日本で以前はよく見られた中国人観光客による『爆買い』。それがコロナ禍を経た今『シン・爆買い』といえる新しい形の爆買いが大阪で始まっているようです。その現場を取材しました。
シン・爆買いの現場は…インターネット通じたライブ配信!
訪日外国人の爆買いスポットだった大阪・ミナミのドン・キホーテ道頓堀店。
そこから少し離れたところに北館がありましたが、ここがシン・爆買いの舞台となっています。クマのイラストに、看板には「大阪熊」の文字。にぎわっているようには見えませんが、一体どんな爆買いなのでしょうか。
案内された部屋では女性がスマートフォンに向かって熱弁を振るっています。
(スマートフォンに向かって話す人)
「私の肌を見てください!私もいつも使っていて効果あり。香りがすごく付きますよ。カバンの中にはミニサイズの商品を入れています。きょうは大瓶を買えばミニサイズをプレゼントします」
平日の朝にもかかわらず、画面の向こうでは1000人を超える視聴者がいました。実はこれは中国で人気の『ライブコマース』です。
SNSを使って商品情報やその使い勝手の良さなどを生配信して商品を売り込みます。配信の視聴者はその場で商品への質問もできて納得して購入することができるという双方向型の新たな通信販売です。
取材した日は、4つのスタジオで同時にライブコマースが行われ、約5時間で総額600万円以上の売り上げがあったといいます。
取り扱っている商品は約4000点。中でも中国で最も売れているのはナットウキナーゼ配合の健康食品だそうです。
(大熊物産 チョウ・ティンティンさん)
「納豆を食べる習慣が日本人の健康面を支えていると中国人は信じていて、納豆そのものは食べられないのですが、サプリメントを食べている人が結構多いです。(去年の11月11日)『独身の日』に1日で2万個(約1億830万円)売れました」
1日の最高売り上げ1000万円超!『KOL』と呼ばれる存在
配信者の報酬は売り上げの20%~30%ほどだといいます。
(20代の配信者)
「(Qこれまでで一番の売り上げは?)13万元(約250万円)。4~5時間くらいで」
中でもトップセールスを誇るのが高興さん(34)。SNSの総フォロワー数は300万人以上。1日の最高売り上げはなんと1000万円以上で、『KOL』と呼ばれる存在です。KOLは「Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー)」の略で、配信者の中でも多くのフォロワーがいて、その言動が中国市場に影響を与える人のことです。
(KOL 高興さん)
「私がファンたちに商品をオススメしたときに、みんな本当にすぐ買ってくれる。(KOLを)やっぱり信じる。応援するみたいに買ってくれる。特に関西でたぶん私たちが今トップですね。だから(中国に進出したい企業から)めっちゃいろいろ連絡が来る」
商品PRのライブ配信をミナミの観光地で!?
関西トップKOL・高さんのライブコマースとは。配信の様子を見せてもらいました。女性2人と外出して出向いたのは、大阪の名所のひとつ、戎橋。
【ライブ配信の様子】
(女性)「大阪に来たらここで写真を撮らないと損だよ!」
(高さん)「皆さん見てくださいよ。後ろは人がいっぱいだよ!何をしているか?写真を撮っているんですよ!皆さんも撮ってほしい!この後ろには龍角散の看板があって、その隣にはスターバックス。大勢の観光客がここに来る。多いときには通りにくいくらい、にぎやかなんだ!」
女性たちを撮影しながら、高さんが畳みかけるように声をかぶせていきます。これが高さんのスタイル。
大阪・ミナミの観光地を紹介すること約30分。
【ライブ配信の様子】
(女性)「こんなに視聴者が集まってくれたのは見たことない!」
(高さん)「ライブコマース参加者が3500人だよ!3500人!続けて見てくれる人を増やしていこう」
視聴する人が増えてくるとようやく商品の説明です。商品は中国人に人気のサプリメント「ナットウキナーゼ」。
