フィリピンの入管施設に収容されている「ルフィ」や「キム」という男が犯罪を指示しているとされる組織的強盗事件。SNSの闇バイトの応募で集められた実行犯が「犯罪組織から足を洗うのは難しい」と話すのが犯罪ジャーナリストの石原行雄氏。闇バイトに気軽に応募する中で身元や家族構成を聞かれてしまい、足抜けしようとすると「家族や警察にばらす」と脅されることで抜けられなくなるといいます。一方こうした強盗事件のターゲットにならないために「ふだんからSNSで派手な生活や不在日時を明かさない」「無料の訪問販売業者を家に上げると家の間取りや財産の状況を知られる」と注意を呼び掛けています。
◎犯罪ジャーナリスト・石原行雄氏(国内外で特殊詐欺事件や危険地帯・裏社会で多数潜入取材)
(2023年1月30日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

「特殊詐欺はピラミッド構造で、逃亡のしやすさから海外移転型になっている」

---ジャーナリストの石原行雄さんにお話を伺います。
石原さんは日本や海外での特殊詐欺をはじめ様々な事件や犯行を取材されているということで大変お詳しいということです。
テーマは「組織的犯罪グループが関与か、全国で相次ぐ強盗事件」。指示役はルフィと呼ばれていたり、キム・ヨンジュンというふうに呼ばれていたりということですが、フィリピンの入管施設に収容中の4人の日本人が、特殊詐欺グループと関連かということです。日本で摘発が続いている連続強盗事件に関与しているのではないか、指示を送っていたのではないかということです。まず豊田さんはどう考えてますか?

(コメンテーター豊田真由子氏)
私はむしろ日本とか先進国の方が特殊で世界の中では途上国ではこういう権力を持ってる人が賄賂で動くっていうのはむしろ当然のことで、むしろその方が多分多いんだと思うんですよね。それは本当にこういう違法なこともそうだしビジネスをやる上では、例えば中国とかベトナムとかでも日本企業へ行くときも賄賂を渡すことでしか成立しないとか、私達の常識で考えるとありえへんと思うんですけど、多分途上国では逆にあれが普通だと思うんですよもう一つ政治的なことを言うと、日本に対してすごく今回のフィリピンの当局がものすごく協力的だと思うんですけど、去年の6月にフィリピンって大統領が変わりまして、マルコスっていう大統領になったんですけども、米中がすごく対立している中でやっぱアメリカについておこうというふうに思っていて、そうすると親米であり親日であり、そこでやっぱりこういうことって国としては恥なわけだから、これを何とか威信をかけても何とかしようと思ってると思いますし、2月に来日するんですね、マルコスさんが。それまでにも何とかしようと思っているので、ここがみんな正念場だと思います。

---石原さんによりますと4人は中堅あたり、組織全体のトップは別にいると思われる。だからこの4人のまだ上にいると。元々は典型的な海外移転型の特殊詐欺グループと思われる。石原さんこれ海外移転型というのはどういう意味なんでしょうか?

(石原行雄氏)
特殊詐欺の構造がトップから末端の実行犯までピラミッド型の構造をしているんですけれど、この海外移転型というのはその中でも特殊詐欺時代の「かけ子」という役割のグループですね。それを当初は国内で例えばマンションの一室をタコ部屋のようにしてかけ子を入れて、そこでノルマを課して電話させてたりしてたんですけれど、やはりその過酷な状況ですね。トップが反社なので、その安い給料で使われるので逃亡したりするわけですから、それを防ぐために海外に行ってですね。例えば19年にフィリピンなんかでも摘発例、タイのパタヤでも大きな日本のかけ子グループが摘発されてますね。かけ子の末端の人間ってのはパスポートなんか取り上げられて、もうそこで働くしかないという状況になるわけですね。そうすると自分たちの手下も逃げないですし、また仮に日本から捜査の追っ手が来ても物理的に離れてますから、逃亡する時間も稼げるという、いいことずくめということで海外移転型にしたんですね。

---その組織図なんですけども先ほどピラミッドっていうお話が石原さんからありましたけども、実行役とされるのが闇バイトなんですけども、主犯格が一番上に行って指示役がいて、リクルーターと呼ばれる人たちがいてこの人たちがSNSを使って募集をすると。例えば「日当100万円」ですよとか、「タタキの仕事」と。これは強盗のことを意味するんだそうです。実際に実行役がSNSなどを使って申し込んでいるという現状があるということですね。ですから石原さん、その日本人4人が収容されていますけども、4人はこの指示役と考えていいですか。

はい、おそらくそのポジションだと思われますね。

SNSで闇バイトを募集、キーワードは「#高額」「#日払い」

---石原さんご自身はこのリクルーターと呼ばれる人たちに直接取材されたこともあるんですよね。この人たちはどういう人たちなんでしょうか?

