和歌山県紀の川市で当時小学5年生の男の子が殺害される事件がありました。発生から2月5日で8年を迎えようとしていますが、遺族には加害者から未だに謝罪や賠償金の支払いがなく、苦しむ日々が続いています。

最愛の息子…肩や頭など10か所以上を刺され殺害

空き地に伸びた草を丁寧に刈っていく男性。森田悦雄さん(74)です。森田さんは8年前の2015年に、最愛の息子をこの場所で亡くしました。

(森田悦雄さん)
「寒いところであの時もここで倒れていたけど、お父さんは精一杯のことができなくて申し訳ない気持ちで…」

カメラに向かってにっこりと笑う男の子。森田さんの次男・都史くん(当時11)です。
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2015年2月5日、当時小学5年生だった都史くんは自宅近くの空き地で遊んでいた最中、刃物で頭や肩など10か所以上を刺されるなどして殺害されました。

(森田悦雄さん)
「『体はかなりズタズタにつかれているから、見てもらうことができない』と(医者に)言われた。手を握り続けていたが徐々に冷たくなりつつあったので、『私の手から離れていくな』と感じました。今までよく頑張ってくれてありがとうと耳元で言いました」
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自宅には当時都史くんが着ていたダウンジャケットがあります。ダウンジャケットには切り裂かれた跡や血が付いた部分など、当時の状態のまま残されていました。

逮捕されたのは近所に住む男…謝罪の言葉は”一切なし”

逮捕されたのは近所に住んでいた中村桜洲受刑者(30)。中村受刑者は殺人などの罪に問われ裁判で懲役16年の判決が2019年に言い渡されました。判決から3年経ちましたが、裁判中から含めて、受刑者から森田さんたちへの謝罪の言葉はこれまで一切ありません。

(森田悦雄さん)
「1人を殺めても16年で済むんだなと。やっぱり私たちも悔しい。そこに親らの謝罪が無いということよ。ほんまに反省の色がないということやな」

加害者から賠償金の支払いもなく…裁判費用を払い続ける日々

裁判での態度や判決に納得がいかず悔しい思いを抱いていた森田さん。中村受刑者を民事裁判でも訴え、4444万円の損害賠償の支払い命令を勝ち取りました。しかし、判決から4年がたった現在まで1円も支払われていません。

その一方で森田さんには経済的な負担がのしかかっています。森田さんはこれまでの民事裁判での裁判費用など約40万円を分割で支払い続けているのです。支払い回数は85回。森田さんはその支払いのためにも74歳となった今も、バス運転手の仕事を続けています。

(森田悦雄さん)
「年金と言っても多額にもらっているわけではないし、お金がかかるということになるとどんな風に対応したらいいかと」

殺人事件で支払われる賠償額は「13.3%」

日本弁護士連合会が2018年に行った調査では、加害者に賠償を求めたケースで、裁判などで認められた賠償額のうち実際に被害者に支払われた金額は、殺人事件で13.3%、強盗殺人事件で1.2%などとほとんど支払われていないのが現状です。

支払い応じない加害者「逃げ得」させぬには「再提訴」

賠償金が支払われず苦しむ遺族は森田さんだけではありません。大分県国東市の佐藤悦子さん(71)。
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2003年、次男・隆陸さんが鹿児島県の奄美大島で飲酒運転をしていた当時19歳の少年の車にひき逃げされ死亡しました。少年には懲役3年の実刑判決が下されましたが、現実を受け入れることはできませんでした。

(佐藤悦子さん)
「加害者に対しては憎しみしかなかった。どうして逃げた、どうして息子を助けなかったんだって。この男の手によって息子がいなくなったっていうその現実を自分の中で消化していくのが難しかった」
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「自分で犯したことに責任をもつべきだ」として佐藤さんも損害賠償を申し立て約5000万円の支払い命令が認められました。

しかし、森田さんと同様に賠償金は支払われていません。損害賠償を命じる判決は10年で時効を迎えるため、佐藤さんは2015年に再び提訴し時効を延長させました。
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(佐藤悦子さん)
「被害者は20年も息子を待ち続けているのに帰ってこない現実と日々向き合わなければならない、あまりにも違いすぎる。私が再提訴しなければ責任を逃れてしまう」

「一番の願いは加害者からの謝罪」

1月24日、森田さんは神戸にある犯罪被害者の支援団体「犯罪被害補償を求める会」を訪れていました。

受刑者本人や親などさらに賠償を追及できる可能性がないかを探るため相談に来ていたのです。

支援団体の代表である藤本さんはさらに当時の資料などを確認したいとして、裁判資料などを開示するよう森田さんにアドバイスをしました。

事件から2月5日で8年。森田さんは何とか謝罪と賠償金を得られるよう前向きに取り組んでいきたいと話します。
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(森田悦雄さん)
「被告人であった中村桜洲(受刑者)に、常識のある対応、謝罪が第一だと私は願っておりますので、8年になるんですけどまだまだこれから戦いになると思います。(私も)子どものために精一杯頑張っていきたいと思います」