというふうに思います。結果的にこれがなくなることで自宅での療養患者さんが増えるのではないかなということを懸念しています。

ワクチン接種は年に一回へ、公費負担は検討

---そしてもう1つ、私たちはどうやってコロナと付き合っていくのかということにも関わりますけれども、ワクチン接種について今後も年に1回となるのではないかということです。厚労省のワクチン部会で話し合われましたが、接種時期は、今年の秋から冬にかけて接種をするべきであり、来年度以降もずっと年に1回接種するのが望ましいのではないかと。この理由に関して、有効性は接種してから1年程度であり、感染者や亡くなった方が年末年始に増加傾向であったということで、このちょっと前の秋から冬にかけて接種するのが望ましいのではないかということです。そして費用ですけれども、4月以降も当面は公費の負担を検討しています。そして、2024年度以降は重症化リスクが高くない人の公費負担は検討されていくのではないかということです。秋から冬ですとちょうどインフルエンザワクチンを受けるときと同じですから、同時接種ができるかも。小林先生は、現場ではワクチンを受けていない人の重症化を実感しているとして、現状は公費負担が望ましいのではないかというご意見ですね。

実際に診療していると、ワクチンを打っておられる方と打っておられない方の感染したときの症状の差が歴然としていて、だいぶ違います。我々としてはぜひ打っていただきたいということがあるのですが、もちろん例えば3か月に1回打ちなさいとか言われても、なかなか受け入れづらい状況だと思います。年に1回インフルエンザと同じタイミングでいいので受けてくださいということであれば、受診も1回で済みますし、2回ちょっと注射しないといけないんですけれども、皆さんの負担も減るんじゃないかなというふうに思っています。