そうですね、やはり役割分担があって、受け子は受け子、出し子は出し子とセットで働いたりすることもあるわけです。かけ子はかけ子でまた別のところに行ってその連中を、そういう実行犯を集めるためにリクルーターというのがいてですね。それはもう常にSNSにいて、例えば「高額バイトがありますよ」みたいな形で誘い文句でちょっと心揺れ動いたような人が、大体ダイレクトメッセージなんかを送ればすぐリアクションをして口八丁手八丁で仲間に引き入れて登録させる。
それ専門の係がいるということです。2020年の暮れぐらいまではですね、もう露骨に「受け子出し子、高額バイトあります闇バイト裏バイト」みたいな文言で誘っていたんですね。ただやはりその社会問題にもなりましたからおそらく警察からSNS事業者への指導なんかもあったと思うんですね。2020年の後半から抽象的な言葉で、例えば「#高額」ですとか、「#日払い」っていう抽象的な言葉で、その事業者なんかもわかりにくいような形でアカウントを作って情報を流してるっていう形になってますね。

---だからそれが犯罪だと気づかずに、もしかしたらアクセスしてしまう人がいるかもしれないですね。

そうですね、より抽象的な言葉になったんで、もうやっぱりお金必要で一生懸命仕事探してる人が知らないうちに犯罪を元々やるつもりもないのに、気づいたらそういうアカウントを見ててちょっとついDMを送ってしまうみたいなこともありうると思います。

闇バイトは応募するだけでも抜けられなくなる仕組み

---一度そういう仕事を受けてしまうと非常に恐ろしいなと思うんですけども、こんなことになってるんだそうです。闇バイトから足を洗うのは難しい。マニュアル化された手口で脱退を防いでいるということなんですね。そのマニュアル化という部分で言いますと、「追い込みをかけるぞ」そして「家族情報で家族に追い込みをかけるぞ」と。一度やった犯行をネタに「警察に密告するぞ」と脅しているということですよね。

そうですね、やんわりとなんですけれど、私が覆面取材をして闇バイト探してるような、応募者のふりをして取材しますと。もう必ずほぼ必ずといってその身分証明書を求められてですね、その上で家族構成あるいはその一人暮らしをしていれば実家の住所、実家の家族構成全員の名前ですとか、もう事細かに個人情報を取られるわけですね。そのときは例えば、「いや、ちょっと高額のバイトなんで審査が必要なんですよ」ですとか、あるいは登録の際のいろいろ空欄埋めてくださいみたいな形でさらっと言われるんですけれど、おそらくその上層部というのは基本的に反社会的勢力ですから、いったんそういうものを渡してしまうと、やっぱり応募した翌日、一晩寝て冷めて「やっぱり犯罪のパターンはできないよ」「どう考えてもと思って止めます。やりたくないです」って言うと、「じゃあこういうものありますけどどうしますか」みたいな形でやんわりと脅されるっていうことですね。

---なるほど、だから自分の個人情報をね、ちゃんと扱うっていうか、そんなところに簡単に出してしまうということ自体やっぱり考えないといけない。じゃあどうしたらいいのっていう話なんですけども…

闇名簿の流出を防ぐのは非常に難しいんだけども、例えばSNSで、華美な生活、華やかなきらびやかな生活をアップしたり、SNSでこの時間帯は家にいないということがわかるようなメッセージは載せないということであるとか、あとは訪問業者を安易に部屋に上げないなど、自分でできる限り守らなければならないということですね。そうですね最近流行ってる「不用品を無料で回収します」とか、あるいは「貴金属今高くなってるんで買い取ります」っていって、押し買いみたいのもありますけれど、急に営業が来て引き取るんで、あるいはその貴金属見てあげるんでちょっと部屋に上げてください、それで部屋上がると間取りとか家族構成とか見極めて、それでこの家入れるなとかっていう材料を与えてしまうことになりますね。

---その辺りを自分で自分のことをしっかり守るという意識を皆さんにもぜひ持っていただきたいと思います。ジャーナリストの石原さんに解説をしていただきました。