1月19日に紀伊水道沖の海底へと沈められたマッコウクジラの死骸。具体的に標本を引き取るという申し出はないとされていましたが、大阪市立自然史博物館が標本取得を希望していたことがわかりました。費用面でもより安くなるという標本化はなぜ選択されなかったのでしょうか。
大阪・淀川の河口に迷い込み、1月13日に死んでいるのが確認されたオスの「マッコウクジラ」。水産庁などによりますと、15mという巨大なクジラの処分には一般に3つの方法があると考えられています。
1つは地下に埋める「埋設処分」。時間が経てば肉が分解されて骨だけが残り、骨格標本としての活用もできます。
2つ目に死骸を焼く「焼却処分」。
そして3つ目が今回大阪市が選択した海に沈める「海底沈下」です。
(大阪市 松井一郎市長 1月17日)
「海から来たクジラくんですから、亡くなってしまったら海に帰してあげたい、僕はそう思っています」
1月19日、マッコウクジラの死骸は紀伊水道沖の海底へと沈められました。ただ一方で、この間、クジラの専門家らは学術研究や安全面、そして費用の観点から、地下に埋めて標本化する「埋設処分のメリットが大きい」と指摘していました。
そんな中、1月20日、クジラを含めて様々な動物の骨格標本を展示している大阪市立自然史博物館が、ホームページ上で今回のクジラについて標本化を希望していたことを明らかにしたのです。
【大阪市立自然史博物館のホームページより】
「当館としてはぜひ入手したいと標本化希望の意向を伝えてきた。大阪湾、そして太平洋の現在を知ることができる重要な標本になることを期待して取得を希望した」
大阪市立自然史博物館では、メスのマッコウクジラがすでに標本化されているため、オス・メス合わせての展示ができるのではないかと期待されていました。
(大阪市立自然史博物館 佐久間大輔学芸課長)
「マッコウクジラはオス・メスで頭の大きさが違うらしくて。見比べることによって発見できることってたくさんあるんですよ。歯があったりなかったり、違うんだなと見てわかると思いますので、そういうのを見比べることが学習の基礎だと思っています」
子どもたちの学習や学術的価値だけでなく、費用面でもメリットがあるといいます。2021年に大阪湾に打ちあがった「ニタリクジラ」。大阪府堺市内で地中に埋めてから骨が取り出されていて、骨格標本化への作業が着々と進められています。
(大阪市立自然史博物館 佐久間大輔学芸課長)
「標本にするというのは、陸上処理をするときにむしろ安くなる方法の1つだと思います。骨という一番重たくかさばる部分を残せるわけですから、クジラの処理の方法を安く上げるための1つの手法だと私たちは考えています」
活用法や費用面を見ても利点の多い埋設処分はなぜ選択されなかったのか。クジラが死んだ1月13日、骨格標本の希望があるかどうかについて松井市長は次のように話しました。
(大阪市 松井一郎市長 1月13日)
「まだそういう報告は受けていません」
そして海に沈める処分が発表された1月17日も次のように話しました。
(大阪市 松井一郎市長 1月17日)
「(Q骨格標本としてほしいとの声もあったが?)そういう声は一部あるかもしれないけれども、具体的に標本を引き取るという申し出はありませんから」
大阪市立自然史博物館からの骨格標本の希望は市長の耳に届いていなかったのでしょうか。大阪市は標本が作れる埋設処分ではなく海底沈下に決めた理由について次のように話しました。
(大阪市の担当者)
「埋める場所がなく、腐敗も進んでいて、少しでも早い処理が必要だった。『埋設処分するなら』という話だったので、標本化の要望については市長に話していない」
また今回かかった費用についても「精査中でコメントできない」として見積もり額についても明らかにはしませんでした。
(大阪市立自然史博物館 佐久間大輔学芸課長)
「総合的な判断ですから、やむを得ない部分ではあると思っています。今後のためには、こういった時にどういうふうに協力したらいいのかなということは、ぜひ前向きに考えたいなと思います」