高齢者とペット飼育の課題について考えます。高齢者にとってペットは、癒やしでもあり生きがいでもありますが、万が一病気などにより飼えなくなってしまったら…という不安もつきまといます。最近相談が増えているという高齢者のペット飼育支援に取り組む団体を取材しました。一体どんな活動をしているのでしょうか。

腰痛悪化でエサやり困難に…自宅へ出向き飼育支援

 NPO法人が行うペットの飼育支援。病気などでペットの世話が難しい一人暮らしの高齢者の自宅にスタッフが出向き、原則無償で世話を手伝います。

 (スタッフ)「お世話に入ります。エサとお水をやり替えますね」
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 毎日20分程度、ネコのトイレ掃除やエサやりなどを手際よくこなします。

 (スタッフ)「エサをきのう残していたから半分にしておきますね。それならちゃんと食べてくれるからね」
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 この家に住む70歳の高齢男性。持病の腰の痛みが悪化してエサをやるのも難しくなってきたことから支援を依頼しました。

 (飼育支援を頼む70歳の男性)
 「水をやることもできへんし、腰も曲げられへんし、当然ごはんもあげられない。命を守ってあげないとあかん、でも自分の力ではどうしようもできない。もう感謝しかないです。こういう組織がないともうお手上げ」

 兵庫県尼崎市の動物愛護団体「C.O.N」。約3年前から、ペットを飼育する高齢者の支援を行っています。副理事長の桑畑和子さんは最近特に相談が増えてきていると話します。
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 (NPO法人C.O.N 桑畑和子副理事長)
 「(高齢の)独居の方が多いので、寂しいからついつい、ネコは散歩にも行かなくていいから手ごろに飼いやすいというのがあるわけですね。体調がよろしくなくて施設にやむやむ入らないといけない、だけども『ネコがまだ残っています』『このネコをなんとかしたい』と相談がある」

『多頭飼育崩壊』『病気で世話できない』高齢化社会で浮き彫りに

 日本では約3分の1の世帯がイヌやネコなどのペットを飼っているとされています。一方で高齢化社会が進む中、浮き彫りになった課題があります。

 室内を埋め尽くしたネコの画像。飼い主が不妊手術などをしなかったため、気付いたときには61匹まで増えていたといいます。こうした多頭飼育崩壊は高齢の飼い主が正確な知識を持たず起こすケースも少なくありません。
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 また、多頭飼育崩壊とまでいかなくても、飼い主が病気になって世話ができなくなり衛生環境が悪化している場合もあります。残されたネコは新たな飼い主が見つからなければ、行政が引き取るなどして、そのうちの一部はやむを得ず殺処分されているのが現状です。

ネコを置いて入院できない…77歳の相談者

 C.O.Nは、介護ヘルパーやケアマネージャーと連携して、こうした高齢者からの相談を受けています。

 一人暮らしの77歳の女性。飼っているネコの世話をしている際に右ひざを痛めたといいます。

  (桑畑副理事長)「これフード持ってきたからね」
 (77歳の相談者)「すみません、ありがとう」
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  (桑畑副理事長)「脚はどんな感じ」
 (77歳の相談者)「エサをやるのに座ったり立ったりしたら『プチンッ』といって。それからもう痛くて歩きにくいし」

 今後、もしかしたら手術が必要になるかもしれない状態ですが、ネコを置いては入院できないと不安になり、相談を持ち掛けました。
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  (桑畑副理事長)「放置して悪くなったらいけないからしっかり診てもらって、また手術するときには代わりに私たちがエサやりに来るし。心配せんでも何かあったら見にくるし」
 (77歳の相談者)「ちょっと気持ち的に安心。涙出てきた…」
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 万が一の際にはどうしたいのか、事前に話し合うことで飼い主は安心でき、ネコも路頭に迷うことが防げます。去年1年間で50件以上の相談を受け、現在は9軒の訪問支援を続けています。

保護活動も…多くは『ネコも高齢』

 しかし時には飼い主が急に入院したり亡くなったりして引き取り手がないネコもいます。C.O.Nは連携するシェルターでそうしたネコを保護して、新たな飼い主を探す活動もしています。
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 (シェルターを運営する西尾美香さん)
 「このネコちゃんは、高齢の方が認知症がひどくなってしまって病院に急きょ入ることになってしまって、飼う人がいないということで来た」
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 高齢のネコが多く、医療費だけで年間200万円以上かかるといいます。行政の支援はないということで、寄付などで賄っているため厳しい運営状況ですが、最近はこの施設で飼育が許可されている上限の70匹余りを保護しています。

 (NPO法人C.O.N 桑畑和子副理事長)
 「高齢ネコの場合だったら譲渡が難しくなってきますし、長年の飼い主さんとの生活があるから、よそに飼われたとしてもすぐになつかない。慣れている私たちが引き取ったほうが安心なのかなというケースも最近は増えていますね」

高齢者が安心して飼育できる『預かりボランティア制度』も

 こうした状況を少しでも解消しようと取り組んでいるのがネコの預かりボランティア制度です。尼崎市内に住む70代の夫婦はC.O.Nの紹介で約1年半前から高齢ネコのシオちゃんを預かっています。

 (シオちゃんに話しかける70代夫婦)
 「はい、ここおいで。シオちゃん」
 「動く気ないな」
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 譲渡先が見つかったり、万が一、夫婦の体調が急変して飼えなくなったりした場合は、C.O.Nがもう一度引き取るシステムになっています。
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 (シオちゃんを預かる70代夫婦)
 「ネコ飼っていたからね、私ら若いころ。預かりくらいはしてもいいかなと思って。若いネコはよう飼わないし、(通常の飼いネコの場合)もしものことがあったら譲らないとしかたないけど、そんなかわいそうなことをようせんしね」
 「(ネコが)おったほうがいいですね。嫁さんとだけやったら息が詰まるんで」
 「潤滑油やね、ネコちゃんはね」

 シェルターに加えて預かりボランティアを多くの人にしてもらうことで、保護できるネコを増やすこともできます。さらにペットと暮らしたい高齢者が安心して飼うことができる仕組みにもなっているのです。

「飼うことで高齢者が元気得られることもあるしネコも助かる」

 C.O.Nの桑畑さんは、こうした取り組みを通して、高齢者もペットも取り残されることのない世の中になればと話します。

 (NPO法人C.O.N 桑畑和子副理事長)
 「高齢者だからペットはすべて不可、ではなくて、飼うことによってその人が元気を得られることもありますし。またそうやって飼っていただけたらネコちゃんも一匹でも多く助かるわけですよ。ペットも人間も同じように幸せになれるような社会になれたらいいなと思っています」