【ライブ配信の様子】
(高さん)「ライブコマースに参加しているお兄さんたち、特に30代~40代の人たちはここで絶対買わなきゃいけない。なぜなら皆さんの年齢になったら何が出てくるだろう?」
( 女性)「三高(血圧・血糖・脂肪)!」
(高さん)「お兄さんたち、普段の健康の中で気になる数値があるならこれを買わないと!」
平日の配信ながら、たった4時間で約500万円を売り上げました。
(KOL 高興さん)
「日本が好きな人がどんどん見に来て、特に関西が好きな人。関西ではほぼ私たちだけがライブコマースをやっている。日本での買い物や観光は全部ライブ配信になっている。ライブ配信で爆買い」
KOLの役割は「日本企業と中国人消費者の真ん中の橋」
2012年に日本の大学への留学で来日した高さん。在学中に貿易会社を起業するなどやり手実業家です。3年前から配信を始めた日本の観光地などの動画がバズリ、フォロワー数が急増。ライブコマースのKOLとなりました。
関西のトップKOLが住む部屋を見せてもらいました。大阪市街を眺望できる部屋で85平方メートルの3LDK、家賃は43万円で、一人暮らしをしているということです。
(KOL 高興さん)
「(Qすごい眺めですね?)そうですね。夜景がキレイですね。(Q成功したと思いますか?)成功は…ちょっと成功していますね。もっと日本の良い商品とかを中国人にオススメしたい。みんなが知らない商品でも、KOLが紹介したら、(信用できて)みんな買える。だから(日本企業と中国人消費者の)真ん中の橋ですよ。これがKOL」
KOLと日本企業とをマッチング!「取り扱い会社数はここ数年で数十倍に」
急成長するライブコマース市場。KOLと日本企業とのマッチングを行う会社も出てきています。東京都渋谷区にある「ロクトーナ」は、7年前に設立されましたが、コロナ禍以降、中国進出を目指す日本企業からの問い合わせが急増しています。
(ロクトーナ 根本光社長)
「取り扱いの会社の数でいいますと100社以上に増えましたので、(ここ数年で)数十倍になったかなという印象であります」
去年11月、オフィスを訪ねてきたのは美容機器や化粧品を扱う大阪の会社でした。
(ワイズリンクス 梁瀬伸吾社長 商品を紹介する様子)
「結構見た目も変わっていて、マスクがついているんですけど」
商品は微弱な電流を流すマスク型の美容機器です。
(ロクトーナ 根本光社長)「これでKOLにやってもらえたらインパクトあるかもしれないですね」
(ワイズリンクス 梁瀬伸吾社長)「見た目はインパクトあると思うんですよ」
この会社では、コロナ禍で国内の売り上げが伸び悩み、中国へ新たな市場を求めてライブコマース参入を決めたといいます。
(ワイズリンクス 梁瀬伸吾社長)
「(コロナでインバウンドが)入ってこないのであれば、国内で消費いただけないので。国内で消費いただけないのであれば、我々から(海外へ)出ていくしかないと。ただ我々も(コロナ禍で海外へ)出られなかったじゃないですか。であればライブというデジタルなフィールドで商品を外にアウトプットしていくしかないのかなと」
KOLの商品PRで売り上げ5倍の会社も!
ロクトーナの根本社長は、打ち合わせが終わると、またすぐに別の企業との打ち合わせです。ロクトーナが人気の理由は、社長をはじめほぼ日本人スタッフで、言葉の壁がなく信用性が高いため、日本企業として相談がしやすいからだといいます。
契約をすると、美容に詳しいKOLや宝飾に詳しいKOLなど、商品に合ったKOLと日本企業をマッチング。
専門の知識をもつKOLが商品PRすることで、売り上げを5倍に伸ばした会社もあるということです。根本社長はライブコマースはまだまだ伸びていくと自信をのぞかせます。
(ロクトーナ 根本光社長)
「ライブコマースというものが中国の方々に根付いているという印象を受けます。物を買うんだったら『ライブコマースを見て買おうか』というぐらい浸透している認識ですので、(ライブコマース市場は)これからも多分伸びていくのかなと」